第十四話 親に隠している事は隠しているつもりでも実際はバレバレなのだ
ブレニア要塞から出たロベルトは自身が保持してる人外れの身体能力をフルに発揮し、その上で更に魔法を使って強化して、屋敷の方へ物凄い速度で向かって行った。
その道中息子であるベリオットの事で一杯になっていた頭が少しずつ冷静を取り戻して来た。
数分、屋敷まで後おおよそ三分の一しか無い所でロベルトはようやくいつもの落ち着きを取り戻した。
冷静になれたロベルトは方向を少しズラし目的地を変更した。向かう先を屋敷から聖域の山に変更した。
そこから更に二分経過し、かの聖域の山にある唯一の洞窟の前にロベルトは辿り着けた。
「……未だ機能してるな。下の方は……確認をしないと。」
ロベルトは洞窟の中へ一歩踏み入れ、それを歓迎してる様に真っ暗だった洞窟の中に灯りがついた。
何度か来た事があり、慣れだ感じにロベルトは入り口にある壁の一部を手で触り、それがトリガーとなり壁の一部が沈み、一つの扉が現れた。
急いで確認がしたいロベルトは躓く事無くその扉の取っ手を握り、扉を開け、中へ入った。
扉を潜って、ロベルトは神々しい白に塗り尽くしている広間に着いた。
「此処も一先ず異様が無い……」
ロベルトは周りを見回し、そう呟いた。
異様が無いと確認できた後、ロベルトは広間の中心部にある台座へ向かって行った。
「……やはり、無くなってるな……ベリオット……」
広間の中心にある台座の元に着いて、その台座の上に以前見たあの大剣がなくなっている事が直ぐに気付いた。
『ヤァ、戻ってき…おや、あの転送ゲートを通って来たものがいると思ったら、誰なんだい君は?』
台座の方から声が響き、その声に反応した様に周りの灯りが全て点滅した。
「なんだ、誰の声だ?」
知らない声が聞こえて、ロベルトは慌てて周りを見回した。
そこでようやく周りが真っ暗になってる事にロベルトは気付き、そんな中唯一光がある台座の上に視線を向けた。
『私の声だ。君からも僅かだが、私の血筋を感じるね。でも妙ね、どうも君はデュランダルを持っていないようだ。』
台座の上の光がゆっくりと人の形を成して行き、やがて一人の姿が虚空に映り出した。
その映り出した人物にロベルトは聞きたい事を聞けた。
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「今帰ったぞ!」
下の階から父さんの声が聞こえて来た。
「おかえりなさいませ、旦那様。」
直ぐに侍女と思うらしきものの声が聞こえて来た。
『父さんはもう帰って来たのか?戦後処理とかでもう少し時間が掛かると思っていたんだが。』
父さんの帰還が早すぎる所為で俺は不可解に思い、自分の部屋から出た。
「お帰りなさい、あなた。」
俺が階段口まで来た所で下から母さんの声がした。その声からでも母さんの嬉しさが感じる。
『嬉しそうだな、母さん。』
俺は思いながら階段から降りていった。
「あぁ、ただいまだ、シェリア。ベリオットはどうしてる、部屋にいるのか?」
父さんは母さんに返事し、また直ぐに俺の事を聞いた。
「大丈夫、心配しなくて良いわ。あの子、ちゃんと自分の部屋で大人しくしてるわ。」
母さんは答えた。
「そうか、私はてっきりベリオットが」
「俺がどうかしたの、父さん?」
父さんの話の途中で俺は割り込んだ。話してる内に俺は階段から降りた、そんな俺の目に抱き合ってる父さんと母さんが見えた。
「来たのか、ベリオット?なに、大した話じゃないさ。君が部屋で大人しくしてるかなと母さんに聞いただけだ。」
父さんと母さんは向かって来る俺が見えでもお互い離れずにただ視線をこっちに向いた。
「えっと、その、あの、俺は……」
思い切って嘘を吐くと決めてはいたが、いざ本番になるとなんか緊張して視線が定まらず、左右に遊走している。
「なんだ、部屋から出たのか?」
動揺してる俺を見て父さんは真っ直ぐに聞いて来た。
「だから、そのっ。」
未だにはっきりしない俺だった。
「ふふん♪大丈夫よ、あなた。ベリオットはただ数度屋敷から抜け出そうとしただけで、それも悉く失敗に終わったわ。今緊張してるはきっとその事をあなたに知られたく無いからよ。」
はっきりしない俺に代わって母さんが父さんに答えた。容赦が無く母さんが知ってる真実を全部父さんに伝えた。
