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見た目妖婦な王女さまは母国のために残念王子に嫁ぎます。  作者:
見た目妖婦な妹王女さまも残念王子に嫁ぎます。
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後編



 順調に快方へと向かっているフレデリックに安心したシャーロットは、一旦、ターンマリ国へと帰った。

 そして、兄に書かせた書簡を持って、フンワーリ国の王宮へと向かった。

 フンワーリ国は、数年前に王が病を患い、アリシアの義兄である王太子が新たに王となっていた。


「よくぞ参られた、シャーロット王女。ご家族は、ご息災ですか?」

 謁見の間にシャーロットが入って来ると、フンワーリ国王はすかさず笑顔で挨拶した。


 彼女はそれに笑みを返し、王の傍まで歩み寄ると膝を折って、謝辞を述べる。

「はっ! この度は急な訪問にも関わらず、謁見のお許しを賜り光栄にございます。我が国は変わりなく、家族も皆、平穏無事に過ごしております」

「そうですか。それは何より。では、如何されたのですか? 数ヶ月後には、ユール国へと輿入れされると聞いておりましたが、何か問題でも起こりましたか?」


 王の的確な指摘に、彼女は顔を赤くする。


「恥ずかしながら、左様にございます。実は、ユール国の内情が少しばかり乱れておりまして、このままでは、安心して嫁ぐ事が出来ません」

「それは、難儀な事ですね……」


 心配そうな表情を浮かべる王に勇気を貰い、彼女は本題を切り出す。


「はい。そこで、大変図々しいお願いだとは、分かっているのですが、フンワーリ国王のお力もお借りしたく、こうして伺いました。兄からも書状を預かっております。どうぞ、ご確認下さい」

 彼女から書状を受け取り、一読した後、王は彼女に笑顔を向けた。


「ご心配召されるな。これ位の事は、何でもない。我が愚弟の縁談の折の貸し借りを持ち出さずとも、義妹が困っているのだ、力を貸すのは当然だ」

「あ、ありがとうございます!」

 王の言葉に、彼女は感激し、泣きそうになった。


「急いでいるとは思うが、書状を用意するのに暫し掛かる。それまで、別室にて寛いでいただきたい」

「お心遣い、感謝いたします」

「アレン。ご案内して差し上げなさい。ご歓待も任せます」

 王は、傍で控えていた側仕えの一人に声を掛けた。


「畏まりました」

 アレンは、王の命に従い、彼女に声を掛ける。

「それでは、シャーロット王女、こちらへ」

 彼女は、王へと目礼し、アレンの後に付いていった。


 案内された部屋には、軽食やお菓子、フルーツなどが並べられていた。

 彼に引かれた椅子に座ると、暫くして、お茶が運ばれて来た。

 セットが調うと、彼女の斜め前に座った彼が話し始めた。


「シャーロット王女。このように簡単なものしかご用意出来ず、申し訳ありません。お口に合えば、良いのですが……」

「アレン様。そのように畏まらずとも、ここには私達しかおりません。叔母と甥なんですから、もう少し砕けて話せませんか?」


 当然、侍女や護衛は傍で控えているが、彼らは壁と一体化するように気配を消している。


「叔母上がそう申されるのならば、遠慮なく」

 彼女の提案に直に乗り、彼は肩の力を抜いた。


 アレンは、彼女の姉であるアリシアとこの国の王弟、デイヴィッドの長男である。

 甥とは言え、彼女が生まれた年にアリシアが嫁に行き、その翌年に誕生しているので、歳は一つしか離れていない。

 

