大切な話があるんだ
いきなりそう問われると困ってしまう。なんせ昨日までは殿下の婚約者だった身だ。男性の好みなんて考えたこともなかった。
でも……。
「そうだなぁ。男なら実用的な筋肉があって剣筋が美しい方がいい。鍛錬の証だからな、素直に憧れるよ」
ちなみに女性ならフルール嬢やルシャのように庇護欲をそそる容姿で、所作に愛らしさがある方がいい。どっちも私の憧れだ。すごく羨ましいし、多分何時間でも見ていられる。
「それ、アンタがこうなりたいって理想なんじゃないの? そーいうんじゃなくてさ」
「? 何か違ったか?」
「……ま、いいや。それはそれでアンタらしいか」
ルシャはなぜかクスクスと笑っていて、私は首を傾げるしかなかった。けれど表情から見るにとても楽しそうだから、まぁ問題はないんだろう。ルシャの機嫌が良くなったところで、私は本題に入る事にした。
「それはそうと、そこの棚に並んでいるのはルシャが作ったものなのかな」
「そうだよ。見てみる?」
ルシャは二つ返事ですぐに棚の方に移動してくれた。私が傍に立つのを待って、ルシャは丁寧に説明してくれる。
「一番上の棚が回復薬だよ。♡のマークが多いほど効果が強い。MAXはコレね」
「でっかい♡が5個……♡のデカさも関係ある?」
「あるね。あと、付加効果はラベルに書いてある」
「解毒、疲労回復、保湿、甘くて美味しい……? 飲み薬も軟膏もある……凄いな、こんなに種類があるのか」
「元になる薬草の種類や品質によって色々変わるんだよ。昨日アンタが使ったのは、その中でも一番の自信作! 効果バツグンだったでしょ」
「そんな貴重なものを……ありがとう」
「僕は錬金の中でも薬が専門だから、あれくらいはまた作れるよ。欲しいなら作ってあげるけど」
「また、君は……」
気前が良すぎるのも困りものだな、と思いつつも聞きたい内容でもあったから、私は流れに乗っかることにした。
「ちなみにこれって作るのにどれくらい時間がかかるものなんだ?」
「んー? 飲み薬は3時間くらいかな。軟膏は半日はかかる」
「なるほど……一定の品質のものも作れる?」
「当たり前でしょ」
ということは、材料さえ揃えば定期的に一定量を納品することは可能なのかも知れない。ルシャは本当に腕利きの錬金術師なんだろう。
「どうしたの、急に考え込んじゃって」
「いや、やっぱりルシャは凄いんだなと思って」
「なんだよ、急に……」
照れるルシャの手を取って、私は真剣な表情で彼の目を見つめた。
「ルシャ、大切な話があるんだ」
「えっ!? ……な、何?」
ルシャは驚きつつも、真剣に私の話を聞いてくれる体勢になっている。
良かった。
これから私が行う提案は、きっと彼にとっても益が多い話になるに違いない。