★38話 大乱闘
一体どこから湧いてきたんだってほど大量の敵、敵、敵。
まるでマフィア映画だ。円形ドラムマガジンの付いたトンプソン短機関銃……異世界なので名前は違うかもしれないが、とにかく映画でよく見るアレを構えた男たちが一斉にトリガーを引き絞った。銃弾の雨が俺たちを襲う!
いくら耐えられるって言っても弾が当たれば痛い。あんな数の弾に撃たれてたまるか!
俺は血の鉄を硬く薄く引き伸ばして、身をすっぽり覆い隠せるライオットシールドを作り出す。
トタン屋根に雹が打ち付けるような激しい音を聞きながら、盾で身を隠して強引に前へ。右手に血で戦棍を作り出して、銃を構えた男たちを殴る、殴って、殴りつける!
「相手にならないな!! かかってこい!!」
敵の目を惹きつけるのが今の俺の役割だ。できるだけ戦場のど真ん中で目立つように大声を上げる。
銃じゃラチがあかないと思ったのか、数人の敵が刃物を構えて仕掛けてきた。男の手首を叩いてナタみたいな刃を取り落とさせて、肩を殴り付けて骨を砕く。
そこに混ざって襲ってくる瘴気ゴブリンたち。こっちは人と違って攻撃しても気が咎めない。力任せに頭を叩き割る!
背後に気配。ナイフで首を突こうとしてきた敵の手を叩こうと振り向いたが、お互いの手がぶつかって武器が落ちた。
とっさにメイスを拾おうとした俺の鼻先に相手の拳がグシャリとぶつかる。殴られた! が、拳で即座に殴り返す!
「痛いんだよ!!」
「ぎゃあっ!!」
いい感じのパンチが相手の頬を捉えて、男はゴロゴロと地面を転げて昏倒する。
離れた位置で銃を構える敵が見えたので、すかさず指先から血茨を放つ。貫く感触!
暴力沙汰に抵抗がなくなってきてる。相手がこっちを殺そうとしてきてるんだから仕方ないけど、慣れすぎるのも良くないかなと、少しだけため息が出る。
そんな俺と比べて、シエナの戦い方はスマートだ。
彼女の召喚したマントと長剣は自律して動く。纏っているシエナの体に躍り跳ねるような足捌きを踏ませて、車体の影へ、自販機の裏へ、死角から死角へと素早く移動。銃弾を浴びる隙をまるで見せない。
そしてひとたび表に身を翻せば、大ぶりな長剣が一閃、二閃。車体は両断されて、血飛沫が噴水よろしく噴き上がる。
それにうろたえて判断の遅れた敵へは左手を向けて、即座にハンドガンの引き金を引く。タン・タン・タンとリズミカルな発砲音、三人の胸に風穴が開く。
普段の朗らかな人柄とはまるで違って、シエナの戦いぶりは決断的で苛烈だ。彼女が渦を巻くように身をひねれば、銃弾の合間を縫うように襲ってくる白兵や瘴気ゴブリンたちがバッサバッサと斬り捨てられていく。
この物騒な街で組織のトップを背負うなら、あれぐらいは顔色を変えずやってのける覚悟が必要なんだろうな、きっと。
俺たち二人が前衛で暴れて注意を引く後ろで、ミトマとバーガンディが銃撃で着実に敵を撃ち抜いていく。
二人とも射撃が上手い。ミトマはバッグに詰めた大量の銃を種類を問わず完璧に使いこなしていて、両手に自動小銃を持って引き金を引く。一人で弾幕を作って相手を圧倒する勢いだ。
バーガンディは拳銃一つで次々に敵を射撃していく。拳銃の精度なんて少しでも距離が離れるとアテにならないって話を聞いたことがあるけど、そんなのお構いなしの射撃精度をしている。
戦い始めてもうすぐ五分ってとこだろうか。敵の数が目に見えて減り始めた。これはいけるんじゃないか?
