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猫の魔者  作者: ルイン
第八章 魔法の修行
48/53

魔法について

 



グローリアの瞬間移動で、コリスたちはグローリアの家にやってきた。久々の帰宅である。



 移動したところは庭だった。目の前に、小さな赤い屋根の家がある。コリスは「ただいまー!」といいながら家の玄関へ突っ込んだ。



 開けられずにガリガリと玄関のドアをかいていると、「待て待て」と言ってグローリアが玄関を開けてくれる。



「あれ?」すぐさま家に入ると、そこは想像していた部屋と違っていた。


 見慣れた壁紙はすべてはがされ、新しい花模様の壁になっていたのだ。テーブルも本棚も、キッチンも真新しい別の物へと変わっており、部屋にある家具すべてがコリスの知っているものではなくなっていた。



「・・・・」コリスはショックで声が出なかった。そんなコリスの横を、グローリアが通り過ぎる。



「ずいぶんと模様替えしたな。・・・コリス、どうした?」


 一通り部屋を眺めたグローリアがそうつぶやく。そして、ショックで呆然としているコリスに気付いて声をかけた。



「いえ・・・」


 そういいつつ、コリスは昨日シーリーが全部の家具が雨で台無しになってしまったと言っていたことを思い出した。


「本当に、全部変わっちゃったんだ・・・」


 聞くのと実際に見るのとでは全然違う。コリスは水のせいで思い出が全てごっそり奪われた感じがして、胸がぎゅっと苦しくなった。




 すると、グローリアが奥の部屋へ向かった。コリスも胸を痛めながら、覚悟をしてグローリアの付いて行く。そこは、グローリアの書斎だった部屋だ。




「・・・・」


「・・・・」


 部屋に入ったとたん、グローリアもコリスも無言になる。一番最初に思ったことは「こんなに広かったんだ・・・」である。



 ほんとうに何もなかった。ホコリまみれだった机や絨毯じゅうたんも、大きな本棚や本もすべて消えてしまっていた。他の部屋には新しいテーブルや本棚が運び込まれていたのだが、この部屋にはなにも家具がなかった。


 壁紙と床も新しくなっていたので、まるで別の部屋に入ったかのようだった。



 コリスはそっとグローリアの様子を見ると、グローリアは無表情な顔でただ部屋を眺めているだけだった。



「・・・・・」コリスはそんなグローリアを見て、胸がツキンとした。


 グローリアにとって一番思い入れのある部屋。その変わり果てた姿を見て、一体グローリアはどう思っているんだろう・・・。


 それを考えるだけでコリスは自分のことのように悲しくなったのだ。






 そのまま二人はキッチンへ戻り、置いてあった缶詰を開けて食べているとグローリアが口を開いた。



「すまんな、コリス。昼がこんなもので。私は料理がどうも苦手でな・・・」


「そ、そんなことないですよ! これ結構おいしくて僕は好きです」


 コリスは申し訳なさそうにしているグローリアに気を遣うようにそう言った。正直、久しぶりにシーリーの温かい手料理が食べたかったがそんなことは口がけても言えない。それより、グローリアが料理が苦手だったことの方が衝撃的だった。



「シーリーが手料理を作ってくれるまでは毎日缶詰だったぞ」


「・・・・!!?」


 ビックリしすぎてあんぐりと口を開いたコリスに、グローリアはクスリと笑う。


「・・・シーリーがいてくれてよかった」


 コリスが思わずぼそりとつぶやくと、「なにか言ったか?」とグローリアがこっちを見てきたのであわててブンブンと首を振った。



「い、いいえ! ななな、なんでもないです!」


「・・・そうか? 私もシーリーに感謝しているんだ。本当に、あの子は優しい面倒見の良い子だからな。早く恋人を見つけて幸せになって欲しいんだがなあ・・・」



 なぜか遠い目をしたグローリア。コリスはなぜグローリアがそんな顔をするのか分からず首をかしげた。


「・・・? なにかあるんですか?」


「いや・・・、まあ誰にでも起こる問題だからな。私が心配する必要はないんだろうが・・・」


 グローリアの珍しく不安そうな顔にコリスはきょとんとした。



「???」


「はあ・・・」


 グローリアのため息は重々しく空間に消えていった。








 *・*・*・*・*



 冷たい缶詰で昼食をとったあと、グローリアとコリスはしばらくまったりとしていた。グローリアは人の姿で椅子に腰かけてのんびりとしていたし、コリスもテーブルの上で横になってうとうとしている。



