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瀬名さん、趣味合いませんね

「気根くーん」


 言語学概論の教室に移動しようと歩いてたら、瀬名さんに呼び止められた。女子3人で立ち話してたようだ。僕がそっちに向かって歩き始めると、駆け足のジェスチャーをして、”走って!” と僕に促す。

 どうした瀬名さん。今日はノリノリだね。


「こんにちは」


 瀬名さんと一緒の2人とも、この間の昼食会に居た女子たちだった。


「気根くん、元気?」


 1人から訊かれ、まあまあです、と答える。


「気根くん、次の授業の後って、用事ある?」


 今日はそのまま上がりの日だ。


「いえ、特にないですけど」

「走り、行かない?」

「走り?」


 何のことだろう。




 皇居外周を走る。いわゆる皇居ラン、ってやつだった。

 まあ、時間に融通がきく文系大学生こそ、こういうことを今の内にやっとくのもいいかもしれない。唐突、というのは瀬名さんの得意技なので、特に驚きもしない。ただ、その場に居た2人も一緒だっていうのは少し驚いた。更に、瀬名さんの足が異様に速いことにもっと驚いた。


「おーい、気根くーん」


 さっきキャンパスでしたのと同じように瀬名さんが駆け足のポーズをする。僕なりにラストスパートをしてみた。


「いやー、わたしら相手に1周遅れただけだから、大したもんだよ」


 周回遅れで、かっこも何もないんだけれども、かっこつけてラストスパートしたので、息は上がるし、足もつりそうだ。


「あの、何で3人ともそんなに速いんですか」


 僕を最初に1周抜き去ったのでは瀬名さん。その次に加藤さん、滝田さんに次々と抜かれた。3人とも速いし、フォームがプロっぽかった。ストレッチしながら加藤さんが教えてくれた。


「わたしら3人とも高校で駅伝やってたから」

「・・・初めて聞きましたよ」

「うん。言ってないもん」


 瀬名さんも淡泊に言う。瀬名さんが続ける。


「まあ・・・テストのお返しだよ」

「テスト?」

「ほら、この間、気根くんから料理のテスト受けたから、今度はわたしが気根くんをテスト。趣味が合うかな、っていう」

「・・・それで?」

「うーん、まあ、合格かな。ジョギング程度ならわたしがペース合わせてあげればいいだけだし」

「あの・・・そもそも走る趣味はないんですけど」

「ん? じゃあ、走る人になって」


 その後も僕たちはお互いに、”テスト” を繰り返した。

 僕が大好きなバンドの動画を見せれば瀬名さんは、


「リズム隊が甘い」


と、辛口のコメントをする。瀬名さんから渡された、”わたしの心に残る一冊” を読んだ僕は、


「リアルさに欠ける」


と、評論する。


「趣味、合わないね」


 けれども僕たちはなぜか一緒にいる。

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