「部屋で大人しくしていなくてごめんなさい、父さん。」
一部の真実がバレて、それ乗じ俺は父さんに謝った。
「まぁ、それくらいならまだ大丈夫だ。だがベリオット、君は私に言うことは無いのか?今なら怒らずに聞いてやるから、話してみろ。」
父さんは凄く真剣な顔で俺に聞いた。
「えっと、何の事かな、父さん?俺は全てを話したんだけど。」
父さんの言うことに物凄く心当たりがあるが、誤魔化すことに決めた以上当然俺は話そうとしなかった。
「本当にないのか?...はぁ、言って置くがこのチャンスは一度だけだぞ。本当になにもないならそれでいいが、もし何があってそれでも話さないなら後で私と母さんに怒られでも文句を言わせないからな。」
父さんは俺に忠告してきた。
「だから、何の事かお、俺にはさっぱりだよ、父さん。」
もうバレてるんじゃないか、と俺はハラハラしながら惚ける事に徹した。
「...そこまで話したくないのか?それなら仕方がないな、無理に聞き出すつもりはないが、いつまで隠そうと思うなよ。」
頑なに知らん振りを貫く俺にとうと父さんが折れた。
「だから、俺はっ」
「ねぇ、あなた。ベリオットが何かしたのかしら?こんなに問い詰めるなんて、余程の事じゃないと...」
急に割り込んだ母さんは不安がっている目で父さんを見詰めた。
「大丈夫だ、シェリア...ただどうやら急に戦争が止んだ事で私は少し疲れてるようだってだけだ。」
父さんは母さんに 安心しろ と言わんばかりの優しい目で母さんの目を直視した。
「えっ!本当なのか、父さん?戦争が止んだって。」
あれ以来何の情報も入っていないから今の俺が非常に気になる言葉が父さんの口から聞えた所為で、俺は思わず自分の耳を疑った。
「そう言えば今そう言ったわね、あなた。本当なのかしら?こんなに速く戦争が止むなんて、一体何があったの?」
俺の問に連れられ母さんも父さんに聞いた。
「あぁ、誰か いや 一人の少年の活躍でな。軍・王の二国連合軍は撤退して行き、斥候からの報告によるとその道中では戦意などが全く無かったようだし、再侵攻する可能性は非常に低いのだ。」
父さんは俺と母さんの問に答え、途中 一人の少年 と態々言い直してその言葉と共にほんの一瞬だけ俺の方を見た。もちろんまた直ぐに視線を母さんの方に向けだがな。
『これ、絶対バレてるよな、父さんに。』
父さんの言動から俺はそう思いながらもそれが本当がどうか、確認が出来ないから俺はただ黙したまま聞く事にした。
「一人の少年?」
父さんの言葉の中に気になる単語があったようで、母さんはその単語を復唱した。
「あぁ、その事は後でゆっくり君に話すさ。確認したい事があって急げて帰って来たけど、要塞の方にまだ戦後処理が残ってるから、私はもう一度要塞に戻らないといけないのだ。」
父さんは母さんと俺に説明した。
「えぇ、それならあなたが帰ってきてからゆっくり聞く事にするわ。それよりも確認したい事って?」
母さんは父さんの事情に理解の意を示しながらもまた気になる事について聞いた。
「まぁ、ちょっとした用事だ、もう済んた事だ。だから、私はもうそろそろ行かないと...」
父さんは少し言い辛そうにしていた。
「そう...わかったわ、気をつけてね、あなた。」
いい辛そうにしている父さんの事情を母さんは理解し、少しだけ気を落とした。
「あぁ、行って来るよ、シェリア。今日中に戻れるから、安心して待っててくれ。」
父さんはそう言って気を落としてる母さんの顔を手でそっと撫でた。
「父さん、無理しないでね。」
隣にいる俺はそう言った。
「君も心配性だな、大丈夫だ、安心しろ。じゃ、私はもう行く、さっきの言った様に夕食の時間には帰って来る筈だ。」
父さんはそう言って母さんを抱き締める手を解き、此処から出た。
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屋敷を後にしたロベルトはブレニア要塞へ向かいながら心の中であの洞窟にいるかの人物の言葉を思い返した。
『君の息子、あの子がデュランダルを引き抜く事が出来たのはそう言う資格があって、そう言う運命を辿っているからなんだ。君にはどうする事も出来ないさ。あの子は君の子であって君の子じゃないんだ。』
そう言う言葉だけがロベルトの頭の中に反響する。