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見た目妖婦な王女さまは母国のために残念王子に嫁ぎます。  作者:
見た目妖婦な公女さまも残念王子に嫁ぎます。
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前編



 フンワーリ国で新年を祝う為に執り行われる王宮の夜会に、麗しいと噂の隣国、ビューテ国の王太子、ナーシサスが出席していた。


 彼は十八歳となっていたが、未婚で、尚且つ婚約者もいなかった。

 彼が五歳の時に、一歳上の公爵家のご令嬢と一度婚約が結ばれたのだが、数年後、そのご令嬢が身分や彼の婚約者であることを笠に着て傲慢に振る舞うようになると、彼は彼女を遠ざけるようになった。

 彼も始めのうちは、彼女に苦言を呈したが、彼女がそれを聞き入れることはなかった。

 彼女の両親にも注意したが、改善は見られず、結局、彼女は王太子の伴侶には不適格とされ、婚約は解消された。


 それもあって、彼は女性に対して割と激辛であった。

 王太子としては大変有能であったが、自らの伴侶に求める水準が人一倍高く、その件に関しては妥協することが出来ない程、我が儘になった。


 ビューテ国では王太子の伴侶を探す為、妙齢の貴族令嬢全てを集めた舞踏会を定期的に開いていた。

 だが、貴族令嬢全てと踊り終えても、彼のお眼鏡に適う者は見つからなかった。

 それを憂いたビューテ国の王は、まずは隣国、フンワーリ国の王に泣きついた。

 息子の伴侶探しに協力して欲しいと。

 それをフンワーリ国王は快諾し、年初めに王宮で開かれる夜会にナーシサスを招待した。


 もし、フンワーリ国でも見つからなければ、他の国にも打診しなければと、ビューテ国王は痛む胃をしきりに摩るのが癖になっていた。

 更に他国を巡っても理想の女性に出会うことが出来なければ、最終的には自国の歳若いご令嬢を息子の好みに育てて(めと)ることも念頭に入れさせなければと、決意を固めた。



 ナーシサスは、夜会が始まってからデビュタントの一人をしきりに目で追っていた。


 隣に居て、それに気付いたフンワーリ国の王太子、フィリックスが彼に声を掛ける。


「彼女が気になりますか?」

「ええ。あのように美しいご令嬢は今まで見たことがありません。彼女と一緒にいる男性も彼女に劣らず美しい。ご兄妹でしょうか?」

 ナーシサスは話しながらも、彼女から片時も目を離さない。


「そうです。まあ、彼らは両親が特殊ですからね。何処にいても目を引くでしょう。ほら、あそこに二人の両親が居ますよ。あの二人も目立つでしょう?」

 そう言いながら、フィリックスは、そっとその方角を指し示した。

 ナーシサスは、初めて彼女以外に目を向ける。


「ええ。男性の方は、王様に似ている気がするのですが、もしや……」

「ええ。我が父の弟で、私の叔父です」

「なるほど。では、女性の方は噂のターンマリ国の王女でしたか。道理で……」

「ビューテ国にまで噂が広がっているのですか!?」

「我が国は美しさにはどの国よりもうるさい、美意識の高い国を自負しておりますからね。その手の噂は、好んで集めて来る者が多いのです」

「そうですか……」

「ご兄妹がエスコートしているところを見ると、彼女、デェビュタントのご息女には、お相手はまだ居られないのですか?」

「ええ。あの容姿ですからね。縁談が引っ切り無しに来て選びきれないと、彼女の兄、アレンが言っておりましたよ。そう言う彼も同じ理由で未だに相手を見つけられていないようですよ」

