第九話 とある新米兵士の戦争事情
ドン ゴン ドドン
爆音が鳴り、そして絶えずに鳴り続けた。
その爆音は魔法と魔法がぶつかり合ったものでは無く、魔法が城壁に当てた音でも無い事が分かる。この数日の間続いた事だから。
ロベルト様が命令を出すまだも無くこの音が開戦の合図となり、自分の今居る食堂に居た他のもの達は速やかに手元にある食事を置き、席を立って配置につけた。
自分も片手で持った未だそれなりに大きいサンドイッチを丸ごと口に入れて、自分のいるべき城壁の上へ向かった。
「遅いぞ!早く位置に着け!」
城壁の上に上がった途端に一人の男 自分が配属されている小隊の小隊長が遅れで来た自分を怒鳴った。
「すみません!」
自分は即座に動き出し、城壁沿いに十人が近しい距離を置き並び立ってる所に一箇所の空きがあり、駆け足でそこへ向かった。
自分は位置に着き、予めそこに置いてある矢筒を腰に着け背中に背負ってる弓を取り出した。
この弓は他の人達が使ってるものと違い、師匠がくれた師匠自らの手で作り出した特注品だ。
弓身は一般のより倍ほど太く手が握り矢をつける所だけを細くしている、弓弦も一本じゃなく二本が有って丁度矢尻をつける所で交差してるものだ。
自分は慣れた感覚で矢筒から一本の矢を引取り弦に取り付け、弓を引き絞る。
狙いを定めようとしたら自分の体を覆い被る程大きい光る玉がこちらへ飛んできた。
その玉は赤く輝き、物凄い速さで自分に向かって来る。
ドン
思わず目を瞑ったら直ぐ目の前に爆音が轟き、自分は瞑っている目を開いた。
あの赤く輝く玉は既に消散して薄く透明で少し紫がかかった防壁だけが自分の目の前にあった。
未だ慣れ無いものだが、少しは馴染みのある事だ。この数日にこう言う事が頻繁に起きているからだ。
この防壁は完全なる一方通行の障壁で 英雄を守った盾 と謂われてるもので、千年前の英雄 ローラン の伝説はこの国では誰しも聞いた事のある物語で、その中に出て来るブレニア要塞の 英雄を守った盾 はその物語に登場して居る、故に知らないものは無いのだ。
当然それは今攻め入れようとして来る軍・王の二国連合軍の人達も知っているのだ。
その証拠に二国連合は攻め込むと同時に白兵戦を一切せずに初パラから 魔導砲 を動用したのだ。しかしロベルト様はそれを予想したように速やかにこの防壁を展開させ、そして自分のような兵士を城壁の上から魔法や弓矢で攻撃させるようにと命じたのだ。
この数日でこういう撃ち合いを繰り返して来た。その数日のお陰で少しは慣れ始めた自分は直ぐに射撃体勢を取り、狙いを絞る事が出来た。
自分は城壁の外に設置している魔導砲を狙い、引き絞っている弦を放し、矢を放った。
二本の弦のお陰で真っ直ぐに突き進む弓矢は岩をも突き破る威力を持ち、数年掛けて鍛えた自分自身の技術で数分のズレも無く設置してる一門の魔導砲を射抜いた。
しかしただその魔導砲の砲身を射抜けただけのようで、砲そのものは無事らしく直ぐに一撃を自分の居る方へ撃つ込んでくる。
ドン
爆音の所為でまた無意識に目を瞑ってしまい、いつものようにまた速やかに目を開け射撃体勢に入ろうとする。
しかし今回は少し前までのそれと大きく違い、一発の後から数発も同じく自分の居る方へと飛んできた。
ドン ドン ドドン ドン
爆音は間近で轟き続け、仕舞いにはその爆音にも少し慣れた自分は閉じてる目蓋を開き、前を見据える。
少し紫がかかった防壁は魔導砲の集中砲火を浴びても無事に耐え、長く続くと小さな皹が入りそしたら即座に傷が癒えるように塞がって元に戻る。
「これじゃやらればなしだ、場所を変えないと。」
自分はこのままではいけないと踏み、矢を放てる為に元の居る場所から離れた。
「くそ!はやりこうなったのか!致し方ない、例のものを起動させる!イザベラは直ぐに準備をしてくれ、これからはそっち次第になる。頼んだ!」
自分が元の居る場所から離れた途端に下の階段から上に上がってきた一人の男 ロベルト様 が直ぐに目の前に有る状況を理解し一緒について来た一人の男の伝令兵に伝令を出し、もう一人の女 イザベラ様 に話かけた。
「あぁ、判った、その前に...良く聞け城壁の上で戦う者達、これより魔法による攻撃を中止し、全て弓矢にしろ!」
