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シーズン  作者: 神崎みこ
3/4

彼女の理由

 別に彼らに対して恋愛感情を抱いているわけじゃない。

そんな、安っぽいものじゃない。

私たちには私たちのやり方があって、ただ、それを邪魔するように入ってくる「あの子達」が気に入らなかっただけ。


「つーかさ、露骨すぎ」

「だよねーー、彼氏ばっかり応援しちゃってさ」

「この前なんか、独占して教えてもらってたし、それってサークルとして良くなくない?」


似たような思いを持っている仲間と盛り上がる。

私たちの集まりは、きちんとした部活の形態を持っているわけじゃない。当然、規約も緩やかだ。誰が参加してもいいし、どういう態度で挑んでも、よほどの事がない限りそれらが問題になることはない。だけど、サークル外の人間が入ってきて、我が物顔で振舞うのはやっぱり気に入らない。

メンバーの恋人が参加したり、試合ともなれば応援にやってくることは珍しいことじゃない。だけど居心地のいい空間に突如降って湧いた連中を気に入るはずもなく、私たちはよそよそしい態度をとって、彼女達を排除にかかる。


「仲良くしてやってくれ」


なんて言われることも多いけど、彼女達のほうからして仲良くする気がないわけだし、二つ三つ彼女の知らない彼のことを話しただけで、機嫌が悪くなるような狭量な女性は好きじゃない。

後で、どうして意地悪をするんだ?なんて直接言ってくるやつもいるけど、その度ににっこり笑ってやればそのまま困惑したような笑顔を浮かべてうやむやになるのだから、ちょろいものだ。

こうやって私たちは自分に居心地がよい場所を守りつづけているのだ。

私たちの、いや、サークルそのもののために。




「いいかげんに小姑じみたまねやめなよね」


突然友人から発せられた言葉は、最初意味がまるでわからなかった。


「小姑って、誰が?私男の兄弟いないけど」


たぶん、彼女の言っているのはこのことだろうけど、テレビドラマの中でしか知らないその単語にぴんとこない。


「違うって、サークルのこと」

「は?そりゃあ、サークルに入っているけどさ」


クラスメートの言っていることが本気でわからない。お昼休みはわりと皆でごはんを食べることが多いのだけれど、今日もやっぱり六人程でテーブルを囲んでいる。困りきって周囲の人間の様子を窺うけれども、彼女達はわけがわかっているのか、小さく頷いている。


「今まで何人メンバーやめていったか、知ってる?」

「うん、知ってるけど?今シーズンに入って二人やめたから、十人かな?たぶん」

「それって多いと思わない?しかも男ばっかり」

「多いって言われても、他のサークルのことは知らないし。皆忙しいっていうから仕方ないんじゃないの?うちってそんな強制っぽいことしないしさ」


そう、そこが私のサークルの良いところなのだ、出るも自由入るも自由。名簿なんて名ばかりで、実際問題正確な人数は把握していないのだ。


「あのね、陰で何言われているか知ってる?」

「陰って……」


五人の視線がまっすぐに私に注がれて、少しだけ恐くなる。誰も何も口を挟まないのは、その陰で言っていることを皆が知っているということなのだろうか。


「あの女どもは、メンバーの恋人をいじめまくって追い出しているってさ」

「ちょっ……、いじめって」

「だって本当のことでしょう?何かっていえばケチつけて、聞こえよがしに陰口叩いてさ。それが嫌になって辞めていったってわからないわけないよね?」


本気で、よくわからない。

私はいじめているつもりも、陰口を言っているつもりもない。

だって、誰も私にそんなことを指摘しなかった。辞めていった連中にしても、バイトで忙しくて、としか言わなかったじゃないか。

呆然としている私をよそに、口火を切った友人以外のクラスメートが発言をする。


「いじめないでくれって頼まれたでしょ?先週あたりに」


そういえば、そんなことを言われたような気もする。けれども私が笑顔で違うよって答えたら、笑顔で応えてくれたではないか。だからこそ彼は私の真意に気がついてくれたのだと思っていたのに。


