★3話 運命分岐点
「ははははは!! 一網打尽だー!!」
角で待ち構えて曲がってきた敵を焼く。単純な作戦だが、エクセリアの操る炎はそれで十分すぎるほどに強力だった。
ひらひらと舞い、触れると爆ぜて燃える炎の蝶。虚鬼たちは跡形もなく消し炭になっていく。
「めちゃくちゃ強いじゃないか!」
「フフン、私が最強だと言ったろう? この程度なーんの造作もない。ゴブリンなど数ばかりの雑魚よ」
「俺は何をすればいい?」
「褒めろ」
「よっ、天才」
「ふはははは!!!」
(雑に褒めても喜ぶな……)
と、そこでゴブリンの波が途切れた。
「なんだ、もう打ち止めか?」と呟くエクセリアに応じるように、角の先からカラスが声をかけてくる。
「イカれた火力だ、姫様。ますます興味が尽きないぜ」
「貴様もそこから顔を出してはどうだ? 企みでいっぱいの脳ごと丸焼きにしてやる!」
エクセリアは挑発的に声を投げるが、カラスはそれを無視して俺へ語りかけてきた。
「アリヤ君、この都市では異なる言語でも意味が伝わる。それは感情に感応する魔素が大気に含まれているからだと教えたよな」
「ああ、さっき聞いた」
「魔法も同じことだ。魔素は強い感情に反応して現象を起こす。とりわけ怒りや憎悪、妬みに怨嗟……負の感情の発露ほど、強い力を顕現させやすい。感情を明確なイメージと結合させるんだ」
「解説どうも。あんた、説明したがりなタイプか?」
「好きだねえ。夢は学校の先生だった」
「……あんたみたいな服装の先生は嫌だよ」
派手色をちりばめたスーツにレモン色のくどい襟巻き。そんな教師がいてたまるか。
俺はそこで会話を切ったつもりだったのだが、カラスはまだ話をやめずに喋り続ける。
「そうだ、質問タイムといこう。聞きたいことはないか? 魔法のことじゃなくてもいい。なんでもいいんだ。そうだ、好きな食べ物はあるか? 日本人は和食が好きか? それとも若者は肉か。ラーメンか。おすすめの店を教えてやろうか? ほら、なんでも聞いてくれよ」
(なんだこいつ、何を考えてる)
俺宛てにペラペラペラと中身のない言葉を羅列。舐められてるのか?
それにしたって無意味な行動としか思えない。エクセリアなんてすっかり無視を決め込んでいて、俺もどうしたものかと視線を落とした。
(……ん?)
そこで違和感に気付く。なぜだか、足首から下がゆらりと歪んで見えるのだ。
次の瞬間、俺はエクセリアを抱えて弾かれたように駆け出していた。
「おいアリヤ! いきなり何っむぐっ!?」
「息吸うな! ガスだ!」
それだけ伝えて、俺も鼻と口を覆う。
カラスが意味のない会話を続けていたのは無色無臭のガスが廊下いっぱいに蔓延するまでの時間稼ぎだったのだ。
俺たちが気付いたことにカラスも気付いたようで、笑い声が廊下を追いかけてくる。
「ハハ、気付くのが早いな。深呼吸してみたらどうだ? いい具合にクラクラ酔える。大丈夫大丈夫、ちょっとしたガスパン遊びみたいなもんだよ。試してみろよ! ハハハ!」
(調子に乗りやがって!)
反撃してやりたいが、ガスはあの男の方向から流れてきている。近寄れば濃度の高いガスを吸うハメになって思うツボだ。
かといって滞留したガスから逃げ切るにはこの廊下は長すぎる。
「アリヤ、立ち止まって構わん」
「!?」
喋って息をしたらダメだ!