 ぼーっとした時間が過ぎている中、ふいにグローリアがうたた寝をしているコリスに声をかけた。それは何でもないようにグローリアの口から飛び出た。





「コリス、魔法を使いたいか?」



「・・・・ええっ!?」


 眠気がふっとんだコリスは思わずグローリアを振り返った。そんなグローリアは飄々(ひょうひょう)としてこちらを見ている。



「つ、使えるんですか?! はい! 使いたい使いたい!」


 思わず力を込めて叫ぶと、グローリアがふっと笑った。


「少し早いが、魔法の練習をするか。だが、まずは今日の分の勉強をしてからな。それが終わったら、魔法の修行をしよう」



「わーい! やったー!!」


 コリスはとうとう魔法が使えるようになるのだと思い、わくわくして耳と尻尾がピンと立った。コリスがぴょんぴょんテーブルの上を跳ねて喜んでいると、それを苦笑しながらグローリアは見ていた。



「最初に一緒に本を読んだあと、数字の計算をするぞ。計算はいつもより、ちょっとだけ難しいのをやろう」


「はーい!!」



 グローリアは立ち上がるとリビングにある新しい本棚へと歩いて行く。そこに仕舞ってある本をグローリアはいくつかペラペラめくって見繕みつくろうと持ってきた。



「前の本はもう全部ダメになったと言っていたからな、シーリーが新しく買ってきてくれたんだろう。これを一緒に読もう」


 それは、人魚の部族の美しい少女と魚の部族の王子が出てくるせつない恋愛ストーリーだった。この世界では有名な話で、色んな国にこの本が置かれているほどだ。



 それをコリスとグローリアは向かい合って読んだ後、数字の計算をした。紙がないため、グローリアがテーブルに魔法で数字を描いてそれを見たコリスが解く。いつもの光景だった。町にいた時は、コリスの隣にクーとテヴォルトがいて一緒に計算を解いていたが今はいない。それがコリスにはちょっと寂しく感じる。




 三匹の中でもコリスはとても優秀だった。グローリアが今まで育ててきた弟子の中でも、コリスはかなり頭がいいと言えた。文字を覚えるのも早く、計算も得意だった。理解力もすばらしく、また何にでも興味を持つので知識もクーやテヴォルトに比べると豊富だった。



 グローリアはそんなコリスに舌を巻くことが多かったが、同時にコリスの将来がとても楽しみだった。


 一体、どんな猫になるのだろうか・・・。


 グローリアは、自分の出来る限りのことをコリスにしてやりたいと思っている。そして、コリスの将来を優しく見守りたいと思っていた。そのため、せめてコリスや今の子猫たちが大人になるまでは竜の部族が復活しないよう祈っていた。


 




 *・*・*・*・*





 とうとう今日の分の勉強が終わり、コリスは目を輝かせてグローリアを見上げた。その顔にグローリアは苦笑すると、話をし始めた。



「コリス、私たち猫の部族には“魔力”があるのは知ってるな?」


「はい! 僕たち猫は他の部族よりたくさん魔力を持ってるんですよね?」



「その通り。実はな、その魔力は私たちの毛並、一本一本にこもっているんだ。我々はその魔力を使って魔法を発動している。そもそも“魔力”とは、魔法が「火」だとすると、魔力はその燃料となる「油」といった感じだ。

 だからまあ早い話が、毛(燃料)が無くなったら魔法が使えなくなるってことだな。ここまではいいか?」



「えっ・・・毛が無くなるって・・・」


 コリスはぞっとして身体を縮める。



「全身の毛をったら魔力が全くなくなるってことだ。

 過去に実際にやったやつがいたが本当に魔法が使えなくなっていたな。だから、我々はめったに毛を切ることをしない。弟子のために人間の身体を作るときくらいだ。その時は何本か毛が必要なるんで切るが」



