始まりの事件
肌寒さで目が覚めふと外を見れば雪が降っていた。
疲れてそのままソファで寝ていたせいだろうか?
体が痛い。
俺は寒さと体の痛みを感じていた。
寝ぼけた頭がさえるともに、今日はクリスマスだったなと思い出す。
ホワイトクリスマスか、まあ俺には関係ないが。
テレビをつけるとニュースがやっていた。
「…では、本日のトップニュースの時間です。最近多発している連続幼女誘拐殺人事件の犯人が現在△△県〇〇市に潜伏中との一報が入りました。地元警察は100人を動員して、逮捕に向かうと今朝早くに発表しました。〇〇市の皆さんは外出を控えるようにとの事です。この男はスーパーなどでひとりでいる幼女を薬品で眠らせトイレや人がいない場所で性的暴行を加え、連れさるそうです。」
テレビの中のアナウンサーは、クリスマスなのに嫌なニュースが入りましたね。と言っているが、本当にその通りだ。
そんな事より、時間を確かめねば。
テレビの時計を見ると12:00を過ぎていた。
彼女いない歴=人生の俺は悲しく一人で目を覚ます。
「彼女、彼女かぁ」
思わずため息が出てしまう。
いかん、いかんこれはこれで一人で気楽にダラダラできていいのだ!
と半ば強制的に気持ちを切り替えて、何と無くベランダに出てみる。
越してきて初めて見るマンションからの都会の雪に僅かながら感嘆を覚えるが、少し向こうに見える都会には珍しく雰囲気のいい公園を見てしまいまた気持ちが沈む。
恋人らしき人達の群
7階にある俺の部屋からと俺の割といい視力は、顔まではあまり見えないが格好や隣の人と何をしているかが分かる。
いや、分かってしまう。
手を繋ぐ人、腕を組む人、相合傘をする人
あ、あの木の下の恋人キスした…
「チッ人生勝ち組のリア充が、てめぇら家でやれや」
まさか聞こえはしないだろうが、口に出てしまった
ドス黒い感情が心を支配する。
今なら嫉妬で人を殺せる気がするぜ。
いや、むしろ周りの幸せオーラで俺が死ぬまである。
そんなふうなことを考えているとそれを諌めるように体を冷やす風が吹き体震える。
「さみぃな、誰か暖めてくれる人が欲しい……」
人肌恋しい
朝–正確には昼だが–から嫌な事を考えてしまった。
鬱だ寝よう。
今度こそちゃんと寝るために、自家に入り、部屋に戻りエアコンを暖房に設定し布団に入る。
「おやすみなさい」
誰に言うでもない俺の習慣だが、そう呟き目を閉じる。
すると、すぐに幸いにも寝起きだからかすぐに睡魔が襲来し意識が混濁して夢の中へと旅立ってしまった。
「ん、んぅ」
小さくあくびをして、枕元で充電していた携帯で時間を確かめる。
21:23
携帯の画面に映し出された時刻その時間帯を示していた。
そして瞬間に脳裏にある事が駆け巡る
「冷蔵庫の中、何もないやん」
誰もいないのに一人呟いてしまった。
仕方ない今夜は寂しくコンビニの弁当ですますか。
そう思い寝巻きの上からコートを羽織り家を出た。
そういえば、なんか忘れてることあるなー。
なんだっけか?
まぁ、忘れるということは、その程度のことだったのだろう。
その時、俺は世間ではクリスマスというイベントが敢行されていたという事を強制的に記憶から排除してふて寝していたことを忘れていた。
弁当で済まそうかと思っていた俺は、街にで楽しげに歩くカップルを見て思い出してしまう。
今日は恋人達は楽しいクリスマスだと。
図らずも恋人達からクリスマスだと事実を知らされてしまった。
「少し奮発するか。」
そう言いコンビニへからスーパーへと進路を変更した。
スーパヘの道中でふと電気屋の店頭に並んでいるテレビが目に入った。
すると、ちょうどまたニュースがやっていて、時間を知らせてくれた。
21:50
まあ、家からの距離を考えると妥当な時間かな?
