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第二十三話 眠りから目覚めれば何は変わっていた

「んう...」

眩しい光が閉じている目を刺激し、俺の眠りを妨げた。


「うぅ!はっ!」

徐々に意識が戻り、急に気が付き、何かに焦ったか俺はいきなり体を起こした。


「ふはっふはっ......」

息が荒く、肩を上下しながら口で短く、何度も息をした。


意識がはっきりしないまま俺の目の焦点は布団の上に留まり、息が荒く何だか感覚も鈍く感じる俺の額から何かが滑り落ち、汗じゃないその何かが布団の上に落ちだ。


ペチっとその音に引かれ、俺はその何かへ視線を向けた。


タオルだ、温くなっているが少し濡れたタオルだ。


「たおる?」


記憶が曖昧で頭がまだくらくらする、こんな時に外から誰かの足音がした。その足音の主はきっちり俺の部屋の前でその足を止めた。


ガチャっとノックも無く誰かが部屋のドアを開けた。俺の視線も自然とドアの方へ向けた。


誰かの足が見えた瞬間に ドクァン と金属製のお盆が床に落ちてその中身の水が溢れた。


「お坊っちゃまがおきて⁉︎」

自身の足も溢れた水の所為で濡れた事を気付きもしない様にその人はその場に立ち尽くした。


声から恐らく何かに驚いている顔をしているのだろう、しかし未だに俺の目に映るものはボヤけてはっきりと見える事が出来なかった。


徐々に焦点が定めて行く様に幾つがのブレが重なっていき、未だドアの前に突っ立っ人物の輪郭が少しずつ見えてきた。しかし誰なのか確認出来る前にその人は何かに気が付いた。


「直ぐに旦那様と奥方様を呼んで来ます!」

そうまるで早口言葉を言う様に言いながら軽く頭を下げて直ぐに回れ右して走り去った。


「み、らんだ、さん?」

最後に話の声からようやくその人の正体を知り、既にそこに居ないミランダさんの名前を呟いた、未だ息が荒く途切れ途切れになったけど。


数拍子遅れに錆び付いた頭はミランダさんが父さんと母さんを呼び行った事を理解した。視線をさっきのタオルへとゆっくりと戻し、またタオルと睨みっこする様にぼうっとした。


十数、或いは数十秒の時間がそのまま静かに流れて行き、意識しないうちに息が整え始め、頭も目も少しずつはっきりしてきた。


力も少しだけだが戻って来て、少しゆっくりだが俺は首を回し、周りの景色を確認した。


まぁ、一眼を見ただけで分かったけど。


ここは、俺の部屋だ。


確認がとれて間もない、開けっ放しのドアの向こうに何かに急いている足音が一つつ、聴こえてきた。


ミランダさんが父さんと母さんのどっちかだろう と少しは動けるようになった俺の脳はそう俺に教えてきた。


また少し力が入れるようになった体を動かし、布団の上に落ちてるタオルを左手で拾い上げ、右手で布団の一端を掴んで布団を退けた。


少ししか被ってないようになった足を布団から出し床に付けた。


「ベリオット!?」

ベットから降りようとする俺を誰かが、母さんが呼び止め、見た事の無い焦り様で俺の元へ走り寄る。


くァらんっと地面に転がってるあの鉄のお盆を知らないまま蹴り飛ばし、俺を抱き締めた。


「……むくっ、か、かあさん、く、くるしい!」


「あっ、ごめんね。大丈夫、ベリオット?他に痛む処はない?」

母さんの胸元に埋まれ危うく窒息しそうになり、再び気を失う前に俺は声を上げ、声が届いたか、母さんは慌てて俺を離した。


「……うん、特に痛みは無い。」


くぅ〜〜〜


さっき体中に感覚を巡らせて知っているが、今はわざと体を手であちこちに軽く触りながら母さんに返事した。


けどお腹を触った時に、お腹が情け無い音を出した。


「あら、凄い音だわ、よっぽどお腹空いてるようね。それも無理ないわ、三日三晩も寝込んだもの、直ぐ何か軽いものを作ってくるから少し待ってて。」


俺の腹の‘元気’な声を聞いた途端に母さんは笑顔になった。全くしょうがない子ね と嬉しそうに囁きながら少し急いて部屋から出て行った。


「三日三晩……」


母さんの足音を聞き、俺は呟いた。少し考え込め、眉を皺めてる俺と違い、離れで行く母さんの足音は来る時のに比べて少し緩くそして軽くなったものだった。


体のだるさが頭の効率を下げ、考えがまとまらない中俺は部屋の天井を見上げた。


そこは()()俺がデュランダルを隠した場所だ、しかし今そこには何も無いのだ。


ただの天井を見上げながら少しずつ記憶がはっきりして来た。何故三日三晩も寝込んだかは知らない、いや最後に俺と対峙していたあの男の所為であるのは間違いないが、やつが一体何をしたかが分からない。


