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39話 同郷の男

 俺はバーガンディの手を掴む!

 ゴツゴツした岩のような質感を掌に感じて、グッと力強く引き止められる体感に俺は安堵を抱く。

 流石ジェイソン・ステイサム似の屈強なオカマ。良かった、これなら落ちずに済みそうだ。……ったのだが、バーガンディは突然気の抜けるような声を出して俺ごと崩落の中に身を投げた。


「あらヤダ〜滑っちゃう〜!!」

「は!? いや、ちょっ、わざと……! うわああああっ!!!」

 



----------



 

「……ちゃん。アリヤちゃ〜ん。起きなさいってば」

「っ、うぐっ……」


 息苦しさを感じて、ゆっくり目を開けると目と鼻の先にバーガンディの顔。

「うおおっ!?」と反射的な悲鳴を上げて跳ね起きた俺の肩を、バーガンディの両手が逃がさないとばかり鷲掴みにする。怖い!


「ほら暴れな〜い。落ち着いてアタシの目を見〜てっ」

「は、離せっ! 掴むな!」

「暴れんなって言ってんだろこのタコが!!!」

「ひえっ……」


 ドスの利いた怒号に怯える俺の目の前で、彼……もとい彼女は太い指をゆらゆらと揺らしてみせる。


「アタシの指は何本見える?」

「ええと、三本」

「アナタ自分の名前は言える?」

藤間(とうま)或也ありや

「アタシ、綺麗?」

「……あー、肉体美的な意味でなら……」

「ヤダっ! 傷付けない優しい物言い! もしかしてアタシに抱かれたいの!? でもアタシこう見えてネコなのよ〜。あ、ネコってのはゲイ用語で受け側のことで」

「そ、その説明は結構です。離してくれませんか」


 自分の頭に触れてみると、側頭部の髪に血の跡がべったりと残っている。落下した時にどこかでぶつけたのだろう。

 起きた瞬間バーガンディの顔が大写しになったときはすわ襲われるかと焦ったが、彼女は俺の意識がはっきりしているか確かめようとしてくれたみたいだ。大丈夫、怪我は塞がってる。体の調子も悪くない。


「俺はどれくらい気を失ってました?」

「ほんの五分も経ってないわよ。あの連中が追ってきそうだったからアンタ抱えてちょっと移動したけどネ」

「五分か。すいません、運んでもらっちゃって」

「いいのよ。久々に若い子のお肌に触れられてゴキゲンなのアタシ」

「……」


 移動したと聞いて納得する。崩落に巻き込まれたはずなのに、今いる場所の頭上には穴がなく、薄暗がりだ。

 なんだか異様に蒸し暑い。意識を取り戻した際に感じた息苦しさはバーガンディに密着されていたせいではないらしい。

 辺りを見回すと、その原因はすぐにわかった。超日本帝国軍の連中が起こした爆発のせいで火災が起きて、煙と砂埃がもうもうと立ち込めているのだ。


 地下爆発で地盤が崩落したと聞くとクレーターの底に落ちたようなのをイメージしてしまうが、俺の目に映っている光景はどうもそれとは異なっている。

 煙で遠くまでの見通しが利かないが、スラムの下に地下階があって、その先にずっと道が続いているように見える。


「煙いな……」

「これでもマシな場所よ。アリヤちゃん抱えたままこれ以上移動するのは厳しかったから起きてもらっちゃった」

「移動しましょう。シエナとミトマとは合流できないかな」

「すぐにはムリね。もう移動しちゃったし、上から狙い撃ちにされたら流石に危ないからさっきの穴から地上には上がれないわ」

「あ、そうだ。さっき俺が手を掴んだ時わざと落ちませんでした!?」

「あらご明察。おかげで二人っきりになれたわねー!」

「!」

「……ってのはジョーダン。真面目な話、別行動の方が都合がいいと思ったの。居場所が割れて囲まれてるあの状況からは一旦離脱するべきだった。あの子たち二人なら逃げられる手があるのよ。戦力としてならともかく、逃げるためにはアタシたち足手まといってワ〜ケ。あーんアタシったら無情〜自己犠牲精神の塊〜」


