お父様の目的
緊張した面持ちのルシャと、微笑みを浮かべたお父様の顔を見比べて、私は密かに安堵する。
実は先日、ルシャの了承を得た上でお父様に彼が作った薬……それも、簡単に量産できるという傷薬と疲労回復薬を見せた。お父様はひとしきりその質の高さに感嘆した様子で、ひとつの条件さえ満たせば定期的に買い取る事も、私が彼を支援することも許す、と約束してくれた。
そのたったひとつの条件がこうして顔を合わせる事だったのだから、お父様の真意を測り切れていない私は少し緊張していたのだ。
私が彼を支援するということは、シュヴァル侯爵家としても無関係ではいられない。もしかしてお父様なりに、ルシャの人となりを確認しておきたかったのかも知れない。
ゴツくて顔が怖いのはどうしようもないけれど、できるだけルシャが緊張しない様にとお父様が気がけてくれているらしい事は私にも分かる。けれど、ルシャが腰掛けたところをみはからってお父様が深々と頭を下げた時にはさすがにちょっと驚いてしまった。
「まずは君に礼を言いたい。レオニーの傷を治癒してくれたんだろう? ありがとう」
「ええ!!? あ、いや、血ぃダラダラですごい傷だったから、つい。別に礼を言われる程のことじゃ」
「いや、本来ならばこちらから出向いて礼を言うべき内容だった。騎士科の教官が、レオニーが顔に酷い怪我を負ったと真っ青になって報告に来たくらいだ。目立つ傷が残るレベルの相当酷い怪我だったのだと思う」
「それは、まぁ……グロい傷になってたとは思うけど」
「それが跡形もなく消え去っていた。あれは君の薬のおかげなのだろう? 本当に感謝しているのだよ。君が目立つことを嫌っていると聞いたもので足労願う事になり申し訳ない」
「え!? そのために僕呼ばれたんですか!?」
「それがひとつと、商談を兼ねてという事になるだろうか」
「あ、なるほど……」
納得したような顔になったルシャが、ふとこちらを見る。目が合って、つい微笑んだ。
お父様がいきなり深々と頭を下げたのには驚いたけれど、ルシャは私にとって確かに恩人だ。私がルシャに感謝しているように、お父様もまた、ルシャに直接感謝を示したかったのだと理解した。
「娘の未来を救ってくれた事に相応しい謝礼を……」
「親子だなぁ」
言いかけたお父様に、ルシャは困ったような笑顔を浮かべる。
「自分で作った薬を塗ってあげただけで、本当に大した事してないから謝礼とかいらないんで。それよか、騎士団で僕の薬を定期的に買い取ってくれるってレオニーに聞いたんですけど、本当ですか?」
「……」
どうしても謝礼はいらないらしい。早々に話題を変えようとしてくるルシャの顔をまじまじと見つめたお父様は、フッと笑みを溢すとひとつ大きく頷いた。