転生
とろとろ投稿。
猛省
「これは……」
エルシィさんは紙を神妙な面持ちで紙を見ていた。時折、なるほど……とか、これは。とか呟いてうなずいていた。
何か間違えとかがあったんだろうか。そうだよな。じゃないと俺が世界でも知られている偉人達に匹敵するほどの善行を積んでるはずがないからな。そうだよ。うん。最後にちょこっと女の子を助けただけだし、しかも半分以上助けられなかったしなぁ。
それにしてもあの子大丈夫かな。トラウマとか植え付けられてないといいけど。しかし、可愛い娘だったな。あんな感じの子がアイドルとか女優になるんだろうか。もしそうだったら、お近づきになれたかもなぁ。
下世話なことを考えていると、前方からすごい圧を感じた。
恐る恐る前を向くとエルシィさんがこちらを睨みつけていた。美人が睨みつけると怖く感じるというのを聞いたことがあるが、確かにその通りだと実感するほどには凄みのようなものが感じられた。
「エ、エルシィさん。どうかしたんですか?やっぱり、何か間違いでもあったんですか?」
「……色んな人かわいいだとか綺麗だとか言って、誰にでもそう言ってるんですね。勘違いするところでした。心の中の声は全部聞こえるのですよ?」
にっこりと凄まじいほどの笑顔でエルシィさんは言い放った。
な、なんだそんなことか。間違いじゃなくてよかった。
「なんだそんなことですか」
「そんなことって何ですか!こっちはとっても嬉しかったんですよ!人に特別に見られたことなんてなかったんですから、本当にうれしかったのに!」
「いやいや、変な意味じゃなくて。特別に思ってますよ。エルシィさんは本当に美人だし、助けた女の子も本当に可愛いかったんですよ」
これは本心だ。俺もさすがに直接は言わないが、心の中で美人な人は美人だっていうし、可愛い子には可愛いという。もちろん、女の子だけじゃなくて男にも言う。男には直接言うことも多いがイケメンにはイケメンやかっこいいという。何度も言うがエルシィさんは本当に美しい。あの女の子とはベクトルの違うものがあるだけだ。
「わかりました。そういうことにしておきます」
機嫌が戻ったのか、今度はさっきとは違い柔らかく微笑む。
うん。こっちのほうが俺は好きだ。
「好きって……」
また少し顔を赤くして何かを言った。ぼそぼそと喋ったのであまり聞こえなかったが、なんていったんだろう?
「今なんて「さあ、説明の続きですね!」」
食い気味で遮られてしまった。まあ、そこまで気になってないしいいか。
「さて、説明の続きなのですが、間違いなどはありませんでした」
「え?じゃあ、ほかの人のと間違えたとか?」
「いえ、そのような取り違えもありません。しっかりと岩城様のものです。あのような高数値になったのはほかに理由があります。岩城様は特に罪がありません。あっても差し引きに影響のないものばかりです。一方で善行値はごみ拾いやボランティアなどで加算されています。電車の中でのご老人に席を譲ることものを拾って交番に届けるなど微小なものも含まれています。それらが積み重なって、今の値になっています。決め手は最後のあの行動ですけどね」
確かに俺は普段からごみ拾いなんかやボランティアをしている。電車に乗ったらご老人に席を譲ることにしているし、覚えている限り嘘もついたことはない。でも、そんな当たり前のことで偉人並みの善悪値になるはずが……。
「なるのです。当たり前のことでもできない人はたくさんいます。もちろん、今、岩城様が思い浮かべたものだけではあそこまでの値は出ませんでした。最後に女の子を助けたのが大きく加算されています。それでも、最後の加算は今までの善行なくしてはないものでした」
な、なんか照れるな。そこまでのことをした覚えはないのに。
「そこまでのことをしたのです。よろしいですね。では、転生の準備に入らさせていただきます。岩城様の善悪値は96。規定により転生に際して三つの願いを叶えることができます。ただし、不老不死・無敵・完全催眠などの行き過ぎなものや非人道的なものはなしです。まあ、岩城さんなら大丈夫でしょうけど」
こ、これは最近ネット小説とかでよく見る転生……!まさか俺にもこのチャンスが来るとは。
