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暗闇と月  作者: 桜樹
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壱:『処刑人』

 世界中に蔓延した原因不明の病気はいつしか薬によって駆逐される。

 それは昔あった天然痘然りエボラ出血熱然りである。

 その次は抗体が出来上がる。これでその病気は驚異ではなくなる。

 しかしその薬にある副作用を忘れてはならない。

 何度マウスで実験しようと何かしらの影響はあったりする。

 約十年前の事である。世界中に蔓延した《病状不明》の病気。

 病原体は同じウイルス。なのに病状に共通点はなかった。

 ある者は風邪の症状が現れある者は体中の色素が欠乏し、またある者は貧血になりある者は失明した。

 更に動物も感染し姿を変貌させる者が現れた。

 感染率百パーセント。動植物全てに感染し、なおかつ病状が個体によって全く違うという事実を医者達は無視し病原体を殺す事に専念した。

 結果出来上がった薬でウイルスは消滅。この間僅か四ヶ月。

 問題はこの後。どう云う訳か皆が皆、いわゆる超能力者になった。

 報告例は『突然火が出た』とか『行きたいところにいつの間にか居た』と言ったところ。

 子供に遺伝までするようで、今はベビーベッドの上で突如炎上する子供や感電死する子供も珍しくない。

 説はいくつもあり『新薬が人の脳に異常をきたし、遺伝子までも変化した』と『ウイルスが人間の脳に異常をきたし、薬によって消えたのは症状だけで未だに体内に潜伏している』というが今の所有力な説である。

 次に感染した人間及び動植物の凶暴化。

 『蚤が巨大化して人が干乾びるまで血を吸う』とか『エノコログサが通りかかるものを刺殺した』など。

 人間の場合、『急に人を殺し始めた』や『急に物を壊し始めた』など。

 変化は急に訪れる。

 だが『明日は我が身か』と思われて暴徒化されても困るが故に世界でも知っている人間は限られてくる。

 それらを処理するのは専ら軍人の裏の仕事。

 壊れてしまった者に死をもたらす、それは人間と云う種の存続の為の一種の戦争。

 当然表には出てこない。

 そして今日も一人、凶人と化してしまった人間だった化け物が処理されていた。

『はぁ、はぁ……!』

 中年の男性は裏路地を走る。自らの存在の為に。

 疾駆する躯は服の下は歪に変形し、服にはところどころ血が付いている。

 誰も彼には付いて来れない。 百メートルを五秒と掛らず走り抜ける物に追いつける人間など居ようか。

 しかし如何せん場所が悪かった。

『はぁ、行き止まり……!』

 袋小路に入ってしまったようだ。逃げ場は無い。

「そうだ。そしてアンタの最期の場所でもある」

『!』

 勢い良く振り返る。

 男の前には一人の少年がいた。

 高校生くらいだろうか、肩に掛かるくらいの黒髪をそのままにしているコートの少年。

「もう解っている筈だ大谷洋介。アンタはもう自分じゃないって事がな」

 静かに告げる。

『ウル、サイ。私は私だ。私には娘がいるんだ。今日は誕生日なんだ。オマエラみたいな処刑人に構ってる場合じゃないんだ。ミチヲ、アケロ……!』

 変貌しきった喉から出る声にはノイズが混じった感じだ。

「は、よく言うぜ。その娘を無残に殺して走って此処まで来たクセに」

 ビクリ、と大谷は震えた。

『チガ、ウ。私はマダ家にも帰って居ない。アレハ電車の中で見た悪夢、ナンダ……!』

「違わない。アンタはその爪で自身の娘をズッタズタの襤褸雑巾にしたんだ」

『ソレガ、夢なんだ!』

 大谷は叫ぶ。

「なら聞くが、何もしていないアンタが何故逃げる必要がある?おかしくなってないなら身体検査も怖くないだろ?」

 少年は問う。

『ソレハ……』

「返答に詰まってる時点でそれが肯定だよ。いい加減認めたらどうだ?」

『………』

 大谷の頭は理解しきったが理性が認める事を拒絶する。

「ま、そうだよな。普通の神経してた人間ならまず認めたりしない。したら自己が壊れるからな。まあ肯定しようが否定しようが事実がある以上、法に沿ってアンタに『死』をやるよ」

 少年は拳銃を構えた。

「出来れば苦しませたくないし手間も取りたくない。事実を受け入れてくれれば万々歳なんだが、どうだ?」

『ワタシは、ミトメルコトハ、出来ない』

「……だろうな。いいぜ、アンタを『処断』する。楽に逝きたきゃじっとしていることだ。助かりたければ、俺を排除するしかないぞ」

 出口は少年の後ろ。

 大谷と少年の距離は約十メートル。今の大谷の脚なら一秒と掛かるまい。

(走って、クビを、薙ぐダケダ!)

