勇者パーティの役立たずと言われた男のその後
前作での感想ありがとうございました。
本来ならば、連載作と共に投稿する予定でしたが、リアルの仕事がなんか忙しくなり、書く暇がなくなってしまい、なんとか書き上げることのできたこちらを投稿します。
聖女たちから逃げ出して1年が経った頃、俺はようやく冷静にものを考えられるようになった。
なんでそんなにかかったかって?
住んでいた家を出て旅だった先にあいつらが待ち受けていて、そこから逃げてもまた別の奴がいて…
今いる小島で釣りをしながら過ごすこと半年、日がな一日、海を眺めていたら、段々と冷静に今までのことを考えられるようになった。
とりあえず、美雷光はクソだった。これは決定事項だ。
あいつも、女神に踊らされた一人ではあるかもしれないけど、俺はあいつを好きになれない。
奴は、一切の努力をしなかった。俺よりも強くなれる…否、強いはずだったにもかかわらず、それを使う術を身につけようとしなかった。ただ与えられた物をただ受け取るだけだった。それを悪いというつもりはない。だが、疑問に感じるべきときはあったはずだ。
昨日まで、俺とよく一緒にいた聖女が、俺の声かけを一切無視するようになったこと。
俺と訓練していた女騎士が、俺に対して友好的じゃ無い態度をとるようになったこと。
女商人が、俺にだけ装備を用意しないこと。
一言でも、女たちに態度を改めるよう言ったことがあっただろうか?
ない。
奴は、女たちの態度に一切の疑問を抱くことなく、ただ、そういうものなのだと流していた。
まるで、親から養ってもらう幼い子供だ。
奴は、イケメンだった。その面を利用してヒメプレイするのならば、周囲の環境を整えるぐらいの配慮をすべきだろう。
勇者を安請け合いしたくせに一切何もせず、与えられることに疑問を感じない奴をクソと評する俺は間違っているだろうか?
まぁ、あっというまに処刑になったって話を聞いた時は、さすがに同情したがな。
そんだけ、聖女たちの怒りが凄かったってことかね?
聖女たちについてだが、当初は、別れる直前まで俺を汚物でも見るかのように見ていた奴らが、次会った時は恋する乙女のような視線(実際に恋する乙女だが)を向けて来て愛を口にしてきたことに嫌悪感とか、気味悪さを感じて拒否してきたが、スキルデリーターの効果を知って理解したし、彼女たちにしてみても、スキルの呪縛が解かれた後の苦痛は、想像を絶するものだったのだろう。
実際に自殺しようとした者やそういう行為をするも早期に発見されて助かった者などがいたと聞くと、冷静になった今では、あまり恨みは浮かんでこない。
でも、感情が、あの時の苦しみが、俺を納得させてくれない。だから、俺を追いかけてやってきた彼女たちに俺自身の心の整理をする為にしばらく、一人でいさせてほしいと話し、整理がついたら、絶対に会いに行くと約束して一旦帰ってもらった。
いつ、整理がつくかは、わからないけどな。
今日も今日とて釣りをしていると、空気がざわつきだした。
家に戻って装備を付ける暇はなさそうだ。
釣竿を置いて、このざわついた空気の中心へ意識を向ける。
突然、光が集まり、渋い感じのおっさんと身体を鎖でグルグル巻きにされた美女が現われた。なんだ? 新手のSMプレイですか?
「勇者よ。突然の来訪、申し訳ない。
我は、上級神アルベルトと言う。そして、これが愚かで浅はかなこの世界の神であった下級神フランだ」
「で、俺に何のよう?」
「黙れ! 何故、貴様の様なクズが勇者なのだ!? 美雷光こそ、至高の勇者であろう!」
なんか知んないけど、フランとかいうのが、俺に怒鳴ってくる。
「クズは貴様だ! まだわからんのか、この愚か者め!!」
アルベルトの拳がフランの頭に振り下ろされた。
あ~、あれ、絶対に手加減してねえわ。
「申し訳ない。勇者よ」
続いて、おっさんは、俺に頭を下げた。
良くわかんないけど、とりあえず、二人を家に入れた。
「改めて名乗ろう、我はアルベルト。この愚かな下級女神の上司だ」
「上司?」
「ウム」
「で、なんで、そいつは拘束されてんです?」
「こやつは、神族としておかしてはならない罪を犯した。人が罪を犯した時のように神もまた、神界で決められた法によって裁かれるのだ」
「つまりあんたは、犯罪者を捕まえに来た警察ってことか?」
「そう思ってもらって構わない」
「で、こいつ何やったの?」
「世界を一つ崩壊させた。それも、直属の上司である我の管理していた世界をだ」
「は? どうやって?」
「美雷光を連れ出したからだ」
「ゴメン。それだけじゃ意味がわからない」
「世界には、その中心となる存在が必要となる。わかりやすい例で言おう。例えば、物語の主人公がいなくなったらどうなる?」
そんなもん、他の主要キャラによるスピンオフに……いや、違う…スピンオフだってそれは元々の物語、主人公が存在していた話があってこそだ。その主人公がいなくなるってことは…
「つまり、あんたの世界での主人公は、美雷だったってことか? じゃあ、俺はどうなる?