反射的にそう言いかけたが、思い直して足を止める。何か考えがあるに違いない。
(聞くよ)と頷いて示すと、エクセリアは俺の耳元で小さく声を出す。
「支えろ」
「……! ああ、わかった」
大技を撃つ。彼女の決然とした瞳でそれを理解した俺は、小さな背中をぐっと押さえて両足に力を込めた。
満足げに笑んだエクセリアは、肺の中に残った空気を全て詠唱に注ぎ込む。
「“機械仕掛けの魔王よ嗤え、蕩けた眼が濁るより疾く、燻る舌の滾りより熱く”」
エクセリアが突き出した右腕の先へと多重に投影される魔法陣。
十重二十重に連なった陣が擬似的な砲身を象り、その先端に煌めく粒子が集約されていく。
「——ガスごと消し飛べ!!! 『灼火繚乱』!!!」
次の瞬間、ズン、と重い衝撃を伴って極大のレーザーが放たれた。
凄まじい光圧が壁や床を削り剥がし、光の後に残った高熱が軌道上に炎を残す。
二人そろって反動で吹き飛びそうなのをなんとか耐えた俺が目を開けると、前方の通路が半壊した火災現場へと様変わりしていた。
「よぉぉし! ぃやったー!」
「す、すごいな……!」
「おい、やったなアリヤ! あははは!」
ウサギみたいにぴょんと跳ねて、エクセリアが抱きついてきた。
よっぽど快感だったのか、妙に偉そうな喋り方も忘れて子供のような満面の笑みを浮かべている。
落ち着いた人だった姉さんの顔ではしゃがれると違和感があるけれど、それはさておき俺も嬉しい。
「本当に凄かったよ、今の。エクセリアは強いんだなぁ」
「そうだろそうだろー。お、見ろアリヤ。壁にも良い具合に穴が空いた。この方向に出口があるはずだ。探す手間が省けたな!」
わははと笑いながら歩いていく少女の後を歩きながら、俺は燃える廊下に目を向ける。
カラスは本当に今ので死んだのか? いかにもクセ者なあの男がそう簡単に死ぬだろうか。
だが、そこからの道のりはスムーズなものだった。
自信満々なエクセリアはおおまかな構造を把握しているようで、壁を壊しつつ最短ルートを進めば出口に着くまでそれほどの時間を要さなかった。
俺たちが出たのは広々としたエントランスだ。
客の応対をする受付カウンターも見えるが、職員の姿は見当たらない。
「アリヤ、あのゲートをくぐれば出口だぞ。やったな!」
「おかげで迷わずに済んだし死なずに済んだし……お礼を言っても言い切れないよ」
「あのカプセルから出してくれた礼だ。気にするな!」
そこで一度言葉を切り、エクセリアは表情に迷いを浮かべる。
そして強気一辺倒だった彼女らしくなく、おずおずと探るように言葉を継ぐ。
「……アリヤ。ここを出てから行くあてはあるか?」
「いや、全然。言葉が通じるのと魔法があってモンスターがいるのはわかったけど、それ以外は何も知らないからな」
「そ、そうか。……その、なら、共に来ないか?」
「え?」
「い、嫌ならいいんだぞ。違うのだ、お前が困っているならと思っただけで、迷惑なら……」
しどろもどろ。唐突にしおらしい顔をされるなんて思ってもみなかったので、意表を突かれて反応が遅れてしまう。
まずい、エクセリアの表情が暗くなってきた。早く答えてあげないと。
「あ、ああ、そうか。元々ここを出るまで守ってくれるってだけの話だったっけ? 俺はすっかりこの後も同行させてもらう気になってたんだけど……」
「本当か!? いいぞ、共に来い! 同道を許す!」
電球が灯ったみたいに表情を明るくして喜ぶ彼女はまるで子犬。
ついて行こうと思っていたのは本当だ。姉さんと同じ顔をしたこの子の正体が俺は知りたい。
こんなに喜んでくれると、姉さんのことが理由だとは言いにくいので言わないが。
「それにしても」と、俺は疑問を投げる。
「君は姫なんだろ。帰れば家臣だか部下だとかが色々いるんじゃないのか。俺がいたら邪魔にならないか?」
