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瀬名さん、花火大会なんですけど

実家帰省中の2週間は意外と長い。


明智とシホのヨリを戻し瀬名さんの誤解を解くのに使った3日間の間も僕は精力的に活動していた。


まず、地元のイベント・飲食店情報を中心にフリーペーパーを発行しているNPO法人でのインターンをこなした。非営利法人だけれどもフリーペーパーに付随したイベントの企画・興行も手掛けており、その辺の民間企業よりも事業性がしっかりしていて収益構造も抜群だ。近隣県含めても知名度の高いフリーペーパーなので地元大学の学生も何人もインターンに参加していた。


それから、お墓に行った。


お盆間近なので『気根家代々の墓』を僕が掃除しに行ったのだ。

お墓は里山麓の共同墓地にある。子供の頃は神社の脇の崖っぷちの細い道しかなく、ばあちゃんと一緒に一升瓶を抱えて登って行った。別に酒盛りするわけじゃなくて。水場もないので掃除や花を活けるのに使う水をそうやって持参するしかなかったので。

今は車が通れる道もつき、駐車場に水場もできたので、瀬名さんと横浜へのドライブで練習した成果とばかりに父親から車を借りて乗りつけた。

日中だと暑くて作業にならないので日の出と同時に。ふっと背後に気配を感じて見上げると、日の出の正反対の位置に有明の月が浮かんでいて、墓地ながらロマンチックな光景だった。


麗人れいと。花火大会にサクラで出てよ」

「なにそれ」


母親の意味不明な頼みをよく訊くと、お盆に合わせた地元新聞社主催の花火大会が今年の猛暑で参加人数の大幅減が見込まれるらしい。町内会でテント席を強制割り当てされたので、出ろ、と。


「麗人ひとりじゃダメよ。最低もうひとり以上連れてくのよ」

「じゃあ、明智とシホを」

「ダメ。シホちゃんも町内会で割り当てられてて、あの子は明智くんを連れてくから」

「うーん」

「ほら、唸ってないで。夏だし花火なんだからなんでもアリよ」

「なんでも?」

「そう。なんでも」


・・・・・・・・・・・・


僕はクラクションを鳴らす。ご近所迷惑にならないように、プッ、とほんとに軽く。

一度でいいからこういうアニメや漫画的なシチュを実演してみたかった。


僕が見上げる部屋の灯りが消える。

30秒ほどしてアパートのエントランスに彼女が姿を見せる。


「気根くん」

「瀬名さん、おはようございます」


別に驚くほどのことじゃない。


東京と僕の実家の街にいくら距離があると言ったって地続きだ。

高速をひとっ走り・・・とまでの気軽さではないけれども、仮眠をとりながらならば僕1人の運転でもこうして瀬名さんのアパートまでたどり着けることが実証された。


「気根くん、眠くない?」

「大丈夫です。それより瀬名さんは?」

「夜勤上がりだけど、平気。明日明後日と二連休だし」


早朝の東京。


まだ熱を帯びない清涼な空気の中、僕と瀬名さんは車に乗り込んだ。


まあ、父親から借りたのはひと昔前のオヤジ臭いセダンだけれども、気にしない。僕らは首都高、それからそのまま実家方面に向けた高速に乗った。


「瀬名さん、何か曲かけてください」

「わたしの趣味でいいの?」

「はい。できれば眠気が吹っ飛ぶやつを」

「あ。ごめんね、後で運転代わるから」


そう言って瀬名さんはブルートゥースでスマホをコネクトし、曲をスタートさせた。


ドラムの小太鼓・・・じゃなかった、スネアでリズムが刻まれ、歪むようなうねるようなギターの音色が脳を覚醒させてくれた。


「わ。なんですか、これ?」

「レニー・クラヴィッツの、『Are you gonna go my way?』よ。邦題は『自由への疾走』」


PVではサングラスをかけたブロンドの女子ドラマーが叩いていて、それがまたクールなのだと瀬名さんが解説してくれた。


僕はその映像を思い浮かべながら、最高のロックンロールをバックに、ハイウェイを疾走した。


・・・・・脳内で描写しててちょっとだけ恥ずかしくなったけれども。


・・・・・・・・・・・・・


実家に着いたのは夕方近く。いくら横浜まで首都高を使って練習したといっても運転初心者2人。おっかなびっくりで何度も休憩しながら、それでも僕が東京までかかった時間よりは随分と短縮してたどり着けた。


実家に着いて挨拶もそこそこに僕らは花火大会会場の河川敷まで今度は自転車で向かった。


「これが気根くんの街・・・」

「はは。何にもないですけどね」

「ううん。なんだか風景がとても柔らかい。だからなのね」

「え」

「気根くんが優しいのは」


照れてしまった。


「よー、気根。その人が?」

「瀬名です。はじめまして」

「明智です。いつも気根が世話になってます」

「シホです。その・・・色々とご迷惑かけちゃって」


ううん、と笑顔で首を振る瀬名さん。


「お。始まるぞ」


テント席に陣取った僕らの前で主催者側の開会の挨拶が始まった。

僕は聞き流して隣に座る瀬名さんの顔を見る。

浴衣じゃないのが残念だけれども、この間の子猫とのツーショットと同じ白いノースリーブ。

髪が、まだ熱を持った夜風になびいている。


「気根くん」

「は、はい」

「何発上がるの?」

「え? えーと、確か3,000発」

「そう。わたしの実家は5,000発よ」


やっぱり瀬名さんだ。


・・・・・・・・・・・・


花火が終わった後、瀬名さんだけでなく、明智とシホも実家に『お呼ばれ』した。


「いやー、瀬名さん、いいなー」

「まあ、麗人にはちょっともったいないわね」

「うるさいよ。どうせ明智とシホみたいに釣り合い取れてないよ」

「あ、麗人。それはそれで失礼な言い方」


そう言っている内に瀬名さんと母親が台所から素麺の追加を運んできた。


「はいはいはい。ソーメンだけはいくらでもあるからねー。あ、それから麗人、瀬名さんの布団、あんたの部屋に運んどいて」


数秒、僕らの動きが止まった。


「え? 僕の部屋に?」

「そうよ。なにかまずい?」

「え。いやいや。まずいでしょ。瀬名さんには座敷で寝てもらえばいいでしょ」

「ダメなのよー。梶田のおじちゃんたち花火見に来てて。お父さんが迎えに行っててこれから連れて来るから。ほら、あそこって孫まで入れたら10人近いでしょ」


確かにウチは本家で、じいちゃんやばあちゃんの兄弟たちが生きてた頃は10人どころか30人近くお盆に親戚が一斉に集まり、部屋という部屋の襖を全部外してざこ寝してた記憶がある。でも、だからと言って・・・


「そうか。気根もついに大人になるのか」

麗人れいと〜。ちょっと寂しいけどみんなが通る道だから〜」


僕は抵抗を試みる。


「いや、ダメでしょ? まだ結婚もしてないのに・・・」

「え? だめかしら? どうせいずれ結婚するのに。瀬名さん、どう?」

「お母さま、他に部屋が空いてないのなら仕方ないですね」


全員、おかしい。


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