第七話 戦争の始まりは降伏の勧告からだ
エムベラド帝国の辺境を守る要塞の一つ、ブレニア要塞はエムペラド帝国が ガレス軍国 と ローランド王国 の二国の国境線と隣接してる唯一の要塞である。
遥か昔、出来たばっかりのこの要塞はかつて一人の英雄が活躍した場所として一時は世界中の人々に知り渡っていた、そんな事もあって当時の皇帝はその英雄にこの要塞の名を付けさせて、それ以来始めてこの要塞はブレニアと言う名を付けられたのだ。
そして今その ブレニア要塞 の中はいつもの日常時と反し、人がお喋りする声が少なく、金属と
金属がぶつかり合いの音や人が行き来する足音が多くなった。
こう言う現象が起きたのはきっちりとした理由があり、そして言うまでも無くそれは ガレス軍国 と ローランド王国 の二国連合軍の侵攻がその原因なのだ。
ロベルトと他の二人が臨時軍議の中で対応策を練りそれを即座に決行した後丁度二時間が経ち、ブレニア要塞の外側、軍国と王国が有る方はもう既に五千もの兵士が隊列を組み、少し広めに展開しているのだ。
『ブレニア要塞の中に居る全てのものに告げる、これより我々軍・王の二国連合軍はエムベラド帝国領土への侵攻を開始とする。ここから先は戦 戦争になる、だから一様勧告をする。速やかに投降しろ!』
要塞の外で陣を構えている二国連合軍を指揮しているかの准将が魔法を使い、ブレニア要塞内の全てのものに声を伝えた。その声にロベルトは速やかに反応し、城壁を登り上げ、そこから下を見下ろした。
『こちらはブレニア要塞の指揮を皇帝陛下から預かったロベルトと言うものだ。軍・王の二国連合軍の指揮官に問う、何故我が国への侵攻をする?この行為は 国際対魔条約 の条約を違反したのだぞ!』
ロベルトは魔法を使わずに城壁の上で大声を上げた。
『ロベルトとやら、君は何も知らされていないようだ。先にその 国際対魔条約 を違反したのはそちらの皇帝で、我々は 国際対魔条約 に則り、貴国をその条約の対象外と見なし侵攻したまでだ。』
要塞の外にあるあのディル准将はロベルトに返事した。
『何だと!?それはあんまりにも一方的過ぎだ、こちらはその詳細を要求する!場合によればこちらは全面的降伏もする!』
ロベルトは叫ぶ。本心による言葉でも有るが、それ以上にロベルトの策でもあり、自分の国のトップ エムベラド帝国皇帝 をロベルトは信用しているからの行動だ。
国際対魔条約、帝國衰退と共に世界中にその力を見せしめた全ての人類の敵 魔族 に対する対策として世界各国が全部参加で結んだ条約で、魔族との戦時は各国家間協力し合いそれを乗り切り、不戦時は各国家間の戦いを禁ずる と大間かにこの二つに元付き作り上げたものなのだ。
その条約の違反に対しての罰則はたった一つ、その条約の対象外と見なされると言う事だけなのだ。そうなれば条約違反により各国の信頼も失う事となり、戦時、条約に元付いた他国への救援要請が出来ず、一国単独で魔族の侵攻に立ち向かう事となる。
だから余程事があっても条約違反しないよう心掛けてるのが今の時代に置いて国の上に立つ者達の常なのだ。故にかの皇帝陛下はそれ反する事はしないという確信はロベルトにはあった。
『ふん!聞く耳持たぬな!即座にこの場で降伏するのならばよし、で無ければ戦争の一途のみ!兵士達に通達!戦闘体制を取り、陣を崩すな!』
ディル准将はロベルトの要求を拒否し、その指揮下にある兵士達に通達した。
「やはり、そうなったか、仕方ない。」
ロベルトは要塞の外に居るディル准将が取った行動を目の当たりにし、口から言葉が零れた。
『そちらが侵攻をするのあらば、こちらも迎撃をする!』
ロベルトは要塞の外に居るものにそう告げ、魔法を発動した。
『ブレニア要塞に居る全てのものに告げる。皆が聞いた通りにこれから戦いは起きる、だが断言しようこれは断じて我等の皇帝陛下が招いた結果ではない!まだ見ぬ皇帝陛下を信じろと言う無茶な事を言わない、だが皇帝陛下を信じた私を信じてくれ!この国にはまだ私達の大切なものが居る!それを壊そうと侵攻しようとするものたちから我等の祖国を守れ!祖国に居る家族を 大切な人を守れ!』
ロベルトの力の有る言葉は底から湧き出た信念と共にブレニア要塞に居る全ての者達の元に届いた。
『『『おぉぉ!!!!!!』』』
魔法によるものでなく、ブレニア要塞に居る五千もの兵士はロベルトの言葉に答え雄叫びを上げ、要塞全体を揺らせたような声が轟いた。
場所を移り、要塞の外へ。
「准将殿、こちら側の準備は既に整えている、いつでも攻撃が出来る。」