俺の質問に、エクセリアはフンと冷ややかに鼻を鳴らした。
「姫などと言ってもお前の想像するようなものとは違う。生まれてこの方、私に味方がいたことなど一度もなかった」
少女のまなざしが俺に向く。
「一緒に戦ってくれたお前が、初めての私の味方だ。アリヤ」
ビーッ、ビーッと。俺の返事を待たず、エントランスに警報が鳴り響いた。
赤色灯がフロアを赤々と照らす中、正面ゲートの鉄扉が重々しく迫り上がっていく。
そこから姿を見せたのは、背丈が2メートル半はありそうな大柄な怪物だ。
パワードスーツのような重装甲を纏っていて顔は見えないが、首元や腰回り、あちこちの関節の継ぎ目から虚鬼たちと同じ黒い瘴気が漏れ出している。
それが全身をビクククと震わせながら獣のように吠えるのだ。「オオオオオオオオオ!!!!!」と。
館内アナウンスからカラスの声が響く。
「さぁて、虚鬼 の群れの次は装甲鬼だ。姫様の火力は耐爆スーツの耐久性を凌駕できるかな?」
「チッ、貴様生きてたのか!」
「どう立ち向かうか見せてくれ。アリヤ君もな」
装甲鬼はスクラム前のラガーマンのように前のめりになり、突進するべく下腿の筋肉を膨れ上がらせた。
だが突進の寸前、メキャメギャ! と凄まじい破砕音を残して、オークの重装甲が脳天からひしゃげて潰れた。
「むっ……」
エクセリアの表情が曇る。
頭が潰れて前のめりに倒れるオークの背後には、一人の男が立っている。
淡い金髪に深い碧の瞳、絵画みたいに整った顔立ち。
その右手には鋼鉄のメイスが握られていて、彼が背後からオークを叩き潰したのだと俺は理解する。
「お迎えに参りました。我らが姫」
「っ……ブリークハイド」
ブリークハイド、というのは名前だろうか。
彼は恭しく礼をしていて、傍目にはエクセリアに忠誠を誓う騎士のようだ。
黒い軍用ロングコートに袖を通し、右にメイス、左には鋼板のようなライオットシールドを手にした近代寄りの格好なのだが、それでも古風な騎士然とした印象がある。
「おいおい、星影騎士団の騎士様がご登場か。お招きした覚えはないんだが?」
差し向けたオークを台無しにされたカラスが館内放送越しに、少し不満げに口を挟んだ。
やっぱりあの男は騎士で、姫の家臣だか部下なのだろう。
だが、エクセリアは大声を張り上げた。
「私は貴様とは戻らないぞ! 辛気臭い騎士団など知らん!」
「あなたの力は我々の宝、それを守るのが我が使命。あなたに拒否の権利などありません」
「ハッ、あなたの力“は”と来たか。正直なところだけは褒めてやる。だが不快だ! 貴様ら星影騎士団とは今をもって手切れだ! バーカ!」
「……あまり、手を煩わせないでいただきたい」
ブリークハイドの眉間が神経質に歪む。この男は苛立ちを隠そうともしない。
ああ、よくわかった。確かにこいつはこの子の味方じゃない。
エクセリアは両手で弧を描きながら、詠唱と共に風を集めていく。
「“祈る春鳥、螺旋する翠楼。七つの翼よ曲輪を成せ”! 『七聖城』!」
輝く烈風が束ねられて、流動する空気が凝結、凝固していく。
オーロラを固体化させたようなしなやかな光の膜が多重に折り重なって、ブリークハイドとの間を遮る巨大な防壁が構築された。
だが、騎士の表情は変わらない。竜巻の如く上体をひねり、人間の体の構造上の限界までメイスを振りかぶって、振るう。
「——城塞喰み」
「ッ、うおっ!!?」
猛烈な衝撃、轟音にビリビリ震える鼓膜。
思わず閉じてしまった目を開けると、エクセリアが築いた堅牢な壁は粉々に砕かれていた。たった一撃で!
そして横を見れば、エクセリアの両足が浮いている。ほんのまばたきの間に距離を詰めたブリークハイドに首を掴まれたのだ。
「ぐ、かッ……!」
「おいやめろ! 手を離せ!」
とっさに叫ぶが、この男は俺に視線すらよこさない。完全に無視されている。
上等だ、クソ野郎!
