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猫の魔者  作者: ルイン
第一章 連れ去られた子猫
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朝の出来事



 風が、木に咲いた白い花を散らした。その風に舞った一枚の白い花びらが、開け放たれた窓からユラユラと部屋へ迷い込み、コリスの鼻の上に舞い落ちた。



「へっくしゅんっ!」


 自分のくしゃみで目が覚めたコリスは、寝ぼけた目でぼんやりとあたりを見渡した。隣を見ると、グローリアがいた場所は空っぽで冷たくなっていた。


 ひょっこりと寝床から頭を出したコリスは、朝の光にうっすらと照らされた部屋を見た。おぼつかない足取りで寝床から出ると、寝癖のついている水色の毛をふるふると振って、付いていたホコリを落とした。



「グローリア? どこ?」


 小さく呼んでも、部屋はしんとして返事がない。ホコリの付いているカーペットの上をトコトコと踏みしめながら、コリスは奥の部屋を出た。



「わっ!」


リビングに入ったとたん、突然目の前にシーリーの顔が飛び込んできて、コリスは驚いて尻餅(しりもち)をついた。


「おはようございます! コリス君。昨夜はよく眠れましたか? なにか分からないことがあったら、なんでも言ってくださいね!」


 朝からハイテンションのシーリーについていけてないコリスは「わ、分かりました」とどもりながら言った。



「あ、あの! グローリアはどこですか?」


 なぜかシーリーの使う敬語がうつったらしく、どぎまぎしながらコリスはそう聞いた。シーリーは白い毛並みを波立たせて笑うと、優しく微笑んだ。


「グローリアは今出かけてていないんです。でも、もうすぐ戻って来ますよ。それまで、朝食にしましょう!」


 元気よく立ち上がったシーリーにつられてコリスも立ち上がると、二人はテーブルの方へと向かった。




「あ、ちょっと待っててね。私、変身しますから!」


「えっ?」


 突然、シーリーはそう言うとコリスに背を向けた。よく分からないコリスは首をかしげるままだ。シーリーはなにやらぶつぶつと呟くと、温かい空気がシーリーの周りに渦巻いた。コリスはどこか、その感覚に身に覚えがあった。



 と、そう感じた瞬間。いきなり目の前に一人の人間が立っていた。後ろを向いているので、スカートから出ている白い尻尾が見える。


「え・・・・・・シーリー?」


 コリスは、細い身体に茶色のエプロンを着ている人間の娘に声をかけた。彼女は振り返ると「あたりです!」と、嬉しそうに銀色の瞳を輝かせた。猫のときと同じで髪の毛は白だった。細長い絹のようなその髪を、後ろでひとつに結っている。


「どうですか? 猫の部族は大人になると、人間の姿にもなれるんですよ! だから頑張りましょう!」


 なにを? と聞く前に、シーリーはさっさとリビングの隣にあるキッチンへ行ってしまった。



 コリスは色々と聞きたいことがあったのだが、シーリーが「朝食を食べながら話しましょう!」と言うので、おとなしくテーブルの上で待っていた。

 


 もちろん、コリスはテーブルが高すぎて登れない。ので、シーリーに抱き上げて乗せてもらったのだ。


 薄茶色のスカートをヒラヒラさせながら、楽しそうに朝食の準備をしているシーリーを見て、コリスは気持ちが落ち着いていくのが分かった。グローリアが言っていたように、この家の住人はコリスを拒絶するのではなく、歓迎しているのだとコリスは思ったのだ。


 緊張の色が薄れて、穏やかな顔のコリスを見たシーリーは、ほっとしたように顔を和ませた。そして、二人はにっこりと和やかに笑い合った。



 

 少し経って、シーリーが朝食を持ってテーブルに戻ってきた。にぼしとミルクが入った皿をテーブルに置くと、立ったまま手を腰に当てた。

 

 「さあ、出来ましたよ! 食べましょう!」シーリーが元気にそう言うと、突然ふっと姿が消えてしまった。


「ええっ!? シーリー?!」コリスは突然のことにビックリしながらシーリーを呼んだ。


 すると、シーリーがいた場所から、真っ白な猫がテーブルの上にジャンプしてきたので、コリスは驚いて「わっ!」と飛び上がった。


 テーブルの上に座った白猫のシーリーは、いたずらっ子の顔で嬉しそうにペロリと舌を出した。

【猫の魔者を書く上であった裏話】


 こんにちは!今回は「猫の魔者」の題名について話します。


 実は、この題名は最初に考えていたのと少し違っていました。



 最初は「コリスと猫の魔者」にする予定だったんですが、ちょっとあの有名な本が頭に浮かんだのでやめにしたのです(笑)


 でも、この小説の題名は「コレ!」というふうにすぐに決まったので、この題名はけっこう気に入っています。



 ではでは、ありがとうございました。

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