「そうですか……」

 ナーシサスは、そう言いながら、何事かを思案していた。


 その様子を隣で見ていたフィリックスは、余りにも美しいと大変だなと、他人事のように思った。

 とは言え、彼も精悍な顔つきではあるが、整った顔をした中々の美丈夫である。


「ところで、フィリックス殿下はどうやって王太子妃を選ばれたのですか?」

 ナーシサスは、興味津々に尋ねた。


「私と彼女は、子供の頃に親に決められた婚約者同士でしたが、幸い息が合いましてね。恋人と言うよりは同士のような感じですが、一緒にいると気が楽で助かっておりますよ」

 少し恥じらいながらも、フィリックスはそう答えた。


「そうですか。羨ましいです。彼女もそのようであったら良かったのですが……」

 ナーシサスはかつての婚約者を思い浮かべて、溜め息を吐いた。


「はは。まぁ、合わないことが早めに分かって良かったと、そう思われることです」

「ええ。お陰で、運命の相手と巡り会えたようです」

「ほう」

「彼女に声を掛けに行きたいので、この場を失礼させていただいても?」

「ええ。構いません。どうぞ、ご武運を」

 フィリックスのおちゃらけた激励に、洗練された一礼を返して、ナーシサスは彼女の許へと向かった。



 自国の王太子と談笑していたナーシサスが移動し始めたことにより、辺りがざわざわとし始め、その動向に皆の注目が集まる。

 その足が、対のような美しい兄妹の前で止まり、皆、「やっぱりな」と言った反応を示す。


「初めまして。麗しい方々。私は、ビューテ国の王太子、ナーシサスと申します。お二人のお名前を伺っても?」


「初めまして、ナーシサス王太子殿下。子爵の地位を賜っております、アレン・キヨイと申します。こちらは妹のアイリスです。お会い出来て光栄です」

 アレンが笑みを浮かべて挨拶をする。

 隣にいたアイリスもナーシサスに穴が開く程じっと見詰められ、緊張しながら丁寧な挨拶を返した。


「お二人と仲良くしたいのですが、『アレン』、『アイリス』と御呼びしても構いませんか?」

「ええ……」

 アレンとアイリスは、困惑した顔を見合わせてから、歯切れ悪く了承した。


「彼女と二人で話をさせていただきたいのですが、少しだけ彼女の時間をいただいても宜しいですか?」

 ナーシサスは、アレンへと声を掛けた。


 それに、アレンは笑顔で答える。

「アイリスがそれを望むなら、私は構いません」


 アイリスは、戸惑いながらアレンに視線を向けた後、おずおずとナーシサスに返答する。

「私で宜しければ……」


「では、お手を」


 彼女は、彼が差し出した手に自らの手を重ねた。

 彼は嬉しそうに顔を(ほころ)ばせ、彼女をテラスの方へ連れ出した。


 テラスには、意図したように誰もいなかった。


「アイリス。あまり時間も無いから、単刀直入に話すよ」

「はい」


 彼女が返事をすると、彼は彼女の手を取ったまま、片膝をついて彼女を見上げた。


「どうか、私と結婚し、ビューテ国の王太子妃となってはもらえませんか?」

「えっ!?」

「私は、未だかつて貴方程美しいご令嬢に会ったことはありません」

「はぁ……」

「美しい私には、貴方くらいの美人しか釣り合わないと思いませんか?」

「はぁ」

「貴方はきっと、見た目だけではなく、その中身も美しいに違いない。そう直感が告げています。貴方は私の運命の人だと」

「はぁ」


 −−何故だろう。空には満天の星が煌めき、豪勢な王宮のテラスと言う素敵なロケーションで見た目最高の王子様に(ひざまず)かれて、求婚されているのに、全く心に響かない。

 褒められているはずなのに、全くそう感じられない。

 何だろう、この残念な感じは……。


 生返事を返しながら、彼女は心の中でそう思っていた。


「あの。直にはお返事出来ません。私は、貴方様のことを良く知りませんし。私一人の問題でもありません。両親にも相談しないと……」

「ええ。分かっております。焦ってしまい、申し訳ありません。貴方程の方は、早くしないと別の者に取られてしまうと思い、気が急いたのです。これから、私のことを知っていって下さい。私も、もっと貴方のことが知りたい」 

 熱のこもった視線で、彼女を見詰めそう話す彼に、彼女の頬は盛大に引きつった。

 辛うじて、「はい……」とだけ、返すことが出来た。





 −−翌日、アイリスは王に呼び出されて、両親と共に王の執務室へと赴いた。


「アイリス。ナーシサス王太子から求婚されたと聞いた。我が国の王としては、ビューテ国へと嫁いでもらえると外交としては有り難い。だが、伯父としては、お前が嫌ならば、断っても良いと思っている。お前が幸せになることの方が大事だからな」


 自らの子が男ばかりであった王は、姪であるアイリスを殊更(ことさら)可愛がっていた。


「王様……。ありがとうございます。私も、フンワーリ国の王弟の娘。この身が、この国のお役に立つのならば、それに越したことはありません。謹んで、ビューテ国へと嫁ぎます」

