楽しい時間
素人考えだから、本当にそうなのかはルシャに判定して貰わないと意味がない。
お気に召すかな? とルシャの方を見てみれば、ルシャは森に足を踏み入れるなり歓声をあげていた。
「うっわ、すごい! めっちゃ素材だらけじゃん!」
ルシャは歩きながらあっちの草、こっちの木の実、キノコや蔦、苔や木の皮、果ては土だの何かの羽や抜け殻だのまでをじっくりと検分してはたまに採取してバッグの中に大事そうに収納している。
「いい素材はあるかい?」
「うん! 特に変わった素材ってのはないけど、やっぱり街で買うよりも状態がいい素材が多いから、きっといい薬ができると思うよ」
「それは良かった。管理小屋くらいまではまだ人の出入りも多いけど、もっと奥に行けばもっと状態がいいのがあるかも知れないな」
「ホント!? これホントに僕が採取し放題でいいの!?」
「もちろん。ルシャが使ったくらいで無くなったりしないよ。でもその様子なら、出来るだけ森の奥まで行ってどんな物があるのかを確かめておいた方がいいだろう」
「うん! ワクワクしてきた!」
「もうすぐ管理小屋に着く。簡単に中を見て貰って、食事をとったら森の奥に進もうか」
「飯なんか歩きながらでいいよ。歩きながら食べれるもの買ったじゃん。僕、少しでも奥まで行きたい」
「ふふ、了解。さぁ、管理小屋が見えて来た。これから君が住むかも知れない家だ」
明るい森の木々の向こうに、なんの変哲もない質素な丸太小屋が見え隠れする。
「うわ、思ったよりデカい」
「中は二部屋とトイレくらいしかないけどな。生活用水は家の前にある井戸、風呂なんて洒落たものはないから、井戸の水を浴びるくらいしかできない」
「充分! 森での生活もそんな感じだったよ。水は井戸じゃなくて泉だったけどね」
「ふうん、ではレイサルよりもタニルの森の方が環境が近いのかな」
「タニル?」
「ああ、父が言っていただろう? ほかにも幾つか候補があるって。ここよりも王都からは時間がかかるからあまり勧めないが、管理小屋の近くに泉があるんだ。あそこは遠いけれど地形が変化に富んでいるから、レイサルとは違う物も色々採取できるかもしれない」
「うわぁ……」
私はうっかり吹き出してしまいそうになった。
だってルシャときたら、まるで恋する乙女のようにうっとりとした表情を浮かべているんだから。
本当に錬金が好きで、色々な素材への興味や関心が高いんだろうな、と微笑ましい気持ちになった。お父様も採取して良いと言っていたことだし、ルシャが行きたいと言うなら他の森にもそのうち案内してやろう。