俺は捨てずに持っていた鉄パイプを握り直し、頭めがけて振り下ろした。が、悲鳴を上げたのは俺の方だ。
「痛って! か、硬い!?」
まるで岩を、いや、鋼鉄の塊を殴ったみたいに腕が痺れる。
たじろいだ俺に騎士の目が向き、いきなり世界が激しく回った。
天井と床が交互に映り、ゴンと重い衝撃が頭に響いたところで回転が止まる。
「……!!?? う、ぐうっ……!?」
「アリヤ……!!」
必死にこちらへ手を伸ばすエクセリアが遠い。霞んで見える。
ああ、そうか。俺は左手の盾で殴られて転げ回ったんだ。何メートルぐらい飛ばされただろう。壁にぶつかって止まったみたいだ。くそッ、大丈夫か?
自分に問いかけながら立ち上がろうとすると、口からゴボッと何かがあふれた。
転がったせいで酔って吐いたか。そう思って足元を見て驚く。口から出たのはゲロじゃなく、大量の血だ。
おいおい、マジか。どこか悪いところをぶつけたか、内臓が傷付いたか。
わからないけど、これって致命傷なんじゃないか。
「アリヤ! アリヤ、もういい! お前は関係ない! 逃げろッ!!」
俺を巻き込みたくない。そんな想いが伝わる掠れた叫びを、ブリークハイドの指が冷酷に握り潰す。
今にも折れてしまうんじゃないかというぐらいに締め上げられたエクセリアの喉から、それでも願うように「にげて……!」と小さな声が漏れた。
(ふざけるな)
俺の中で何かが沸騰する。
頭に血が上る。ハラワタが煮えくり返る。コーラにメントスを放り込んだみたいに際限なく膨張していく抑えようのない衝動。
ほんの少し関わっただけの俺を、初めての味方だと言って嬉しそうに笑ったエクセリア。
なんて寂しい。あの子にそんなことを言わせたのは誰だ。
どうしてまた、“姉さん”が不幸になってる?
激情を燃やせ。あの男が守らないのなら俺が守る。
強い負の感情とイメージの結合、それがこの世界における魔法だとカラスは言った。
ああ、負の感情ならたっぷり持ってる。姉さんを失ったあの日から、怒り、憎しみ、妄執、後ろ暗い感情を燃やし続けてきた。
今必要なのはなんだ? 拾った棒切れじゃダメだった。そうだ、武器が必要だ。
素材はどこから用意する? 目の前にあるじゃないか、大量にこぼれた俺の血が、鉄が。
血の中に含まれる鉄分なんてほんの微量じゃなかったか? たかが知れてるんじゃないか? そんな疑問を心の隅に追いやる。
確信しろ、盲信しろ。別に理屈が通っている必要はないはず。自分が本気で信じこめるならそれが正解だ。やれ。やれ。やってやれ!
導かれるように、心に浮かび上がった言葉を口走る。
「——武装鮮血」
「何……!?」
刹那、エントランスを横切る赤い閃光。
ブリークハイドが反射的に掲げた盾に、緋色の矢が痛烈に突き立った。
射ったのは俺だ。血を操作して、即席の鉄弓と矢を創り出したのだ。
矢だけじゃない、俺は間髪入れずに次へ移る。
血溜まりに手をあてがい、掴み上げたのは緋色の鉄槍だ。
不思議と体が軽い。力が無尽蔵に湧き上がる。腕をこれでもかと大きく引いて、投石機のイメージで槍を投げ放つ。
「食らえッ!!」
激突音と共に、ブリークハイドの盾に痛烈な凹みが刻まれた。
ただの鉄製の武器じゃない。血から創造したそれは一つ一つが魔法と呼ぶに相応しい威力を秘めている。爆発的な衝撃力!
「貴様……」
「その子をッ、離せ!!!」
決然と前に出た俺は、姿勢を沈めて騎士の構えた盾の死角に潜り込む。
低い位置から血のハンマーを振り上げて、横腹を痛烈に殴りつける。
それでも馬鹿みたいに硬いこの男には少し顔が歪む程度のダメージしか与えられないが、エクセリアを掴む力がわずかに緩んだ。 その瞬間を見逃さず、騎士の手からエクセリアを奪い取る!