「そうか。だが、一年間は婚約期間としてもらうようにお願いしよう。その間に気が変われば、いつでも破談に出来るように頼んでおく。無理せず、辛くなったら言うのだぞ」

「はい」

 王の甘い言葉に、アイリスは思わず苦笑した。



 王宮に用意されている客間へ戻ったアイリス達は、ソファーへと腰掛け、息を吐いた。

 アイリスの隣に座った母であるアリシアが、目を細めて彼女を見る。


「やっぱり、私の娘ね。私が、貴方のお父様の許に嫁いだ時にお兄様に言ったことと同じようなことを言っていたわ」


「お母様……」

 アイリスは、思わず(すが)るような視線をアリシアへと向けた。


 アリシアは、両手でアイリスの手を取り包み込む。

「大丈夫よ。貴方は私の娘だもの。どこに居たって、自らの道を切り開くことが出来るわ」


 二人の様子を愛おしそうに見ていたアイリスの父親であるデイヴィッドも彼女に声を掛ける。

「アイリス。嫁になんか行かずに、ずっと家に居てくれて良いんだぞ?」


「馬鹿なことを……」

 アリシアは、呆れたような視線をデイヴィッドに向けた。


「お父様。大丈夫です。ナーシサス王太子殿下は、少し変わった方ですが、悪い方ではありません。きっと上手くいきます」

「アイリス……」

 アイリスの自身を鼓舞するような言葉に、アリシアとデイヴィッドは何とも言えず、互いの顔を見合わせた。

 そして、娘へと視線を戻し、ただただその幸せを願った。



 その夜、晩餐の前にアイリスの許をナーシサスが訪ねて来た。


 出迎えた彼女に、彼は彩り豊かな花束を差し出した。

 花を抱えた彼がとても絵になり、一瞬見惚れてしまった彼女は、慌ててお礼を言って受け取った。

 彼はそれに、満面の笑みで答える。


「私の求婚を受けてくれて、ありがとう。王太子妃として苦労をかけることもあると思うが、きっと幸せにする。辛いことや困ったことがあれば、悩まずに相談して欲しい」

「はい……」


 ナーシサスは、不安げに瞳を揺らすアイリスの手を花束ごとフワリと包み、安心させるように暖める。

 彼女は、それに嫌悪感を覚えず、ホッとしてしまった自分に気付き、驚いた。

 彼を見れば、優しく笑んで彼女のことを愛おしそうに見詰めている。

 彼女は、急に恥ずかしくなって、横を向いてしまった。

 その横顔が赤くなっていることに気付いた彼は、ニヤつき舞い上がる心を鎮めるのに苦労した。





 −−数週間後、アイリスとの婚姻の話を詰めたナーシサスは、名残惜しそうにしながらも、帰国した。

 そして、アイリスは王太子妃教育のため、婚姻の前に一年間ビューテ国で婚約期間を過ごすこととなり、彼の後を追うように一ヶ月後にビューテ国へと旅立って行った。

 この時、兄であるアレンも、彼女に付き添った。



 ビューテ国へと遣って来たアイリスは、ナーシサスだけでなく、彼の両親である王と王妃に大変歓迎された。

 特に王は、周りを憚らず泣き出す程の喜びようであった。

 王妃は、呆れながらも愛おしそうな眼差しを彼に向け、その目元にハンカチを押し当てた。


 アイリスは、そんな仲睦まじい彼の両親に自分の将来の姿を重ね、胸が温かくなった。


 フンワーリ国王との取り決めにより、ナーシサスとアイリスの婚約は、内々のこととされた。

 表向きは、フンワーリ国との友好の為に、王の甥と姪がビューテ国へ訪れたというふうになっている。


 到着した翌日に開かれた歓迎の宴では、精巧に作り上げられた人形のように美麗な兄妹を一目見ようと、出席した多くの貴族が二人に群がり、宴どころではなかった。


 王や王妃、そして、ナーシサスも貴族等に怒り、早々に宴はお開きとなった。





 その後、アイリスは王太子妃教育を受け、忙しい日々を送っていた。

 その間、兄のアレンはビューテ国の彼方此方を視察したり、ナーシサスの仕事ぶりを拝見したり、手合わせをしたりと、アイリス以上にナーシサスとの友好を深めていたりする。


 もちろんナーシサスは、政務も鍛錬も怠らず、その空いた少しの時間でもアイリスの許を訪れ、体調はどうか、不便は無いか、と気遣った。

 恐らく、多忙により、寝不足になって体調も万全ではないのではないかと予測出来るが、そのような素振りは全く見せず、彼の身だしなみが乱れることも決してない。

 あまりの隙のなさに、彼に生気が感じられず、彼女は少し不気味に思っていた。







 ちなみに、ターンマリ国、フンワーリ国、ユール国、ビューテ国は、一夫一妻制です。

 歴代の王の中には妾を持つ人も居ましたが、現在の王達に妾は居ません。



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