修学旅行前日②
放課後になり清雅と智紘ちゃんに今日は遊ばないのかと言われたが、スキルのほうが気になったので修学旅行の準備ができていないと言って足早に家へと帰ってきた。
修学旅行の準備ができていないのは本当なので、まあ、完全嘘ではない。
「ただいま!ちょっと出かけてくる!」
後ろから聞こえてくる母さんの夕方までには帰ってくるのよーという声を置き去りにして、挨拶もおざなりについたとたんに俺は家を飛び出した。
向かうのは近所のちょっとした山の中にある神社である。
家の近くには子どもでもなんとか上ることのできる小山があるのだが、その中に今回の目的地の神社がある。そこは普段めったに人が訪れることがないので、俺の秘密基地兼トレーニングセンターになっている。少し前に清雅たちと三人で遊びに行ったとき偶然見つけた神社だ。一応行くときはお賽銭をする俺以外の参拝客が見当たらず、暇なときは大体ここで本を読んだりしている。
そんなこんなで、何をしてスキルを確認しようかなと考えていたら、いつもより早く到着した気がする。
「さて、まずは今は何時かなー」
俺は腕時計をみて驚いた。家に帰ってからまだ10分もかかっていなかったのだ。近いと言っても山までは、2~3キロ弱はあるはずなのにこんなに早く着くとは……。
そりゃ、いつもより早く着いた気がするわな。
しかも、全然息切れとかしてないし、汗もでてない……。
「チートやん。こんなんチートやん!」
エルシィさんに口ぶりからあんまり期待してなかったけど、これはひょっとするとひょっとするかもしれないぞ!
そして俺の身体測定が始まった。
腕立て伏せ、腹筋、背筋、反復横飛びなどなどいろいろやったが全く疲れないし、汗もかかなかった。百回くらいしか試してないけど、全部本気でやったし、自分が小学生だと考えるとかなりすごいんじゃないだろうか?
「俺TUEEEEE!!」
思わず口から出てしまった。周りに人がいないからいいものの、街中でやったらちょっとやばい子だな。ねぇーまま。あのお兄ちゃん叫んでるよ?しっ!見ちゃいけません!系の。
「それにしても本当に体に異常が見つかんないなぁ。チートかよ」
「それもしても、ここまですごいスキルだとは思いもしなかったな。エルシィさんも鑑定よりは珍しくないって言ってたけど、全然使えるじゃん」
思わぬ副産物である。これだったら鍛え続ければプロのアスリートにもなれるんじゃないか?エルシィさんも鍛えたほうがって言ってたし。
今後の目標は決まった!アスリートだ!
なんのアスリートになろうかな?
野球もいいけど、サッカーもいいな。柔道とかボクシングとかもあこがれる。
とにかく、なんかスポーツはやろう。
さて、あとは何を試そうかな。
しばらくして、俺は一通り性能を楽しんで、家へと再び全速力で帰った。
ちょうど晩御飯の準備をしていたらしく、母さんの手伝いをすることにする。
「母さん手伝うよ!」
「あら、珍しい。何かいいことでもあったの?」
「うん、ちょっとね」
そんな話をしつつ晩御飯を作る。
料理ができたので、並べていると姉さんが帰ってきた。
「ただいまそーくん。お母さん」
「お帰りなさい葵ちゃん」
俺にもそれに続いてお帰りなさいといって席に着く。
「先にご飯食べる?それともお風呂?それともー……そーくん?」
「な、なに言ってんの母さん!」
もちろん母さんも冗談で言ってるんだろうけど、顔が赤くなってしまう
「そーくんで!って言いたいところだけど、先にお風呂入らせてもらうね。部活でかいちゃったし。先に食べててね」
姉さんはそういうとお風呂のほうへと向かってしまった。
「じゃあ、ご飯食べましょうかそーくん」
こうして晩御飯が始まる。まったく母さんには困ったものである。ちなみに今日の献立は、ハンバーグである。おいしくいただきました。
さて、そろそろいい時間だし俺も風呂に入ってくるか。
風呂場に行くと脱衣所で姉さんとすれ違った。
「そーくんこれからお風呂?」
「そうだよ。姉さんは上がったの?」
「うん。……もう少し長く使ってたらそーくんとお風呂入れたのか残念」
「ね、ねーさんまで何をいってるんだよ!」
「ふふっ。赤くなっちゃて可愛い」
「もう!俺は風呂はいるから!」
姉さんは知らないかもしれないけど、俺たちは本当の兄弟じゃないんだから邪な感情を抱いてしまう。あの完璧なプロポーションの女と一緒に風呂にはいるのはいつも思うが苦痛すぎる。小学生だし、手を出せないしの二重苦で大変苦しい。……まあ、それでもたまに風呂に一緒に入らないと姉さんが拗ねてしまうから入るのだが。
風呂からでて、布団に入り、今日一日を振り返る。
とんでもない一日だったなあ。スキルが発現して、人の個人情報見ちゃうし、もう一つのスキルも思ったよりチートだったし。
一番は修学旅行のことだけど。
さて、明日は修学旅行本番だから早く寝るか。
こうして怒涛の一日は終わったのである。
しかし、俺はこのときは全く気が付かなかった。身体能力強化スキルの恐ろしい副作用に……。
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