第十話 戦場へ向かうもの
時は少し遡る。
祖先が残した映像はあの人が土下座の状態のまま終わった。
前に発見したあの人の手記の中でこの大剣に関しても記録があった。その文書の最後に 使い方を誤らないでくれ と明記してあった。
しかしさっき見た映像では一言をそれを触れず、自分の後代に謝る事に全部の時間を使った。その事が俺を考え込ませだ。
だが考え込む俺の頭に突如電気が走り回り、脳が溶けちまいそうな痛みが俺の全身の力を引き抜けた。
辛うじて大剣を杖代わりに体を支え、倒れずに済んだ。
時間がただ進み、その間に痛みも段々と引いて行き、痛みが完全に引いたと思えば頭の中が妙に研ぎ澄まされた感じがした。
澄んだ脳の中に一度見た走馬灯のように映像が勝手に流れ込み、しかしゆったりとしたものじゃなく、数十倍で再生してる映画のように一気に頭の中に刻み込んだ そんな感覚だ。
その過程は途方も無く短い上、さっきのような脳が溶けていくような痛みはこれぽっちも無かった。
『本システムの使用に付き、直接脳へと情報のインストールを確認しました。念の為一度はチュートリアルにて訓練を推奨します。』
無機質の声がまた響く。
「声が直接頭の中に!?」
今となってようやく響く声は人が喋った言葉と違い、直接俺の脳内に届けたのだ。さっきまで全く気が付かなかったが、何故か今頭の中でそう言うまるで予め知っていた知識のように勝手にそうだと納得した。
「チュートリアル?...チュート!?」
俺が囁いたその一瞬に知らない筈なのに何故か熟知してる知識が勝手に思い出し、まるで操作に慣れた感覚で一度は勝手に口を開けようとしたが、なんとかそれを止める事が出来た。
「...試してみるか。すーふー、チュートリアルへ移行!」
頭の中の知識に少し不安を感じた俺は腹をくくり、一回だけ深呼吸をして、キーワードを口にした。
『チュートリアルへの移行します。半径十キロの中で最適のターゲットを発見しました、そちらへ移動してください。』
俺の言葉で即座に反応し、無機質の声がまた響く。
その声と共に自分自身の頭の中にまるで遥か上空から見下ろし、高低さがある地図のように俺自身の場所と向かわせようとしてる場所もはっきりとその方角に距離それから周りの地形も、それらの全てを認知した。
「その方向は!?」
この数日で頻繁に爆音が轟く方向が父さんが戦っている場所だと屋敷から遠くへと出た事の無い俺でもそうだと、判っていた。
その方向にある一点が最適として選定され、その最適として選ばれた場所の詳細、その名称にそこに居る人数が俺の頭の中にある地図の上に細かく書き記されている。
「敵味方を全部足して一万五千...確かにこの剣は凄いが、出来るのか、俺?」
俺はさっきまで杖代わりに使っていた大剣を見詰め、考え込んだ。
何故かは判らないがはっきりとこの大剣の性能を理解出来、完全じゃないが十分にその扱い方も知った俺だが、戦闘経験以前にこの世界については屋敷で仕えてる使用人達と比べても知らない事が多すぎる。
判断する基準が俺にはないのだ。
『現場での状況から推測し、その場で対面する事になるであろう全ての可能性からターゲットとして最適です。』
俺自身に聞いた質問が無機質の声が勝手に答えをくれた。
「...そうなのか?...よし、なら、行くか!」
俺は心配半分に嬉しさ半分にその場所 ブレニア要塞 に向かうことを決めた。
俺は大剣を右手の片手に持ち替え、遠心力を利用し、一回転させ、背中に着けた。留め具など一つ無い背中にこの大剣の持ち前の力で着ける事が出来た。
「前に来た時父さんは先回りする事が出来たのはきっと近道がある筈...有った、これか?」
ショットカットの存在に確信を持ち、頭の中にある地図を注目し、早くもそれを見つける事が出来た。
「地図上の名称は 転送門 か。文字通りなら確かにあの人の居た時代は俺の居た時代よりも遠くの遥か先まで進んでいるな。」
俺は地図の上に明記した名称を確認し、目の前にある取っ手一つ無いドアに右手を着けた。
そのドアが俺の手に反応し、微かな摩擦音と共に横の壁に吸い込まれた。
ドアが開く先に白い光の奔流が渦巻く。
「信じるぞ、ご先祖!」
俺はさっき見た映像の中の人の顔を思い浮かびながら覚悟を決め、あの光の奔流の中に一歩踏み入れる。
その瞬間、俺は完全にあの光の奔流に呑み込まれた。
周りの景色が神々しい白から俺を通り越して行き来してる白き光へ変わり、数秒間、エレベーターに乗り始めた時に似てる浮遊感を感じ、その後直ぐちゃんと足が地面についた。
眩い光の所為で視界の中は依然白の一色で、ゆっくりと流れる時間と共に少しずつ元に戻って行く。
俺は周りを見回し、此処が洞窟の入り口である事を確認出来た。
「おい、本当かよ!?本当に入り口まで一瞬だったな!」
本当にあった前世の未来からの技術に俺は驚いた。
『此処から目標地帯へ行くのであらば デュランダル の能力を使用して空中から行く事をお勧めします。』
未来の技術に感心して洞窟の外を見ようとする俺の耳元にまた無機質の声が届いた。
因みに デュランダル とは俺が今背負ってるこの大剣の事だ。
「やはりそう言う事を出来るのだな。知識はあったものの、少しは不安を覚えていたのだが、今なら信じられるな!」
転送門と言う洗礼を受けた俺は今にさっき知りえた知識を信じる事が出来、これから空を飛べることがワクワクしてきた。
「確かキーワードは...これだな。斥力場開」
『起動しました、チュートリアルを遂行中の為制御はこちらでいだします。』
無機質のシステムボイスの声に連動したように、その言葉と同時に俺は見えない力の所為で足が勝手に地面を離れ、地面より数十センチも上の空中に突っ立てるように浮いている。
「せーの、ドン!」
俺の掛け声がトリガーとなり、見えない力が俺をもっと高く、空へと物凄い勢いで押し出した。
重力を振り切れ、どんどん高く上へと俺は進み、やがて空にある雲へ突っ込み、ハイスピードでまたその雲突き抜け、更なる高みへ進んで行く。
「ウォホ〜〜〜!!!こいつは凄い!」
俺の思ったままに飛んでる訳じゃ無いが、果ての無い大空が前世を含め、体験した事のない自由をくれた。
「おっと、どうした、てうぉ〜。」
どれ程高く飛んだが知らない俺は システム の制御下である程度の高さを通り越した途端に急停止し、今度は下へ向けて見えない力が俺を押して行った。
細かく頭の中にある地図を確認し、丁度目的地である父さんが居る戦場の上空へ到達すると共にまた急停止した。
ドン ドン ドン ドン
絶えずに轟く爆音は 此処が戦場だ と俺に物語っていた。