奴ら
ある日、Zウィルスが漏れ、パンデミックが発生した。
感染者はゾンビ化し、人の肉を求め、人を襲っていた。パンデミックは政府の尽力により、一つの市、T市だけで収まった。
T市は有刺鉄線に囲まれ、ゾンビと生存者は共に隔離されたのだった……
▲▲▲
それから数週間。
男はひたすら奴らから逃げていた。もう何日間も何も食べていない。飢えと恐怖が彼の行動を支配していた。
仲間は皆、もういなくなってしまった。奴らに殺されてしまったのだ。
自分ももいずれ奴らに見つかる。そして、殺されるのだろう。
怖い……死にたくない……
お腹が空いた……誰か食料を……
男はひたすらと頭の中で訴えていた。死にたくないという本能と食事をしたいという本能が争った結果、死にたくないという本能が勝り、男は隠れ家にこもっていた。
しかし、
ある日、男は突然決心した。自殺する事を。
生きている理由が見あたらないのと、このまま飢えで苦しむよりは楽に死にたいと思ったからだ。
重く動きにくい足を引きずるように男は歩き始めた。
ノロリノロリと……
隠れ家の近くに十階建てのビルがあることを思い出し、男はそのビルで飛び降り自殺をする事にした。
隠れ家から出ると、町は廃墟と化していた。辺りは明るく、すこし眩しかった。
周辺を見渡したが、奴らは近くにはいないようだった。
一歩一歩ゆっくりと足を動かした。
お腹が空いていて、なかなか力が出ない。
ビルに着き、ゆっくりとビルの中に入った。警戒しながら慎重に進んだ。しばらく進と、男は食料をビルの中で発見した。
男は跳び跳ねるように喜び食料の所に行こうとした。
しかし、なんと同時に男は奴らも見つけてしまった。奴らもこちらに気がついたらしく、何か叫んでいる。
男にとって究極の選択だった。空腹を満たしたいという本能を選ぶか、逃げるという理性を選ぶか。
男は本能と理性の狭間な挟まってしまったのだ。
結果、男は理性を選択しようとした。踵を返しそして逃げようとしたのだ。
奴らに殺される……
男は無我夢中で逃げようとした。
しかし……
男は勝てなかった。
男は食糧めがけて走り始めた。
どうしても食べたい。どうしても食べたい。
男が食糧に飛びつこうとした時だった。
奴らの撃った銃弾が彼の頭と心臓を撃ち抜いた。
直後、男は倒れた。
男は黒くて赤い血を流しながら倒れた。
そして思った。
最後に、人の肉を食べたかった。
と……
▲▲▲
12月11日 T市で発生したパンデミックの最後のゾンビが射殺され、事件は無事解決したのだった。
そう、奴らこそ食糧であり食糧こそ奴らだったのだ。