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第三話 出会いと別れはセットで来るものなのだ

父さんは俺に肩車をしてくれながら、母さんの所まで、二人の寝室までやって来た。


「あら、どうしたの?あなたとベリオットが一緒に来るなんて、明日は槍でも降るのかしら。」


一人の女性、母さんが珍しく俺と一緒に来る父さんに言う。


「そこまで驚くことでもないのだと思うが...まぁ、確かに余りこいつと ベリオットと遊ぶことが無く、二年も経つのに片手で数えるくらいなものだからな。」


父さんはそれなりの罪悪感を感じたようで、肩の上に居座る俺の頭を器用に撫で撫でしてくれた。


「へへぇ、だいじょうぶだよ、おとうちゃま。おとうちゃまにはやらなぎゃいけないことがあるのをぼくはしっているから。」


父さんの 撫で撫で が嬉しくて俺は少し笑い声混じりでそう言う。


「おっ、おぉ、そうか、知っているのか。」


父さんは少し躓いて、顔を肩の上に居る俺に向けた。


「うん!」


俺も見上げた父さんの顔を見ながら力強く頷いた。


「大丈夫よ、あなた。この子は賢いからあなたがあんまり遊んでやれないことをきっちり理解して居るわ、わたくしと違ってね、うふふ。」


母さんは父さんに安心するようにと、最後にわざとらしく冗談のように言いながら笑った。


「そうか、確かにベリオットは賢い子だ...お前は賢い子だ、父さんはこれからとっても重要な用ことかあるからお前はお母さんと一緒に、良い子で居るのだぞ。」


父さんはそう言いながら肩の上に居る俺を降ろそうと両手で持ち上げ、そのまま母さんに俺を渡し、その母さんの腕の中に納まる俺に 良い子で居ろ と言った。


「うん!おとうちゃまもおしごとかんばってね!」


俺は頷く。


「あなた、もう行くの?」


母さんは父さんに聞く。


「あぁ、今日あの御方が此処に来るからな。そろそろ到着する頃だから、迎えに行かねば。」


父さんは母さんに用ことを説明した。


「そうあの御方が...」


母さんは あの御方 とやらが誰なのかを知ってるようで、言葉が後から続かなかった。


「あぁ、だからそろそろ行かないと...」


「えぇ、分かったわ。気を付けてね、あなた。」


母さんは父さんを見詰めながらそう言う、そして父さんも母さんを見詰めている。


二人の眼差しから愛おしさが溢れて来るように互いが互いしか目に入らずそうっと近寄って行く。


俺が産まれてからもう二年になるのに今だに熱々の両親は唇を重ね、キスを交わした。幼児の体をしてるからだろうか俺は変に恥ずかしかったりもなぐむしろ嬉しいと思い、邪魔をしないようじいっとしていた。


二人は少し短いキスを交わした後いきなり離れたりをせずゆっくりと距離を伸ばして行き、しかし二人は依然見詰め合っていて他の人が眼中にないようだ。


「じゃ、行って来る。」


父さんはそう言ってこの場から離れようとする。


「えぇ、いってらっしゃい、あなた。」


母さんの言葉が父さんの耳に届いた瞬間父さんは背中を見せるように後ろに向いて前へ歩き出した。


俺を抱えている母さんは自身の部屋のドアを閉め、少しの間俺と遊んでくれた。



一、二時間くらいの時が経ったかな、俺は二歳になってようやく扱い慣れることが出来た体で遊び疲れた演技をした。


母さんは俺の演技にまんまと騙され、俺をベッドに寝かせそして自分も俺の隣で横になり、一緒にお寝んねしようと言い出した。


俺は心の中で 掛かった と騙しが成功したことに歓呼の声を上げ、幼児の体の所為で危く本当に眠ってしまう所だったが、何とか堪えることが出来た。


隣に居る母さんが眠りに付き、緩やかに寝息が立つまで俺は大人しくしていて、それを確認してからゆっくりとベットから降りた。


幸い俺の遺伝病は定期的に発作は起きるが、発作の無い時には普通の体と同じ、またはそれ以上の身体能力を保持することが出来る。


知らない世界はどうしようもなく幼い俺の好奇心を掻き立て、俺は部屋から出ようとした。


俺はドアに近付き、開けようとしたが、まだ二歳の俺にはぎりぎりで届く所にある取っ手を取ろうと必死に背伸びして手を伸ばした。


ご ご ご


誰かがノックをした。俺は直ぐに反応し、ドアが開ければきっちりその後ろに居られる位置を移動した。


「...奥方様、失礼します。」


良く知ってる声がドアの外から伝わってきた、幸いなことに母さんはその声に起こされなかった。


「...奥方さっ!...」


声の主がゆっくりとドアを開け、中を覗くとベットの上で寝息が立っている母さんを発見した。ベットにいてもその角度から確認できないが故に直ぐに口を慎み、ドアを閉めながら外に出た。