ニュースの内容は昼の連続児童誘拐殺人事件の最新情報のようで、なんと今までわからない顔がわかったらしい。
なんか、髭面の大男らしいが、今は多少変わっているだろうな。頬にある大きなホクロが特徴らしい。
まあ、早く捕まえてくれとありがたいな。
っと、こんなの見てたら日が変わっちまうぜ。早くスーパーへ行こう。
そう思い俺は足を速めた。
スーパーに着くともう少ないが少し親子連れがいるようでご苦労な事だと思うが、結婚のしていない俺からしてみると、とても羨ましく感じる。
一人の母親らしき人は不安げな表情をして、りょうちゃんと言う自分の子供らしき名前を叫んでいる。
たくっ、親に迷惑かけんなよな。
そんな事を考えながらぼーとして歩いていると
前からくる人に気がつかず軽く当たってしまった。
「すいません!大丈夫ですか?」
すぐさま俺は謝った。が、相手は
「……」
無言で二階方面へ鬼気迫った顔をして去っていった。
なんだよあの男は!
頭も下げず、何も言わない。
背中に眠って小さな女の子をおんぶしていたから、起こされたくないのかもしれないが、少しは謝罪の意を見せて欲しいかった。
それにしても、変な親子だったなー。
二階には軽いゲーセンと物置に使われている小部屋しかないのに、女の子が遊ぶにしても眠ってるし何をするんだろう?
そういえばあの男の顔…
それにさっきの迷子を探してる母親…
いや、まさか
そんな訳あるか?
でも、
見るだけ見てみるか
あの親子が普通に過ごしたら思い過ごしだってわかるしな
きっと大丈夫なはずさ 。
そうこうしているうちに二階に着く。
夜も遅いしもうすでにゲーセンには誰もいない。
そうだれもいないのだ
そんな筈がない
この二階には出入り口は俺が上がってきた階段のみで、あとはゲーセンと物置しか無いはず
「キャーッ!たすけっ!」
途中で途切れた悲鳴が物置から聞こえた!
俺は急いで駆けだす。
勢いよくドアを開け
「大丈夫か!」
と言い放った俺が見たのは腹から血を流して倒れている女の子とまだ血が滴っている包丁を持った男だった。
叫ばれた事で気が動転して刺したのだろうか?
唖然としている男に俺は何も聞かず殴りかかっていた。
普段は働かないちっぽけな正義感が燃え上がっていた俺何も考えずは相手の顔面に向かって、渾身のパンチを繰り出した。
突然の一撃で運良く気絶したらしい男を放っておいて俺は女の子のそばに行った。
「今助けてやる!心配するな!」
俺はまず警察に電話する。
ちょうどコール音がなっていると女の子何か言ってるのに気づいた。
「どうした?」
口元に耳を近づける。
女の子は震えるか細い声で言った。
「う…しろ」
俺はすぐに女の子の言葉の意味に気づき振り向いたが、遅かった。
ズブ
背中に異物が入るのがわかった。
俺は重大な失敗をした。
あいつに少しでも意識を割いていれば、こんな事にはならなかったはずだ。
せめてこの子だけは!
俺はほぼ無意識にあいつに向かってタックルを決めた。
同時に女の子の横に倒れこむ。
あいつは頭を打ったようで、どうやら本当に気絶したようだ。
何故だかわからないが、あまり痛みは感じない。
そのまま女の子に覆い被さる様に倒れこむ。
覆い被さることで、少しでも女の子を守ろうと思ったのだが、あまり意味の無いことだろう。
これで限界であった。
少なくともこれで女の子は守れたかな?
僅かに首をひねりよく見ると気絶した男の顔の頬に大きなホクロがある。
やっぱりか。
頭がぼんやりする。
死ぬのか。
あまり怖くないな。
あー、死にたくねぇな。
まだ、やりたい事たくさんあるのに。
彼女だっていないし、子供だって欲しかった。
両親にだって恩返ししてないし。
ふと壁掛けのアナログ時計が目に入る。
時計は11時30分を示していた。
「あぁ、これで終わ…り…か」
そう呟いたと思っているが、口からは何も発せなかったのだろう。
僅かに開かれた目から、俺の言葉を聞き取ろうとする女の子の顔が見れた。
とても可愛らしい顔立ちだった。
美少女の命を救えたなら本望かな?
もう目も開けられない。
かろうじて機能していた耳に扉が開く音が、聞こえてきた。
これで、一先ずは安心だろう。
そして、訪れる暗闇が全身をふわりと包むような死の感覚。
その感覚は、思いのほか心地よかった。
ただ眠る。
そんな感覚だった。
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