俺がそう感じたのと同じタイミングで、バーガンディが舌打ちを鳴らす。
ちょうど敵が近くに居なくなっていたところだったので、俺は問いかけてみる。
「……よろしくないわね」
「どうしたんだ、バーガンディさん」
「ああお疲れアリヤちゃん! アンタの戦い方いいわ〜。まだまだ素人臭いけど美味しそう。見てて滾っちゃう」
「ひえっ……いや、そうじゃなくて、よろしくないって何かまずいことでも?」
「いえね、一番警戒してた連中が見当たんないのよ。こいつらは全員ザコよザコ。有象無象の小魚ちゃんたち」
「そ、そうなんだ。いやまあ、確かに手応えないけど」
「ここら一帯のスラムは色々な組織が小競り合いしまくって拮抗してる地区なんだけどね、チンピラ連中の中から最近一気に台頭してきたやんちゃ集団がいんのよ。そいつらは……」
その時、バーガンディの説明を遮るように、ピ、ガガガとノイズが響いた。
音の方向に目を向けると、そこには政治家のパフォーマンスに使われるような街宣車が一台。車上のお立ち台に三人の人影が見える。
うち一人のボロ切れを体に巻きつけた汚らしい男が、拡声器を口に当てて声を発した。
『アーアー!! マイクテスッマイクテッ!! 我々はァー、超日本帝国軍ゥン!!!』
「出たわ。アイツらよ」
「ちょ、超日本帝国軍……?」
思わず俺は首を傾げてしまう。なんだその名前。
車上にいる三人組のルックスもよくわからない。拡声器を口に当てている男は薄茶けたボロ切れにヒッピーめいたパサパサの長髪。その横にいる男はゴミ捨て場で拾ったようなオンボロのダウンやコートを何重にも着込んだ超防寒スタイルで、あと一人は金ピカの袈裟を着て片目に眼帯をしたトンチキな僧侶姿だ。
「長髪が“泥濘童子”、やたら着込んでるのが“くちはて”、坊さんっぽいのが“汚レ和尚”って名乗ってるわ」
「なんだその名前。ふざけてるんですかね」
「さあ? けど厄介な連中よぉ。アタシ絡みたくなぁ〜い
「クネクネするな、気色悪い」
寄ってきたミトマが身をよじるバーガンディを見て思いっきり顔をしかめる。
ただバーガンディの言うように、あの超日本帝国軍とかいう集団は他とは違う影響力を持っているらしい。彼らが現れた途端、他の勢力が怯えるように撤退していったのだ。
油断なく剣と銃を手にしたまま、シエナが彼らへと声をかける。
「君たちも戦う気かな! その気なら相手するけど!」
『我々にィ、シエナ・クラウンを殺害しようとする意図はなァい! 我々は交渉を要求するゥ!』
「あれ、そうなの? いいよ、要求を言ってみて!」
泥濘童子を名乗る男はシエナに促されて、視線に横に滑らせる。
一人、一人と俺たちを順に、やけに丁寧に見据えてから言葉を継ぐ。
『我々超日本帝国軍はァ、戦力増強を求めている!! 我らが同胞たる日本人の血統ゥ、それを招き入れんとここに馳せ参じた!! 三苫寿!! 藤間或也!! 両名を速やかに解放し、我々へと引き渡せば今すぐにここを去ることを約束するゥ!!』
「へえ……日本人? あっちの世界の国籍にこだわる集団って何気に珍しいね」
不思議そうに首を傾げてから、シエナはミトマと俺に順に目を向ける。
「一応聞くけど、二人ともどう?」
「フン。寝言は寝て言え、だ」
「俺もあれの仲間にはなりたくないかなあ……」
「だってさ! 交渉決裂だけど、どうする?」
『で、あればァ!! ……こうしよう』
声のトーンを突然沈めて、男はボロ布の下に隠れた手で何かを操作した。
すると瞬間、ズズンと地震のような揺れが俺たちを襲った。長い揺れではなく、ド、ド、ド、と断続的な揺れだ。
何が起きた? 俺が戸惑っていると、バーガンディが大声で叫んだ。
「あらあらヤダァ!! あの子たち地下を爆破しちゃってない!!?」
「さっきから瘴気モンスターが沸いていたのはそのせいか。こいつら地下のパイプラインに爆弾を仕掛けて、そこから瘴気が漏れていたんだ。シエナ! アリヤ! 気を付けろ、路面が崩れ——」
ミトマが警句を発しかけたその時、ゴボッと空洞感のある音がして、足元の感覚がなくなる。ふわっと浮くような感覚が体を包む。いや逆だ、落ちる!
落ち窪んだ地面は底が見えないほど深い。これ、落ちたら無事で済まないんじゃないか!?
アンラッキーなことに、俺の立ち位置は最悪だった。ちょうど崩れていく地面のど真ん中に立っていて、どこかへ飛び移る間もなく地面の支えを失ってしまう。
「っ、落ち……っ!」
「アリヤ! 手を握れ!」
「アリヤちゃん、掴まりなさい!」
足場の安定したところにいたミトマとバーガンディがそれぞれ手を伸ばしてきているのが見える。
まるで走馬灯めいて光景はスローモーション、高速化する思考。
頭の中で鐘が鳴って、俺の目の前に選択肢が提示される。
『運命分岐点……』
【①.ミトマの手を掴む】
【②.バーガンディの手を掴む】
【③.どちらも掴まない】
どっちでもいい、早く掴め! いや、本当に掴んでいいのか!?
足場が安定していると言ったって、全体がグラグラ揺れていることに変わりはない。手を取った相手を一緒に転落に巻き込んでしまうリスクがある。
だけどこのままじゃ無策に落ちるだけだ。落ちても大丈夫か? 俺の耐久力なら耐えられるだろうか。どうすればいい!
俺が選ぶのは——