イザベラ様は大声を上げた。
「「「おぉぉーー」」」
そのイザベラ様を答えるように城壁の上で戦っている者達自分をも含めて雄叫びを上げた。
イザベラ様は自分達の声に満足し、急げてその場を後にした。イザベラ様がその場から離れた事でその場に残されてる兵士達 自分をも含め士気を落ちず、全員が全員命令に従い弓に持ち替え、いつでも矢を撃てるように弦を引き絞った。
ドン ドガァーーーン
さっきと違い、防壁の前で爆発は無く、殆ど魔導砲の直ぐそこに爆発が起き、今まで聞いた事の無い爆音がかつて無い程の音量で戦場を轟いた。
そしてその爆音と共にピッタリと砲撃も止んたのだ。
『今この場に居る全てのものに宣告する!直ちに戦闘行為を中止しろ!』
一つ いや 一人の声が静かに成った戦場に響き渡る。
その声は上から聞えてくるものだと誰もが感じ、その場に居るものロベルト様も 全ての きっと城壁の外に居る者達もが上を見上げているのだ。
『エムベラド帝国のものたちは退避しろ、この場はこちらが預からせて貰う。軍・王の二国連合のものたち告げる、これ以上まだ戦いたければこの俺が相手をする事になる!そうなればかつての英雄 ローラン の名に掛けて後悔をその身に刻む事を約束する!』
声が鳴り響き、数年もの弓の鍛練のお陰で遠くにあるものをもはっきりと見える自分は城壁から少し前、要塞そのものよりも十メートルは高い所に見るからにまだ成年して間もない、少年て言える年の男が身の丈よりも長い大剣を背負い、空を足場に突っ立て居る。
本当にまるで物語の中で出て来るかつての英雄 ローラン のようだった。
『そんな威しか通ずると思うか!者とも!奴を撃ち落とし、奴等の国で謳われてるローランとやらの名を地に着かせ!』
二国連合軍の司令らしき一人の中年男子が魔法を使い、その声を戦場に居るその指揮下にある者達に伝えた。
『『おぉ!』』
上手くその声を聞いた二国連合軍の兵士達は雄叫びを上げ、片手を天に突き出した。
『ならば致し方ないが、そちらには痛い思いをさせて貰う。』
空に立つ少年はそう告げた。目の良い自分は見えた、そう告げる少年が笑った事を。
『「チュートリアルを開始します、標的としての参加に感謝します。」』
さっきの少年の声と違い、無機質な声が聞き慣れた言葉と訳の判らない二つの言葉を同時にその場に者達に聞かせた。
『ふざけた事を!全員撃ちかた用~意!』
かの軍の司令の命令で軍の兵士は即座実行に移り、揃って魔導砲の砲身を上に向けた。
トン
並び立つ魔導砲が発砲する前に少し小さい音が鳴り、それと共に二国連合軍が展開してる場所から少し前 ブレニア要塞との間に一つの土煙が上げた。
「何処を狙っている?俺は此処だ。」
さっきまで空に居る少年の姿が瞬く間に吹き立つ土煙の中から現れ、自我申告をするように声を上げた。
二国連合軍の兵士は即座に切り返して、声がする方へと一斉射撃をするように視線を飛ばし、瞬間移動でもしたような少年の姿に驚きながらも直ぐに砲口を少年の方へ向き直した。
それに対抗するように少年は背負ってる大剣の柄を握り締めその細い腕から想像し得ない力で一気に大剣を引き抜き、一振りをしたらかの軍の兵士の直前の所円を描くように地面に線を引いた。
「その線が境界線だ。もう一度言う、英雄 ローラン の名にかけて約束する。逃げたいものに俺は追わない!降伏するものに俺は攻撃しない!それらを踏まえた上でまだその線を越えて進撃を選ぶものに俺は容赦しない!」
少年は底から湧き上がる怒りを吐き出すように、力強く叫んだ。
「かっはっは、洟垂れ小僧が何をほざくか!その言葉、小僧の戯け言でだからと見逃せると思うな!」
一人の老者が二国連合軍の軍勢を掻き分け、一歩前へ出た。
「そうゆう事だ、わっぱ!とっとと消えうせろ!」
また一人さっき二国連合軍を指揮ってる武人も前へ出て来た。
「宣告はした!これ以上の言葉は、無い!」
少年は細い右腕だけの片手で大剣を持ち上げ、あの老者と武人に切っ先を向けた。
その三人は睨み合い、その場に言葉に出来ない空気を漂わせた。そんな三人を自分は城壁の上から他の要塞に居るものたちと見守る事になった。