「お姉様はお元気?」

「ええ。相変わらず、子育てや領地の運営に忙しそうにしておりますよ」

「そう。貴方も次期当主として、色々と忙しいのでしょう?」

「はい。こうして父の代理で、王宮に上がるようにもなりまして、それなりに大変です」

「ふふ。随分、板に付いているように見えるけれど?」

「そう言っていただけると、自信がつきます」

「そろそろ、お相手探しもしているのかしら?」


 彼女の御節介な質問に、彼は困ったような表情になり、言葉を濁す。

「はは。まぁ、そうですね」


 それでも、彼女の追及は止まなかった。

「どうしたの?」


 彼は誤摩化すのを諦めて、実情を話す。

「実は、中々見つからなくて困っているんですよ」

「そうなの? 貴方の身分や見た目だと、沢山縁談が来そうだけれど……」


 アレンは、美男美女の両親の良いところばかりを受け継いで、かなりの美男子に育っていた。


「それはそうなんですが、皆、外側しか見ていないようで……。贅沢(ぜいたく)な望みだとは思いますが、中身を見てくれる人と共にありたいと、そう思っているんです」

「そうよね。そう考えたら、フレッドと出会えた私は幸せね」

「そうですね。(うらやま)ましい限りです」


 そうして、談笑していると、王から呼び出しが掛かり、再び、謁見の間へと赴いた。


「ゆっくり話せたかな?」


 笑顔の王に、彼女も微笑み返す。


「はい。お心遣い感謝いたします」

「こちらで、良いかな?」

 シャーロットは書状を受け取り、中身を確認する。

 

「過分なご配慮を賜り、心より感謝申し上げます」

 シャーロットは、深く、深く頭を垂れた。


「頭をお上げ下さい。そこまでされる程の事ではありませんよ。あなたは、行く行くはユール国の王妃となられる御方。他国の王とは言え、そう簡単に頭を下げてはなりません」

「はい」

 王からの親心のこもった叱責に、彼女は胸が温かくなった。





  *    *    *   




 

 フンワーリ国からターンマリ国へと戻ったシャーロットは、再び、両親から許可を貰い、ユール国へと向かった。


 ユール国の王宮に着いた彼女は、未だ起き上がる事が出来ず、ベッドの住人と化しているフレッドの代わりに、決戦の舞台、謁見の間で、ユール国王と対峙した。

 シャーロットからの希望で、この場に王妃や他の王子達も同席はしていない。

 王とシャーロットの他には、近衛騎士や執務官、侍従や女官が数人控えているだけである。


「王様。御目文字叶いまして誠に光栄にございます」


 背筋をピンと伸ばし、堂々と挨拶するシャーロットに、王は目を細め、口角を上げた。


「ほう、これは……。お噂通りお美しくお成りだ。我が愚息には勿体無い。どうです? 息子ではなく、私の許へ嫁がれませんか?」


 王の冗談とも本気とも取れる発言に、シャーロットはコロコロと笑う。


「まぁ、面白いご冗談ですこと。お美しい王妃さまがいらっしゃいますのに」

「はは。私の許へと嫁いで下さるのなら、王妃とは離縁いたしましょう」

「王様。ご冗談も程々にして下さいませ。私、この度の王太子様の件に関しまして、心の底から怒っておりますのよ」

 スッと目を細め、鋭く睨んだ彼女に怯むことなく、王は問い掛ける。


「王太子の件とは?」

「お(とぼ)けになられますか? 良いでしょう。これは、我が国からの抗議文です。我が父である王と兄である王太子、また、姉が嫁いだフンワーリ国の王にも一筆いただいて参りました。どうぞご覧下さい」

 

 シャーロットから渡された書状を順番に読んでいた王は、だんだんと難しい表情になり、フンワーリ国からの書状には思わず声を上げた。


「なっ!? これは!」


 ターンマリ国からの書状には、ユール国の王妃から届いた書状が大変不愉快なものであったということと、息子同然であるフレデリックに万一の事があれば、武力行使による簒奪(さんだつ)も辞さないとの、文言が書かれていた。

 そして、フンワーリ国からの書状には、万が一、両国が開戦する事があれば、何に置いてもターンマリ国に味方すると書かれていた。


「それと、こちらはこの国の宰相閣下、大臣方、将軍方にも嘆願書を賜りました。ついでに、王太子が狙われた事件の真相と犯人はこちらの書状にしたためてあります。こちらもご覧下さい」

