【ルシャ視点】借りてきた猫の気分だ。
レオニーとそんな話をして、たったの二日後。
僕はなぜかレオニーの家っていうか、シュヴァル侯爵家のデカい屋敷の中でひとり、ちんまりと座っていた。
思ってた貴族の邸と違う……。
さっき通った廊下の向こう側はめっちゃ広そうながらんとした部屋で、石造りの頑丈そうな部屋だった。多分あれ、室内の鍛錬場なんじゃないかな。
しかもこの部屋。多分応接室だけど、飾り気のない重々しい感じの革張りのソファと、僕じゃ引き摺ることすら出来ないだろう重量感半端ない大理石っぽいテーブルが威圧感たっぷりに据えられている。
滑って転んで頭でもぶつけようもんなら命を落としかねないんじゃないかって心配なくらいに硬そう。
全体的に鈍色で飾りっ気のない無骨な感じの邸。貴族の邸ってもっとこう、キラキラして無駄に装飾されてたり薔薇だの絵画だの飾られてるもんじゃないの?
この邸にある飾りモノなんて、剣だの槍だの盾だのばっかりで、しかも所々に気味が悪い魔獣の置物とか飾り物まであるんだけど!?
邸から押し寄せる圧迫感にひとりびびっていたら、応接室の馬鹿でかく重たい扉がギギギ……と鈍い音を立てて開いた。
「やあ! 待たせて悪かったね」
「レオニー!」
「? えらく緊張しているようだけど、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。ただでさえ強面の騎士団長に直接会って話すなんて緊張するのに、レオニーの家、なんかめっちゃ圧迫感すごいし」
「……そうか? 普通だと思うが」
僕の訴えに答えたのは、レオニーじゃないバリバリに渋い重低音のバリトンボイスだった。レオニーの後ろからのっそりと現れたのは、他でもない強面騎士団長その人だ。
「ひえっ……」
一緒に来てるなら言ってくれよ! 僕めっちゃ本心喋っちゃったじゃん! 強面騎士団長とか言っちゃったじゃん……。
恨みがましくレオニーを見たけれど、「?」な顔をした後にっこり笑顔を向けられただけだった。絶対に僕の心の叫びは通じてないと思う。
僕はバッと音がするくらい勢いよく立ち上がって礼をした。
「お久しぶりです!」
「君が渡航して陛下に謁見に来た時以来だな。元気にしているようで何よりだ。学園には慣れたか?」
「はい!」
元気良く返事をする。僕は基本的に長い物には巻かれる主義だ。
騎士団長は微笑みを浮かべて俺を見下ろす。一見怖そうだけど目元は優しい、どこかやっぱりレオニーと似た雰囲気があって、親子なんだなぁと感心する。
「そんなに畏まらなくていい。かけたまえ、互いに時間がもったいからな、早速本題に入ろう。……まぁ、俺の顔が怖いのは仕方がないから慣れてくれ」
フ……と右の唇の端だけ持ち上げて、騎士団長はニヒルに笑う。冗談を言ったつもりかも知れないが、正直愛想笑いしか出来ないからな?