分からないが俺が倒れるまでの経緯ははっきりとしたものになった。


最後まで俺と対峙したあの男の狙いは間違いなく俺だ、しかし倒れた俺にトドメを刺さない。これは俺が倒れた後に誰かが邪魔に入って俺を助けたと見てまず間違い無いだろう。


問題は 誰か? だ。


ゆっくりと俺は目を閉じ、ベットの上に座ったままで右手で左手手首につけたあの腕輪に当てた。


デュランダルの一部だったこの腕輪はデュランダルと繋がっていてこれを通して俺はデュランダルの在り処を感じ取った。


方角と距離を考えてそこは恐らく職務室だ。


襲撃者が誰かに邪魔された時点で少し予想がついた、しかしその職務室に置いたと知った今、予想は確信になった。


その人物は誰だと言うと だ。


「本当にこの世界でも同じだな、いつかはと思って隠し続けて来たのにまた知らない内にバレる何で。全く神様ってのは似たようなものばかりだ。」


俺は悪態を吐き、それと同時にまた誰かの足音が聴こえて来た。今度は二人、そしてきっと予想通りの人物だと俺は思った。


「なっ!お坊っちゃま!直ぐに起き上がっては駄目じゃ無いですか!」

先にドアの前に着いたミランダさんは未だベットの上座りながら足を床につけた俺を見て駆け寄って来る。


「早く横になってください、さぁさぁ。」


「もう大丈夫だ、ミランダさん。体の不具合も無いし何処も痛む事は無いさ。」


ベットの上に横になれと催促するミランダさんを俺は止めた。


「お坊っちゃまは甘いのです!」


「えっ?」


ミランダさんは少し声を大きくして頑なに拒み続ける俺を怒鳴る。その事に俺は鳥が豆鉄砲を食らった様に少し口を開けて驚きの声が漏れた。


「この際ですからはっきりと言いますが、お坊っちゃまはご自分の体大事にしなさ過ぎです。只でさえひ弱なお身体なのに。」

本当にはっきりとミランダさんは言う。その言葉がまるで棘の様にぐさっと俺の心に刺さった。


「ひ弱い……」


「そうです、虚弱体質なのです。」


小さく呟く俺にまたぐさっと棘が刺さった。


ミランダさんは‘傷付いた’俺をさぁさぁと急かす。拒み続けていても断れ切れずに俺は捩り登って行き、折れた俺の意を汲みミランダさんは直ぐに枕を立てる。


俺が背中を枕に預け、腹まで布団を掛けてようやくミランダさんは落ち着いた。


「全く心配性だな、ミランダさんは。」

ひ弱な病人として扱われた事に少し不満を感じながらも暖かく感じて、心地良さに俺は口元を緩めて笑顔を浮かべた。


「そんな事はありません、お坊っちゃまがご自分に気を使わなさ過ぎです。これくらいが普通です。」

ミランダさんは聞く耳持たない様に目を瞑りながらも返事を返した。


ミランダさんの言葉に俺は苦笑いし、目を細めた。


困ったな と思い、俺は目を開く。ミランダさん越しにドアの前にいる父さんの姿が見えた。


あの夜に最後の襲撃者を追い返し倒れた俺を家の中に運んだのは間違い無く父さんだと言う確信に俺はある、だから気不味く何を話し掛ければ良いのかが分からなかった。


俺の視線を気付いたか父さんもこちらを見る。


目が合った、その一瞬で父さんが聞きたい事を理解した。父さんもきっと俺が答える事に躓いている事に気付いたのだろう。


ほんの僅かの静かな数秒が過ぎる、静か過ぎたかミランダさんは瞑ってる目を開いて俺を見る。俺の視線を辿って未だドアの前にいる父さんを見た。


「旦那様、何故未だそんな所に居るのですか。」


俺とミランダさんの視線は共に父さんに向けて居るが父さんは返事しなかった。


「あの、旦那さっ」


「ベリオット。」

黙したままで返事しなかった父さんにもう一度呼び掛けるミランダさんの声を覆い、父さんは俺の名前を呼んだ。


「...はい。」


「もう少しゆっくりと休め、後で侍女に食事を持ってこさせるからきっちりと摂って体を休め。」


「...はい、判った。」

予想外の言葉にポカンとしたが俺は短く返事を返した。


「じゃもう行くぞ、ミランダ、行くぞ。」

父さんは部屋の中に入らずにそのまま立ち去る。


「えっ、待って下さい、どうしたんですか、旦那様?お坊ちゃま、ゆっくりお休みください、私はこれで。」


「うん、判った、ミランダさん。」


思い出したのだか、出て行く際にあの金属のお盆を拾って先に出て行った父さんを追っていった。


残された俺は言われたとおりに休む事にした。


今日の夕食は久々に母さんが作ったもので()()らしく母さんに見られながら部屋の中で摂る事となったのはまた後の話だ。

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