レイサルの森へ
「はぁぁぁぁ〜〜〜……緊張したぁ!」
全力のため息をついて、ルシャが大きく伸びをする。私はクスクスと笑いながら、彼の後ろをゆったりとついて歩いた。
「悪かったね、父がどうしてもと言うものだから」
「騎士団長ってやっぱり思った通り裏が無さそうな人だけどさ、それはそれとして、やっぱり緊張はするよね」
「だろうね。これから君をレイサルの森に案内しようかと思っていたんだけど、疲れてるみたいだから今度にしようか」
「!」
そう言った途端、ルシャの足がピタリと止まる。ゆっくりと振り返ったルシャは、少しだけ赤い顔で私を見上げた。
「……行きたい」
「レイサルに? 行って、森の中を案内して戻るまで、少なくとも半日くらいはかかるけど、体力的には大丈夫?」
「むしろ森に行ったらめっちゃ元気出るから、平気……!」
そっか、ルシャは森の民なんだった。森にいた方が自然体でいられるんだろう。
そう理解した私は「分かった、行こう」と答えつつ、さっと自身の装備を再確認した。大小の剣も佩いているし、靴も森を歩いても問題ない履き慣れたブーツだ。
ルシャは軽装だけれど、長袖のアンダーの上にしっかりとした白の短いローブを羽織っていて、足元も長靴だ。歩くだけなら問題ないだろうし、レイサルの森程度の魔獣ならルシャを守りながら戦うくらいわけもないだろう。
まだ昼の鐘もなっていない時刻だ、少し奥まで案内したとしても明るいうちに戻って来る事が出来るだろうし。そう結論づけた私は道の先にある屋台を指す。
「じゃあ、昼食にできるような物を買って行こうか。森の中で食べればきっと美味しさも倍増する」
「……レオニーってホント、侯爵家の令嬢だとは思えないこと言うよね」
そんなものだろうか。木漏れ日の中で食事するのは、皆一様に美味しく感じると思うけど。
少し疑問には思ったけれど、ルシャが面白そうに笑っているから何だかそれでいい気がした。二人で簡単に食べられそうな物を色々とチョイスして、ワクワクしながらレイサルに向かう。
どんな森なのか楽しみで仕方ないらしいルシャからの質問に丁寧に答えているうちに、私達はあっという間に王都の門を抜け、草原を越えて、レイサルの入り口付近にまで到達していた。
「王都から普通に歩いて半刻程度でほどほど近い森だろう? 魔獣や植生も特に目立ったところはないけれど、毎日通うならこれくらい近い方がいいかと思ったんだけど」
低木や広葉樹が主で木漏れ日もさすから下草も豊富に生えている。季節ごとに花が咲き実がなり、森としての命に溢れた場所だ。
だいぶ奥の方まで行かなければ強い魔獣や変わった素材は取れないかも知れないが、ここでも充分に森で採取するような一般的な素材は手に入るんじゃないだろうか。