「げほっ……! アリヤ、お前ケガが……!」
「大丈夫だ、よくわからんけど痛みがない」
「逃げればよかったのに、どうして」
「味方だからな」
「……っ」
味方という言葉への安堵と、巻き込んでしまった後悔と、唇を噛みしめるほどの嬉しさと……多分そんな感じの感情をないまぜにして浮かべながら、エクセリアは涙をぽろぽろとこぼす。
泣かないで欲しい。姉さんにそっくりの君は、今度こそ笑ってるべきなんだ。
「あの男が君を守らないなら、俺が君の騎士になる。いいよな」
「……わかった。トーマ・アリヤ。お前を私の騎士に任ずる」
「約束だ。この血の最後の一滴まで捧げて、必ず君を守り抜く」
「……ありがとう……巻き込んで、すまん……」
そこまでを口にして、エクセリアは気を失った。
ここまで魔法を連発しながら進んできたのも相当無理をしていたのかもしれない。
君が気に病む必要はないんだ。これは姉さんを死なせてしまった俺の独善だから。
「やるねえ!!」
快哉を叫んだのはカラスだ。
いつの間にかスピーカー越しではなくエントランスに姿を現していて、その背にまたしても大量の虚鬼と、数体の装甲鬼を引き連れている。
ペストマスク越しに垣間見える細い目をさらに鋭くして、彼は俺へと拍手を向ける。
「いいね! 良ーい感じだぜアリヤ君。姫様だけじゃなくて君も欲しい。改めて誘うが、俺の元へ来ないか?」
「はあ?」
「そうだそうだ、条件を出そう。君が俺たち“七面會”の元に来るなら姫様を拘束はしない。君との自由行動を許可しよう。どうだ? 破格の条件だろ?」
「……」
もちろん信用ならないが、俺が承諾も拒否もせず黙るのには理由がある。
カラスと向き合う位置にいるブリークハイドが声を発した。
「……貴様、アリヤと言ったか」
「藤間或也だ」
「……私への攻撃は一度忘れよう。星影騎士団の名の下に、私は貴様に協力を要請する」
カラスとブリークハイドが、ほぼ同時に口を開く。
「この男の排除に手を貸せ」と。
……来た!
カラスとブリークハイドはエントランスでお互いの存在を認識して以来、ずっとお互いに警戒、牽制を続けていた。きっと戦力が拮抗しているのだ。
俺の存在は降って湧いたイレギュラー。あくまでちょっとした不確定要素のおまけ。
俺はこの二人が争い始めるのを願っていた。その隙をつけばまだやれることはあるんじゃないかと。
ただ……この状況はちょっと想定外だ。手を貸せだって? 節操のない奴らめ!
俺はそれぞれがどんな勢力かも知らないのに!
————鐘が鳴った。
「は?」
なんだ? 何が起きた?
教会の鐘楼みたいな音がリンゴンリンゴンといくつも重なって響く。頭が割れそうだ。
赤色灯の回転が止まっている。カラスとブリークハイドが硬直している。腕の中で失神しているエクセリアの呼吸がない。
これは、時間が止まっている?
『……運命分岐点』
「な、なんだ!?」
突然の声に驚き、俺は思わず大声をあげる。
聞いたことのある声だ。そう、俺を転生させるだとか言っていた女の声!
「またあんたか! そろそろあんたが誰なのか説明してくれ!」
『今ここが、お前の運命を大きく分かつ岐路』
「……会話に応じる気はないんだな。わかったよ」
『選択肢を示そう。選ぶ権利を与えよう』
「痛ッ!?」
目の裏側に電流が走ったような痛みを覚えた直後、俺の目の前に三つの光が浮かび上がった。
【①.カラスに味方してブリークハイドを撃退する】
【②.ブリークハイドと共闘してカラスと戦い撤退する】
【③.どちらにも協力しない。エクセリアを連れてここから逃げる】
この中から選べって?
くそっ、情報が少ない! 七面會だの星影騎士団だの、説明のない固有名詞を並べられたって何の参考にもなりゃしない!
けど、ああ。わかったよ決めてやる。
俺が選ぶのは——