ドアが締まる時一瞬で出来た隙間からその声の主を確認した、俺の予想通り ミランダさん だ。


ミランダさんはこの屋敷に居る侍女達を束ねる侍女長をしている。そのミランダさんに見付かれば今回の探検はそれまでなんだ、だから見付かる訳には行かない。


俺はミランダが出た後外の動向を注意し盗聴をするようにドアに耳をピッタリと付けて部屋の外の音を聞こうとする。そしたら こ こ こ とミランダの足音が聞こえて来て、その足音がどんどん遠くなって行き、俺はそれが聞えなくなるまで待つことにした。


そして十数秒くらいの時間と共にミランダの足音が無くなったことを確認した俺はゆっくりとドアを開け、外に出たらまた音が立たないようゆっくりと締めた。


探検再開 と俺は文字通り子供のようにはしゃいだ。



感覚が冴えている俺は四方八面に気を配りながら進み、人が通り掛るだろうと感じた途端にその場で身を隠しやり過ごすのを待つ。そして人が居ないと判れば全力で走り抜けて行く。そんなまるで映画の中で出て来るスパイのように俺は進む。


先へ行けば行く程俺の知らない風景が記憶として俺の脳に記録され、知らないことが知ってることに変わって行く。でもそのことで俺の好奇心は収まる所か、より一層未知なるものについて知りたいと思い母さんの寝室からどんどん離れて行った。


そして俺は...迷子になった、いや、迷子とは少し違うな。


今何処に居るのかは判っている。今の位置は家の庭の近くで、ただどうやって母さんの寝室へ戻るのか判らなくなっただけだ。


通り掛る使用人達に聞けば出来なくもないが、出来れば人の手を俺は借りたくない。何よりさっきからだれ一人此処を通っていないのだ。恐らくさっき父さんが言っていた あの御方 とやらの所為なのだろう、と俺は予想を立てた。


どうしようかな?来た道ははっきり覚えていないし、闇雲に歩くと今度こそ確実に迷子になる。自分自身の家で迷子になったら良い笑い話にもならない。


そう俺は考えながら庭の方に近付き、そこから見える景色はずっと屋敷の中に居る俺にとって新鮮や綺麗などの一言で片付ることの出来ないものだ。


自身の体が小さいからか庭が広く見えて、外側は森で内側は花畑のように花で埋め尽くされ、更に屋敷から離れ所に西洋風の亭がある、前世で見た御伽噺の中のような庭であった。


俺はその亭に近付こうと歩き出し、その亭の白がどんどん眩しくなって行くのが感じた。


三十秒近く時間を消費して、俺はようやくその亭に到着することが出来た。


亭に入り俺はその高い天頂に気を取られ、ずっと見上げて居て一瞬危く倒れそうになったが、上手く体を操り何とかそれを回避することが出来、俺の視線は天頂から離れたのだ。


「だれなのあなた?どうしてここにいるのかしら?」


俺の後ろから誰かが声を掛けに来て、産まれてから二年経ってるのに一度も聞いたことの無い声に俺は 誰だろう と思い後ろに振り返った。


『きれい~』


思わず日本語で喋ってしまった。それだけ目の前の人が俺に与えた衝撃が大きいものだ。そう、正直に言えば 一目惚れ なのだ。


「なにか言いましたのかしら?」


当然さっきの俺の言葉がわからず目の前の人 いや 女の子が俺に聞いた。


「あっ、きれいなひとだな と。」


俺はもう一度この世界の言葉で言い直した。


「あらそう、あっ、ありかとう、おせじてもうれしいわ。」


俺と あぁいや 今の俺と同じくらいで二、三歳の女の子は視線を背け、前世の漫画とかで良くある反応だから俺はそれが 照れている だとわかり、本当に綺麗なのにどうやらそう言われることにまだ慣れてないようだ。


「おせじじゃないよ。」


「そう!そういってもらえてうれしいわ!」


彼女は嬉しい笑顔を見せ、それの所為で彼女がより美しく俺の目の中に映り、幼児の俺は少し気恥かしくなり視線を背けた。


「ねぇ、あなたのなまえはなに?わたくしにおしえてくれないのかしら?」


彼女はあの輝く笑顔のまま俺に聞いた。


「ぼっ、ぼくのなまえはべりおっ」


「お嬢様~!何処ですか~?あぁ!こんなとこに!お嬢様もうお帰りなのですよ!」


俺が自分の名前を伝えようとしたら、また一つ知らない声がこの庭全体に響き渡り、一人見知らない侍女がやって来て掻っ攫うようにその女の子を連れて行った。


「待っ、さよなら~ベリオ!」


俺は追いかけ様としたが、まだ二歳でしかない俺は到底無理の話で、侍女に抱えられてるあの子は後ろで追い掛けている俺に別れの言葉を告げた。


「ちがう!ベリオじゃなっ...い...ベリ、オット、だよ、ぼくの、なまえは...」


俺は走りながら必死に彼女が間違い覚えた俺の名前を正しく伝えようと叫び、しかし追い付くことも無く、俺の言葉が完全に言い切る前に侍女とその子は俺の視界から消えて行ったのだ。


追い付けることが出来なかった俺は失望し、走りから速度が落ち歩くことになってその場で立ち尽くした。

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