モブなんてどうなろうが関係ないってことか?」
「それは違う。勇者よ、おまえはもとからこの世界へ召喚されることになっていたのだ。この世界の主人公として。
世界にもランク分けがある。上級神の管理する世界は上級世界。下級神の管理する世界は下級世界といった具合にな。
下級世界は、まだ未熟でよくバグが発生する。バグとは、放置すれば、世界を崩壊させてしまう危険性があるのだ。
上級世界ならば、上級神による修正が可能だが、下級世界の神には手に余る。
その為、下級神の世界にバグが発生した場合には、上級神の管理世界で主人公を生み出し、下級世界へ送ることになっている。
上級世界の人間は、下級世界の人間よりも遥かに高い能力を持っているからだ」
「つまり、この世界でのバグっていうのは魔王のことで、俺は魔王を倒す為にあんたの世界で生まれ育ち、この世界に来て魔王を倒す運命だったということか?」
「その通りだ。しかし、そこの愚か者は、何を血迷ったのか、我が世界の中心であった美雷光を連れ去った。その為、我が世界は、バランスを失い崩壊した」
「ちょっと待ってくれ。あいつは、あんたの世界では中心だったんだろ? 上級世界の中心だった奴にしては、あいつ弱すぎないか?」
「それは、美雷光が我が世界の中心だったが、この世界では、異端だったからだ」
「異端?」
「ウム。
世界は会場で存在するにはチケットが必要だと想像してほしい。我が世界は赤いチケットで、この世界は青いチケットとしよう。その場合、赤いチケットを持つ美雷光は青の中では、異端であった為、世界の恩恵を受けられず、また、異端故に排除されたのだ」
「なら、なんで、俺は、俺の生まれ育った世界で排除されることはなかったんだ?」
「それは、おまえが、仮チケットを持っていたからだ。一定期間のみ有効な赤いチケットを持っていた為、おまえは召喚されるまで、我が世界にいることが出来たのだ。
赤いチケットしか持たない美雷光にそこの愚か者は、赤いチケットを青く見えるよう擬態させていたのだが、おまえによってその擬態が消されてしまった為、あっというまに世界から排除されてしまったのだ」
「栄光の譲渡と受領か!!」
「そうだ」
ここまでの話を聞いて考えると、美雷光のあの行動のしなさも納得できる気がしてきた。たぶんだが、アルベルトの世界は、恋愛シミュレーションみたいな世界だったんだ。
美雷の周囲には、美少女幼馴染やカワイイ後輩、隠れファンの多い風紀委員長やミスコン優勝者である生徒会長、さらには新任美人教師がいた。
そいつらに美雷は、応援の言葉とかを贈っていた。
………ああ、そうか…
この世界で出会った女たちは、答えのない悩みを抱えていて俺が行動したから、答えを導きだせたのに対して、前の世界で美雷の周りにいた女たちは、答えがわかっているけど、一歩踏み出す勇気がなかった。でも、美雷の一言でその一歩を踏み出せた女たちだったんだ。
あいつは、行動ぜずとも、踏み出す勇気を与える存在だったんだ。
そういう存在なんだと思えると、あいつに対してクソとか言っていたのが申し訳なくなってきた。
「さて、そろそろ、この愚か者を大神たちのもとへ連れて行かねばならん」
「そうか、で、そいつがいなくなった後のこの世界はどうなる?」
「どうにもならん、世界を失っても我が生きているように、管理する神がいなくとも世界は生き続ける。
まぁ、すぐに新しい神が管理者になるだろうがな」
「最後に教えてくれ、そいつはどんな罰を受けるんだ?」
「この愚か者の為に消え去った何億もの命の苦しみと同じだけの苦しみを与える。
地獄の最奥にて身動きを封じ、頭上に激痛を与える毒蛇を置く。これの罪が消えるまで、そのまま放置だ。
神故に気が狂うこともできず、永遠に孤独と苦しみを受け続けることとなる」
「そうか… その毒蛇は、一番きついのにしてくれよ」
「無論だ」
アルベルトは、自称女神を鎖に繋いだまま、小脇に抱えて、来た時と同じように光となって消えた。
「……」
おれは、家を出て、家の側に立て直したモロの墓の隣に元いた世界の人々の為の墓をつくった。
哀しいかな、この世界に来てずっと、命を懸けた戦いをしていたこともあってか、前の世界の友人知人の顔や名前がすぐに浮かんでこない。
墓石になんて彫るか悩んだけど、ただ一言『安らかに』とだけ彫ることにした。
異世界召喚について、私の考えを書かせてもらいました。
突然、召喚されてなんだかんだ言っていても結局は順応するのは、元からそうなると決まっていたからではないか、と思ったんです。