 ダンッ、と大谷は地を蹴った。

 初速も十分。武装もした。後はもう強化された爪を振るうだけだ。それで終わる。

 しかし、爪は少年に当たる事無く止まった。

 大谷本人が躊躇した訳ではない。

「そっちが楽に死んでくれないからって訳じゃないが、こっちも死んでやれないんだよな」

 少年は固まっている大谷の額に銃口を向けた。

 大谷が力を込めずに離れていれば、戦況は変わっていたかもしれない。

『……コロス気は無かったンダ』

 大谷はぽつりと呟いた。

 声にはこれ以上抵抗する意志は見えない。

『……考えてミレバ此処でキミをコロシタところでモトニハ戻れない。ナラ――今更ダガ、お願いシテモ良いか?』

「ようやく認めたみたいだな。納得はいった。この世に未練は――まあ、あるだろうな。最後に、来世では幸せにな」

 少年の銃が火を吹いた。

 銃弾はまだ人間の形をした大谷の頭を吹き飛ばした。

「……楽に逝かしてやるって言ったな」

 続けて銃弾が何度も吐き出される。

 一体どのような特殊弾なのか被弾箇所が吹き飛ばされていく。

 大谷洋介という存在が物理的に消滅したところで少年は銃を仕舞い、変わりに取り出した無線機に向けて話しかけた。

「こちら神崎。対象の消滅の確認してくれ」

『りょーかいりょーかいお疲れ雪斗くん。そっちに「掃除班」を向かわせるよ』

「……双華。仕事中にその軽いノリで話すのやめてくれ。気が緩む」

 少年の名前は神崎雪斗というらしい。

『あんまりシリアスだとつまらなくない?』

「仕事と私生活は分けるべきだと俺は思うんだが」

『そうかな?私はこんな暗い仕事だからこそ明るく行こうと思ってるんだけどな』

 双華の後ろで『衿宮中尉ー!』という怒声が聞こえる。

『あ、ヤバい!見つかっちゃった。それじゃ後でか明日ね!』

 逃げ去る足音が聞こえる。

「……はあ」

 丁度いいところに『掃除班』が着いた。

 同じようなコートを着た三名が散らばる。

「神崎少佐殿。後は我々が」

 そのうちの一人が近づいて敬礼をする。

 外見から察するに雪斗よりも年上の女性。

「いつもごくろーさん。環さんたちも大変だな。ついでに、年上なんだからタメ口で」

「階級は貴方の方が上です。事後処理だけですのでそう疲れるわけじゃありませんよ。しっかしまた派手にやってますね。ただ殺すだけなら頭を撃つだけでいいでしょうに」

 無い死体を見て環が言う。

「楽に逝かしてやるって言ったからな」

「そうですか。貴方らしいと言えば貴方らしい、かな?」

 にっこりと笑っている。

「そうか?そういや宿題は終わったか?」

「机の上に置いてるので勝手に写してください」

 雪斗達の本業は学生。当然だが毎日宿題がある。

 『掃除班』の環は仕事が来るまで彼らの宿題をやっていたりする。

「助かる。やるの面倒だからな」

「たまには自分でやってくださいよ。衿宮中尉もですけど」

 二人共滅多に自分で宿題をやらないらしい。

「仕事がない日には自分でやってる」

「仕事が無い日が無いでしょう。明日も学校なんですからそろそろ帰った方が良いのでは?」

 時計は既に深夜の一時を指している。

「もうこんな時間か。んじゃ、先に上がらせてもらうよ」

「はい、お休みなさい」

 ビシッと敬礼をする環。

「だからそうゆう堅いのはいいってば」

 神崎雪斗は苦笑して帰っていく。

 明日の学校を遅刻しない為に。

「お前は続き書かんと違う話ば書きおるんか!」と言うのは言わないで下さい……。

向こうは詰まってしまったのでちょっと違う話を書いてみました。

「『異世界に〜』の続きが読みたかったんじゃ!」(って人いるのかな?)はごめんなさい。もう少し待ってくださいね……。

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