「なんと!」


 嘆願書には、皆、王太子を支持しており、今後も王妃や他の王子達が王太子を蔑ろにしたり、害したりするような事があれば、廃妃、勘当を望むと書かれていた。


「さぁ、王様。如何なさいますか? これでもまだ、冗談が言えますか?」

「はぁ。まさかこれほどの能力をお持ちとは……」


 彼女は無言で王を睨み付け、続きを促す。


「いや。シャーロット王女。あなたならば、頼りない王太子を引っ張り、支えてくれる良き伴侶となられることでしょう。どうか、この国を頼みます」

 王の言葉を聞き、彼女は息を吐いた。

 そして、もう一度王を射貫くように見つめて言った。

「はい。お任せ下さい」と。


「王妃とは離縁し、第二王子、第三王子の王族籍は剥奪。王妃の実家へと身元を移すようにしましょう。そして、王太子を害そうと企てた者は、鉱山へと送り一生働かせることといたします。異論はございますか?」


 王の問い掛けに、彼女は、少し甘い処分ではないかと言いかけたが、一度だけ更生の機会を与えてみようと思い直した。

「いえ。ただ、他にも王太子に暴言を吐いた者がいますので、その者達を不敬罪としていただきたく存じます」

「そうですか。分かりました。……ああ、それから、全ての者の処分が済み次第、私も王太子に王位を譲り、隠居することにいたしましょう」

「はい。そのように」


 彼女は、直に、王が取り決めた処分を書面にし、王のサインと血判を貰って、その場を後にした。


 そのまま、フレデリックの寝室へと向かう。


 部屋に入った彼女は、ジャーンとその書面を彼の眼前に突きつけた。


「結局、君が殆ど一人で解決してしまったね」

 フレデリックはベッドの上から、彼女に申し訳なさそうに話した。


「ふふ。これくらい愛する人の為ならば、どうってことないわ」

「私だって、君に格好良い所を見せたいと思っているんだよ?」

「フレッドは、十分格好良いわ。あの後、部下達に指示して黒幕まで辿り着き、真犯人を暴いたのも、この国の重鎮達に嘆願書を書かせたのも、結局は貴方の力だもの。これ以上格好良いと心臓が持たないから今のままで良いの」

「本当に? 格好悪い所ばかり見せているような気がするんだけど……」

「それが、私にとっては格好良く映るのよ」

 二人は蕩けるような甘い顔をして、お互いだけを目に映し、イチャイチャしていた。


「やれやれ。姫様、それは惚れた欲目と言うヤツですね」

「または、恋は盲目」

 傍で控えていた彼女付きの女官と、彼の近習であるスチュアートが、二人の間に割って入った。

 水を差されたシャーロットは、真っ赤になって二人にあたる。

「もう! 貴方達は! 空気を読みなさい!」


 主人の言葉に堪える事無く、二人は頷き合った。

「空気を読んでの言葉だったんですけどね」

「ええ、そうですね」

「全く……」

 その太々しい態度に、シャーロットは呆れ返った。





 それから半年後、二人は無事に結婚し、王と王妃になった。

 式を迎えるまでに、フレデリックの身体を元に戻すかどうかで、二人は周囲と少し揉めた。


「王太子様は、痩せられてとても麗しくなられましたわね」

「王女様と並ばれたらそれは、それは眩くて、直視出来ません」

「本当よね。この世の者とは思えない、神々しさよね」

「ええ」

 と言ったような会話が、至る所でなされ、シャーロットは嫉妬や優越感で、モヤモヤしていた。

 そんな、彼女を思い、身体を元に戻そうとする彼と、悩む彼女。

 絶対に太らせまいとする周りの者達。

 暫く、続いた攻防はある人の言葉で、直に解決をみた。

「肥満は健康に良くない。長生きしたいなら、このままを維持して、もう少し筋肉を付けるようにした方が良い」と医師に言われた彼女は、愛する人が自分より先に行くのは嫌だと、「太らないで」と彼にお願いした。

 すると、彼は直に了承した。

 程よく筋肉を付け、引き締まった彼は輝くばかりの美青年となり、麗しい王と王妃は、大層似合いで人々は対の若い指導者に歓喜し、拍手喝采で祝福した。


 その後、彼女は彼を献身的に支え、子供にも恵まれて、賢妃と讃えられた。







 お読み下さり、ありがとうございます。

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