穏やかな話し合い
「無論だ。騎士団では今よりも質のいい薬を求めている。先日見せてもらったが、君の作る薬は非常に質がいい。ぜひ定期的に納入して欲しい」
「ちょっと時間貰えれば、もっと質のいいのも作れますけど」
質がいい薬を作れる事をあまり簡単に誰にでも吹聴しないように忠告したというのに、相変わらずルシャは平気で腕前をアピールする。お父様の目元が緩んでいるのは、私と同じように彼の正直さを好ましく思ってくれたのかも知れない。
「うむ、そうか。それは頼もしいな。して、どのような薬が作れる?」
「さすがに蘇生は無理ですけど、それ以外なら材料さえ揃えばなんでも」
「普通に手に入る材料ならどれくらいの物が出来る?」
「ええと、止血、解毒、痛み止め、麻痺止め、栄養剤や眠り薬、魔物避けや魔物寄せでもなんでも。疲労回復とか治癒薬も納入する物は中レベルの効果だけど、少し時間を貰えればMAXレベルまでは作れるから……」
お父様の目が僅かに大きくなった。これは相当驚いてると思う。
「……そうか。なるほど、レオニーが支援したいというのも頷ける」
「支援?」
「ああ、君は住まいを探していると聞いた。それも出来ることなら森の中がいいんだろう?」
「は、はい……」
「この王都に隣接するレイサルの森は我がシュヴァル侯爵家の領地でな。管理用の山小屋で良ければ使ってくれ。生活用品は揃っているが一新しても改造しても良い。費用はこちらが出そう。それが俺からの礼の気持ちだ。レオニー、ルシャ殿への案内と生活用品の手配は任せたぞ」
「はい!」
「ええっ、いや、僕そんな……」
「少し奥に入れば騎士団の鍛錬にも使う程度には強い魔物が生息しているが、入口付近は魔物も多くなく植生は豊富だ。良い材料が採取できるだろう。……だが、そうだな。君が気に入らないと意味がないな。レオニー、近々実際にレイサルの森を見て貰った方がいいかも知れないな」
「ええ!?」
「分かりました」
「ルシャ殿、直轄の森は他にも幾つかある。レイサルよりも気にいる森があればそこでもいいし、レオニーが一緒なら他の森も採取に使ってくれ」
「いいんですか……!」
いいの? と不安そうだったルシャの目が、ここにきてキラキラと輝き出した。新しい素材を求めて海を渡ってきたという彼のことだ、きっといろんな森で採取をできるという話に期待が上回ったんだろう。
「少しは喜んで貰えただろうか」
「はい! すごく嬉しいです!」
「良かった。それでは謝礼は君の住まいと森での採取権という事にしよう。それと……薬の件については、後ほど欲しいものをリストアップして渡すから、それを納入して欲しい」
「分かりました」
「君の錬金の能力は衝撃的過ぎる。穏やかに暮らしたいのであれば、気軽に話さない方がいいだろう。俺も効果の高いものは緊急の時のために密かに騎士団で保管しようと思う」
「そうして貰えると助かります。僕も、騎士団長とレオニーは信頼出来るから話してるだけなんで」
「……そうか、君に信頼して貰えるのは光栄だ。これからもよろしく頼む」
そうしてお父様とルシャの話し合いは、私が特に口を挟む隙もなくとても和やかに終わったのだった。