【ルシャ視点】思いがけない提案
そんな事をぼんやり考えながら見上げていたら、レオニーはふと柔らかく微笑んだ。
王子様より王子様っぽい微笑みに、こりゃあ女達が騒ぐのも頷ける、と密かに納得する。僕ですらちょっとドキッとしたもんね。
無意識なのが余計にたちが悪い。
「それで、なんなの?」
一向に話し始めないレオニーに、僕は視線を逸らしつつそう促した。
「ああ、実は今日は君に……将来についてどう考えているかを聞きに来たんだ」
「将来って」
思いもかけない言葉に、僕の頭は一瞬白くなった。まさか昨日初めて話したばかりのレオニーから『将来』について聞かれるなんて思わなかった。
「あ、ええと……なんて言えばいいのかな」
言い淀んでいるみたいだけど、レオニーが何を話したいのかなんてさっぱり分からないから、とりあえず小首を傾げておく。こういう時は変に言葉を発するよりは、黙って相手の言わんとする事を聞いた方がいい。
「ルシャの作る薬は質がいいし、材料さえあれば定期的に作る事は可能なんだろう?」
「……うん」
「充分に商売にできるレベルだと思う」
「ありがとう」
「で、ルシャが望むなら私の父に紹介したいと思うんだけど、ルシャは将来についてどう考えているの?」
「待って」
いきなり意味が分からない。
「なんでそこでいきなりアンタの父親に紹介するとか、将来がどうとかいう話になるわけ!?」
聞き返したら、レオニーは一瞬キョトンとした顔をして、次いで困ったように笑った。
「ごめん、色々考え過ぎてちょっと上手に説明出来なかったみたいだ。座って落ち着いて話そうか」
「そりゃいいけど」
レオニーに導かれるまま、僕は薬草や本の合間を縫ってテーブルへと戻る。自分の部屋なのにエスコートされるとはこれ如何に。
座って紅茶に口をつけ一息つくと、レオニーはゆっくりと話し始めた。
「私の父が騎士団の団長なのは知っているよね?」
「もちろん」
この国に来たばっかりの時に、王宮で顔合わせした事がある。いかつくて無表情だから一見怖いけど、あの場にいた誰よりも心が静かで僕は結構好きだった。
「騎士団では今よりも質のいい薬を求めていてね、ルシャが望むなら父に定期的に薬を買い取ってもらえるように紹介することが出来ると思うんだ。私の父は堅物で不正や搾取が大嫌いだから、適正な価格で買い取ってもらえると思う」
「ああー……それは、そうかもね」
「でもルシャがもっと手広く作った物を売ったりしていきたいなら、父から善良な買取ができる商人を紹介して貰う事もできると思う」
「なるほど」
「他にも商業ギルドで買い取って貰うことも出来るだろうし、薬屋とか雑貨屋とかに直接売り込むこともできる。冒険者ギルドで売ったり露店の権利だけ買って自分で商売したっていい。私だってそれなりに顔がきくから、手助けができると思うんだ」