ディル准将の下にかの公国大使が向かって来た。
「そうか、では王国大使殿にそちらの指揮を任せ、こちらとタイミングを合わし、一斉攻撃を。」
ディル准将はかの王国大使にそう告げる。
「准将殿、そちらが全軍の指揮を執ればもっと簡単に行けたのでは有りませんのかな?」
王国大使はディル准将に聞いた。
「いいえ、王国大使殿の協力が必要なのだ、王国の名将である貴方様のをな。」
ディル准将は公国大使の問を答える。
『食えない小童だ。』
と王国大使は心の中でそう思った。
「そこまで言うのならば致し方ないが、合図はそちら側から出し、こちらがそれに合わし攻撃をする と言う事でよろしいのかな?」
王国大使はディル准将に確認を求めた。
「はい、こちら側から魔法による合図を飛ばします。」
ディル准将は頷く。
「そうですか、では私はこれで戻るとしよう。」
公国大使は確認を取りその場から出ようとした。
「はい、宜しく頼む、王国大使殿。」
ディル准将は王国大使の背中を見送った。
『食えない爺さんだ。』
とディル准将はそう思った。
更に場所を移り、ブレニア要塞の城壁の上で。
「報告します、各部各員は所定位置についております、ロベルト様。」
一人の伝令兵が城壁の上で前に展開されている軍勢を見るロベルトに報告した。
「そうか、判った。もう一度各員に 篭城を徹しろ と念を押してくれ。それとあの部分の兵士に絶対に無理しないようにと伝えてくれ。」
ロベルトは伝令兵に指示を出した。
「判りました、では失礼します。」
伝令兵はロベルトに敬礼し、その場から離れて行った。
「......」
伝令兵の姿が無くなり、ロベルトはまた城下で整列している兵士の方を見る。
「そんなに考え込むと直ぐに老けてしまうぞ、ロベルト。」
一人の女性 前の臨時軍議の時その場に居た唯一の女性が階段の上り口から城壁の上へ出てきた。
「...来たのか、イザベラ。」
ロベルトは近付いてくる女性の名を口にした。
「相変わらず、突っ込み一つも入れないはね。つまらない男は女に嫌われるぞ。」
イザベラはロベルトをからかった。
「んくっ、しぇ、シェリアはそんなっ...ゴホン、それよりそちらの状況を教えてくれ。」
ロベルトはいつものようにイザベラにからかわれている事の自覚はあった物の、それでも動揺し、わざとらしく咳払いして無理に話を戻した。
「相変わらず、彼女の事で直ぐに動揺するね。まぁ、非常時だし、これくらいにするか。最初の部分はわたしの部隊の出番は無いがきちんと準備を済んでいる、予定通りにあいつの部隊のもの達が持たなくなったら出撃する手立ても済ました。」
イザベラはロベルトの望み通りに話を戻し、状況報告をした。
「そうか、ならこっちも準備をしないとな。」
ロベルトはそう言ってまた地上に居る軍隊に目をやる。
「本当になに一つ変わっていないものだな、ロベルト。少しは休んだらどうだ。」
イザベラは地上を注目しているロベルトに忠告をした。
「休む暇は無い、そもそも必要は無い!お前だって知っている筈だ、私はっ!」
ロベルトは少し気を荒くした。
「それくらいは知っている!だが今のお前は自分を追い込みすぎだ、張り詰めた糸のように切れたりしない為にも少しは休め!」
イザベラは気を荒くしたロベルトと同調したように気が高揚し、ロベルトが言い切る前に彼を怒鳴った。
「しかし私にはまだやらなければいけない事が...あ...る...」
ロベルトの言葉は途中で途絶えた。そうなった原因は言うまでも無く、イザベラだ。
イザベラは素直に休めようとしないロベルトの腹と頸の両方に拳骨と手刀の連撃を決まり、他のものよりもタフなロベルトを気絶させた。
「だからゆっくり休めと言ったのだ、普段のお前なら即座に返り討ちだった攻撃がもろに食らうなんて。...伝令兵!通達だ!あの馬鹿はわたしが無理矢理休ませた、だからこれより一時的にこのブレニア要塞の指揮はわたしが預かる事となった、各部にそう伝えろ!」
イザベラは軽鎧とは言え身に鎧を纏えたまま気を失ったロベルト抱き上げ、荷物を担ぐように右肩で担いて休憩室に向かいながら伝令兵を呼びつけた。
「はい、要塞に居るものを漏れなくお伝えします!」
一人の伝令兵はイザベラの言葉を不審に思えず、自然に受け入れてその場を後にした。
「さて、とっととこの馬鹿を休憩室に置いて、もう一度城壁の上に行って様子を見に行くか。」
そう言ってイザベラは休憩室に向かった。
その後、イザベラの言葉は伝令兵の口により万辺無くこのブレニア要塞に居る者達に伝わり、誰もがほっとしたようにより力を入れて戦闘準備に励んだ。