さて、しかし、突然願いを叶えてくれるといっても結構悩むな。最近では人を要求するアニメとか小説もあったし、そういうのもいいと思うのだが、選ばれた人に迷惑だしなあ。
かといって武器とか魔法とか言っても扱いきれるかわ買わないし……。とりあえず二つは決まってるんだけどな。
「あ、一つ言い忘れていたのですが、転生先は岩城様がいた世界と同じ世界になります。その点はご注意ください」
同じ世界に行くのか。珍しいな。さて、どうするか。そうだな。これにするか。
「じゃあ、残された家族の生活の保障してくれますか?」
「え?自分のことじゃなくていいのですか?一度行ったことは取り消せませんよ?」
「はい。まずは家族のことが心配なんで」
「はあ、そうですか。では、お次は何でしょうか?」
「じゃあ、助けた女の子の傷とか後遺症とかなしにもらえますか?」
「大丈夫ですけど、それいいのですか?さっきも言った通り一度行ったことは取り消せないのですよ?」
「大丈夫です。最後のお願いなんですけど、前世というか今の記憶を保持したまま転生できますか?」
「あぁ、それは高善悪値の方のデフォルトスキルですので他にお願いします」
「やった!ほかにもあったんですけど、記憶を保持してないといけない願いがあったんですよ。改めて最後の願いなんですけど、エルシィさんと話すことってできますか?エルシィさんができる時でいいんですけど」
「へ?」
エルシィさんは少しポカーンとしたまま数秒固まった。
あれ、おかしなこと言っちゃったかな。
まさか、俺嫌われている?
「嫌ってなんかいません!あなたがおかしなお願いばっかりするからです!ここに来る人はみんな自分のことばっかりで、ほかの人のことは考えた人はごく一握りの人たちだけでした。家族さえも考えずに自分のことで手一杯な人だらけです。ほかの人のことも考える人も大抵は、家族のみで私たちや赤の他人に願いを割こうとした人はいません。あなたは自分のための願いを言ってもいい人だと私は思います。……本当にその三つの願いでよろしいのですか?これは最後の確認です」
「少し恥ずかしいんですけど、俺死ぬ前って結構恵まれていた気がするんです。お母さんにもお父さんにも優しくしてもらって、大学まで行って友達もそれなりにいて。彼女はいませんでしたけど……。はっきり言って順風満帆でした。でも、恩返しとかありがとうとか素直に伝えられなかったんですね。だから、こんな形になっちゃったけど、両親と傷ついたあの子だけには幸せになってほしいんです。俺の分まで」
俺は真摯に気持ちを伝えた。この空間で偽りの言葉を吐いても意味わないからな。
またエルシィさんは少し固まった。またなんかおかしなことでも言っちゃたのかな?でも、これはお願いを言えるって聞いた時から決めてたことだから無理にでも飲んでもらわないと。
すると肩を震わせながら彼女は若干怒りを含みつつ俺に問いかけてきた。
「じゃ、じゃあ。なんで私と話せることが願いなんですか?ほかの友人とかの保証はしなくていいんですか?」
「最初はそう思ったんですけど、やっぱり少しはいい思いをしていって思っちゃって……。強いて言えば、ご褒美ってやつですね」
なぜか顔を赤くしながら、こちらを軽く睥睨してきた。
睨む姿もさっきとは違って全然怖くなくて、むしろ可愛さが入って、なんでこの可愛さと綺麗さを備えた完璧超人はって感じなんだが。
「もう。どこまで私を喜ばせればいいんですか?わかりました。あなたの願いは私の全力をもって叶えさせていただきます。では、実際に転生に入ります。次に会うのは転生してからですね。また、お会いすることを楽しみにしております。では、よい来世を」
エルシィさんは俺に向かって手をかざすと俺は光に包まれて徐々に消えていった。それは暖かくて、どことなく気持ちがよくてふわふわとした気分になり眠くなっていくような感覚だった。ふとエルシィさんの顔が目に入った。彼女は柔らかな笑みを携えてこちらを女神のように見守っていた。その時、俺はああ。やっぱりあの願いにしてよかったなと思ったと同時に完全に瞼がおり、転生した。
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