 ふざけた口ぶりで腰をクネつかせながら、手元では洗練された動作でピストルの弾倉を取り替えるバーガンディ。

 本音で喋っているかは判然としないけど、地下なせいかスマホの電波が入らない。

 上に上がってしまえば二人と連絡も取れるだろうし、とりあえず今は行動を共にするしかなさそうだ。


 立ち上がった俺たちは、敵の襲撃に警戒しながら薄暗い空間を進んでいく。

 地下階があると思ったのは間違いじゃなかったようで、進んでいくたびにポツポツと人を見かける。ただし死体ばかり。


「爆発に巻き込まれちゃったのね〜、可哀想に」

「……人、多いですね」

「スラムの下は地下街でね、治安はヒドいけど、盛り場になってて結構な賑わいだったのよ。アタシお気に入りのサウナもあったんだけど」

「いいですねサウナ。こう埃っぽいと汗流したくなる。俺、温泉とか結構好きで」

「アララのラァ……? もしかして誘ってる? アタシの前でお風呂の話だなんてぇ……」

「!? ち、違いますよ!!」

「ちなみにアタシの言うサウナはアリヤちゃんの想像してるのとは違ってお仲間と出会って関係性を発展させるための」

「あっ、広い場所に出た!」


 ディープな方向に話が拡がる気配を感じて、俺は率先して前へ前へと歩く。

 いくつかの通路が連結する広場に出たようで、今通ってきた場所よりも天井が少し高い。

 キャバレーだの風俗だののネオン看板があちこちに吊るされていて、呼び込みらしい男たちが数人血溜まりの中に倒れている。


「生きてる子はいなさそうね。残念。まあ無事なり軽傷ならさっさと逃げてるか」

「この辺でも爆発あったんですかね。酸素は大丈夫かな……息苦しくはないけど」

「換気システムは生きてるみたいだから大丈夫じゃないかしら。あらアリヤちゃんちょっと退いてくれる?」

「うおっ!? 銃!」

「ごめんあそばせ〜」


 雑談の流れのままの軽いテンションで、バーガンディは物陰めがけて銃弾を三発撃ち込んだ。

 ガンガンバンと発砲音が反響して、カップ麺を売ってる自販機そばの地面に穴を穿うがった。

 何を撃った? 俺が驚いていると、バーガンディは猫なで声で自販機の陰へと声をかける。一周回って威嚇的だ。


「そこにいるのは誰かしら〜? コソコソしてないで出てらっしゃい子猫ちゃん。大丈夫、敵じゃなければ殺したりしないわ。イケメンなら食べちゃうかもだ・け・ど。ってアタシったらヤダ〜はしたなし〜!!!」


 いや怖いって。そんな言葉を掛けられたんじゃどう考えても出てきにくい。

 ただ、そこには確かに何かゴソゴソと動いている人の気配がある。

 俺はつとめて敵対心を感じさせない声のトーンを意識して、バーガンディの代わりに声をかけてみる。


「そこの人、俺たちに敵意はないんだ。もしそっちも敵意がないなら、手を挙げて姿を見せてくれないかな?」

「敵じゃないわよ〜ん」

(黙っててくれって!)