「私はサークルのためを思って」

「出入り自由なサークルなんでしょ?どうして彼女を連れてきちゃだめなわけ?」

「だめ、じゃないけど……」


サークルの女性陣と盛り上がっていた内容が、頭の中をぐるぐるめぐっている。

彼女達と言い合ったことに疑問を覚えたこともない。だからこそ、今こういう風に責められている理由がわからない。


「だって、私たちがいないと」


そう、私たちがいないと、あのサークルは成り立たない。いつだって気を使ってサークルのために働いるのに。


「辞めていった人は、それぞれ集まって似たようなことやってるみたいだよ。そっちの方が居心地がいいからって、両方参加している人もいるし」


最近あまり集まりが良くないということは事実としてわかっていた。今週末も本当なら車を出してくれる人間が、直前になって無理だと言い出したし。その理由については深くは問わなかったけれど、恋人が関係しているのではないのかと勘ぐってはいる。同じサークルの女性が車を出してくれることになって、彼のことは忘れていたけれど、もしかしたらその他の集まりに参加するのかもしれない。


「恋愛感情はないわけでしょ?だったらイチイチ気にするのやめなよ。こう、私たちに接するみたいに接しなって」

「そうしているつもりだけど?」


男の子たちにしても、私はあからさまに媚をうるようなタイプじゃない。

そんなことをすれば、きっと、サークル仲間からめちゃくちゃたたかれるだろう。だから、私の態度に落ち度はない、はずだ。

多少、彼らの恋人たちについては、冷めた態度で接していたかもしれないけれど。


「だったら、どうして恋人ができたぐらいでごちゃごちゃ言うわけ?」

「私たちに彼氏が出来た時だってそんなこと言わなかったっしょ?」


彼女たちにそれぞれ彼氏が出来た時には、寂しい思いはしたけれども、私には私の生活があるし、と素直に嬉しく思っていた。ふと、私は同じような気持ちでメンバーに接していたのかと考える。

彼女達に対する気持ちのようには、喜べなかった。

かもしれない。

少なくとも、相手の容貌や立ち振る舞いを細かくチェックして、囁きあう、なんてことは、友達の彼氏に対してはしていなかったはずだ。


頭が混乱する。


私の表情はあからさまに曇っているのか、逆に心配そうな顔をされてしまった。


「もっと早く言えばよかったんだけどさ、やっぱりちょっと言いにくくて」

「それにさ、なんて言ったっけ?あの背の高い女の先輩いるじゃん。あの人ってモロ恋愛感情持ってますって顔に描いてあるし、嫉妬する女子マネってかんじだよね、自分達って」


嫉妬?

ますます頭が混乱する。

どうして私が嫉妬しなくちゃいけないの?

恋愛感情?

誰が?誰に?


「ああ、本当に自分で気がついてなかったわけ?」

「違う!」


私たちの感情は恋愛感情からくるただの嫉妬、八つ当たりだと断言され、思いのほか語気が強まる。


「まあ、もう少し良く考えてみなね、サークルだってギスギスしてるんじゃないの?」


そんなことはない、と即座に断言することができなかった。

そのまま、昼休みが終了し、それぞれが取っている授業を受けるべく教室へと移動していく。

その動きに習いながら、私もノロノロと移動を開始する。足はいつもの動きを繰り返してはいるが、頭の中は疑問で混乱したままだ。

彼女達の言語はわかるのに、その本質的な意味が理解できない。

私の存在そのものを全否定されたような気分だ。

強く頭を振って、彼女達に言われたことを頭から放り出す。


私は、わからないフリをすることに決めた。

今のままでいいのだと。






「またやめたんだって?」

「……そうだけど、よく知ってるね、そんなこと」


相変わらず数人で昼食を囲む。今日は唐突にクラスメートがサークルの話題を持ち出してきた、あの時のように。


「そりゃね、だって有名だもん」

「有名って……」


この間クラスメートたちに言われて、じゃないけれど、なんとなくサークルを客観的に眺めてみようと試みた。そう心がけて見渡してみると、やっぱり彼女達の言う事にも少しは分がある、そんな気になってきたのだ。妙にサークルそのものが浮いている、といった事実にも薄々は気がついている。加入したメンバーの残存率が悪いことにも。