 そこで、自販機の影からひょろ長い手が伸びた。

 白旗代わりのように手がフラフラと振られて、「おーい、出てもいいかい! 撃たないかい!?」とどこか頼りない印象な若い男の声が聞こえてきた。


「大丈夫だ! 撃たないよ!」

「よし、出るからな。撃つなよ撃つなよ〜……!」


 そう言って姿を見せたのは、声の雰囲気通りにどこか抜けた印象のある男だった。

 髪型はおしゃれと面白の境界スレスレなマッシュルームカット。面長なせいか、髪型と合わせてなんとなく間延びした印象の顔立ちだ。

 大学生ぐらいの、俺と同じ年齢層だろうか? おっかなびっくり出てきた彼の表情は、なんとなく親しみやすさを感じさせる。

 そんな彼を見て、バーガンディが「アラやだ」と残念そうな声を漏らす。


「お腹から内臓(モツ)ハミ出ちゃってるじゃない。それじゃ助からないわね、残念だけど」

「あーっとっと、勘違いしないで! 俺は無傷だって。ほらこれ、腸じゃなくてソーセージ!」


 彼がそう主張する通り、腹の辺りに垂れてるそれは数珠つなぎのソーセージだった。シャツのボタンを一つ開けてポケット代わりにそこにねじ込んでいるらしい。

 よくよく見れば、彼は首からもソーセージをぶら下げている。肘には缶詰がギチギチに詰まったビニール袋をぶら下げていて、小脇に食パンの袋を挟んでいる。

 おまけに左手では生きた鶏の首を掴んでいて、バッサバッサと暴れる羽音がうるさい。俺は思わず首を傾げてしまう。


「ニワトリ……? ええと、こんなところで何を?」

「いや〜ここの地下のジャークチキン屋でバイトしてたんだけどさ、突然テロが起きてね! 店はブッ壊れるはバイトリーダーは死ぬわでめちゃくちゃになったもんだからこりゃ逃げなくちゃと思って、けど食料残してくのももったいないから出来るだけ持ってこうとしてて」

「ニワトリも食料?」

「そりゃチキン屋だからなあ。へへへへ」


 なんだか独特なテンションの男だが、とりあえず敵意は感じない。

 にへらと笑顔を浮かべた彼は、俺に歩み寄って手を差し出してきた。


「俺は転移者でさ、京野(キョウノ)慎吾(シンゴ)っての。キョウノって呼んで」

「転移者の日本人!? 俺もそうなんだ、名前は藤間(とうま)或也ありや

「おっ、マジかよ〜! 本物の日本人に会うの久々だわ! いつ転移?」

「それがまだ10日くらいしか経ってなくて」

「おいおいルーキーじゃんか。最初の頃って色々大変だろ? いやこれは嬉しいわ、仲良くしようぜ! で、えーと……そっちのオネエさんは?」


 俺へのフランクな態度からは一転、恐る恐る、といった様子でキョウノはバーガンディへと問いかける。

 まあそりゃ怖いだろう。ルックスの威容ももちろん手には拳銃。おまけに言動もヤバめ。怖がらない要素がない。

 まだ面白半分に彼を脅すような男色ムーブをするんじゃないか、そう俺は思っていたのだが、バーガンディの口から出たのは予想に反して淡白な挨拶だった。


「アタシはバーガンディ。よろしくね、キョウノちゃん。アタシたち地上に出るけど、アナタもついてくる?」

「お、ぜひ! 一人じゃ心細かったんだよなー」

 

 会話はそこまでで、軽く握手を交わしてからすぐにバーガンディは歩き始めた。

 えらくそっけないな。好みじゃなかったのか?

 そんなことを俺が考えていると、バーガンディが小声で俺へと耳打ちをしてきた。


(アリヤちゃん。彼、よく見張っといて)

(え? どうして)

(日本人よ? 超日本帝国軍のメンバーかもしれないじゃない。街宣車にいた幹部三人意外にも構成員はたくさんいるんだから)

(あっ、なるほど……)


 言われてみれば現れたタイミングが良すぎる。

 ただ、どうも俺はキョウノに敵意や悪意を感じられない。同じ出身地と聞いて俺の判定が甘くなっているんだろうか?

 何年か前に日本のヒットチャートに載っていた鼻歌を小さくハミングしながら歩く彼に注意を向けながら、俺たちは地下街を進んでいく。





・現在の好感度


エクセリア 25

燃 25

シエナ 15

ユーリカ 15

エヴァン 5

イリス 5

バーガンディ +10

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