「あの人って、彼女いたよね。振られたみたいだけど」

「よく知ってるわねって、彼振られたの???」


この前は堂々と彼女に電話してたじゃないか、そんな言葉が喉まででかかる。


「うん、そうみたい。別の男と歩いているのを見たって聞いたし」

「その情報はどこから入ってくるわけ?」

「うちの大学そんなに大きくないから、結構詳しいよ?みんな。自分は、あんまり外には興味ないみたいだけどさ」


外、というのはやはり、サークルの外、という意味だろう。そんな風に言われるほど、私はあそこに執心しているように見えるのだろうか。


「それに、例の背の高い先輩が告白したっていうのも有名だし」


そんな事を言われて、口にしていたものを噴出しそうになった。

慌てて、お茶でそれらを飲み込む。


「な、なにそれ」

「何って、言ったじゃない。狙ってるってあの人」

「そんなわけ」

「現におおっぴらに言い寄ったみたいだよ。あっという間に振られたみたいだけど」


それは、そうだろうと、わずかに安堵する。彼の方は私たちにそういう感情を持ってはいないのだから。だけど、そこまで考えて、私たち、いや、先輩の言動が矛盾していることに気がつく。


「でも、それが狙いなんでしょ?あなたたちって」

「狙い?」

「うん、内輪だけで固まって、それ以外に目を向けるのが嫌で嫌で仕方がないって感じだし。だから排除しまくってたんでしょう?」

「……」


彼女達に言われたことが理解できなくて、言葉に詰まる。

私は純粋にサークルが良くなるように努めてきたのだ。それが誤解されることも少なくない、けれども、私は私なりにがんばってきたのに。


「あなたは違うかもしれないけど、少なくとも先輩は男狙いってことでしょ?意地悪までしてさ」

「いいかげん自分達がやってきたことに気がついたら?」


それでもわからなくて、彼女達に溜息をつかれてしまう。


「だからね、皆平等に扱えっていってるの、それだけでいいから」

「私はそうやってる」

「だったら、メンバーの女子の彼氏にも、のこのこやってきて、邪魔なのがわからないわけ?って言うの?」


いつかは忘れてしまったけれど、確かに私が発したと思われるセリフが友人の口から零れ落ちる。その刺々しい言葉に、自分が言ったにもかかわらず愕然とする。


「気がついた?他にも伝わってるけど、どれもこれもひどいもんだよね」


念を押すように自分から出て行った言葉達を思い起こさせてくれる。そう、私は確かにそうやってメンバーの彼女達を追い詰めていった。

追い詰める?

自然発生的に紡ぎだした言葉にさらに愕然とする。


「もしも、もしもだよ?例の先輩がそのままメンバーと付き合ってたら、同じ態度をとる?今までみたいに」


つまり後からやってきたよそ者として先輩を扱えということなのだろうか。

そんなことは、できないかもしれない。

だけど、今までの彼女達には排他的ととられるような行動を起こしてきたのはどうしてなのだろう。

私の方が彼らのことを知っているのに、後からやってきて全てを知っています、という顔をするのが嫌だったのだ、きっと。だから、私たちの中の一人が彼らと付き合うのなら納得がいく。

――違う。激しく矛盾している。

恋愛感情を持たないことを前提としているはずなのに、グループ内での交際しか認められないなんて。


「まあ、別れたのは本人同士の責任だろうけどさ。つーか、あの男もばかだよね、あれだけ彼女を放っておいたら振られるのあたりまえじゃん」

「本当に、よく知ってるね」


自分の思考すらきちんと整理できていない私は、もはや溜息をつくほかなくなっている。


「あそこは有名だし。うちの大学で三年も付き合ってたら嫌でも目に付くしさ」

「あなたもこわーーい、お局集団と同一視されたくなかったら、早く足を洗う事ね」


友人達は食べ終わった食器をのせ、トレーを持って片付け始める。もう昼休みも終わろうとしている。


私のせいじゃない。


彼と彼女が別れたのは、私たちのせいじゃない。

聞こえないようにそう呟いた。

私は、サークルのために色々なことを我慢しているのだから。




結局、友人たちの言葉が私の中へと届く事はなかった。

彼女達が言っていた意味に気がついたのはずっとあと。

就職して、私が“後から入った人間”になった瞬間だった。

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