「ひえー・・・」


 コリスはいろいろと想像してブルッと震えた。





「次は“魔法”についてだ。簡単に説明するとな、魔法には2種類あるんだ。結界を作ったり、瞬間移動したりする『補助ほじょ魔法』と、敵を攻撃したりする『攻撃魔法』だ」



 グローリアは指をふたつ曲げながらそう説明した。



「『補助魔法』は、部族の者なら誰でも使える簡単な魔法で、瞬間移動や結界を張ったり人に変身したりする魔法が『補助魔法』に当たる。使い勝手が良く便利な魔法だ」



「ああ、結構みんな普通に使ってますよね?」


「あまり魔力が必要じゃないからな。ほとんどの者はバンバン使ってる」



 猫の部族は移動手段として、よく瞬間移動を使うのでコリスも見慣れたものだった。だが、突然パッと現れたり消えたりするので、時どき心臓に悪い。



 戦争や大雨が降ったときには、大きな結界を町中に張って町を守った。コリスはそれらを思い出しながら、「あれが『補助魔法』かあ~」と納得している。




「まあ、『補助魔法』はいいだろう。問題は『攻撃魔法』だが、これは普通は戦争のときしか使わないから、コリスはあまり知らないだろう? 前の戦争のときに見たか?」


「うーん・・・遠くからですけど、なんだか雷とか火が見えました」


 犬の部族が攻めてきた時のことを思い出して、コリスはそう答えた。あの時はパニックで怖くてあまり見れなかったが、部族同士が上空で戦っているときにいくつもの黄色い閃光と真っ赤な炎が見えたのを良く覚えている。



「そうだ。それが『攻撃魔法』だ。その時コリスが見たのは雷と火の『攻撃魔法』だろう」


「雷と火の魔法?」


「『攻撃魔法』は猫によって使える魔法がまったく違うんだ。猫の毛色で使う魔法の種類が分かるんだが、例えば赤い毛並だと“火の魔法”が使える。毛並が黄色いと“雷の魔法”が使える、という感じだ」



「へー。じゃあ、僕はどんな魔法が使えるんですか?」


 コリスはキラキラした水色の瞳でグローリアを見た。


「コリスは水色の毛並だから、たぶん“水の魔法”だろう。ちなみに、私は黒いからな、私が使う魔法は“闇の魔法”だ」


「え! 僕って水の魔法が使えるの!? でも、闇の魔法って?」


 コテンと首をかしげたコリス。グローリアは「見せてやろう」と言って、手のひらを上に向けた状態でテーブルに手を出した。



「・・・?」



 じっとコリスがグローリアの手を見ていると、突然、コリスの前足が勝手に動いてグローリアの手にポンと前足が置かれた。


「え、ええええー!? な、なんで? 僕は動かしてないのに・・・! わあ――!?」



 今度は身体が操られたように万歳ばんざいのポーズをしたのでコリスはビックリした。



「えええー!? グローリアこれなんですかー!?」


「これが私の『攻撃魔法』だ。私の魔法は生き物を“操る”ことが出来る。どうだ、面白いか?」


 ニッと意地悪そうにグローリアはコリスを見る。


「全然おもしろくない!」


 コリスは両手を上げたまま口をへの字にした。


「闇の魔法はな、何かを操作する魔法なんだ。私と同じ黒猫のギルゼルトは、「空間」を操ることが出来るが、私は空間を操ることは得意じゃない。私が得意なのは生き物を操ることなんだ。

 例え、同じ色の毛並で同じ魔法が使えても猫それぞれに不得手があってな、魔法のスタイルが一匹一匹違うんだ」




「はー・・・猫によって使う魔法が全然違うってそういうことなんだ・・・」


 コリスはぽかんと口を開けて納得するように頷いた。




「・・・ところで、僕っていつまでこの格好なんですか・・・」


 それまでずっと万歳ばんざいをしていたコリスはまた口をへの字にした。 


「あ、すまんな。ほれ」


 グローリアがパチンと指を鳴らすと、ようやくコリスは自分で身体を動かせるようになった。





「ところで、僕は水の魔法? って言ってましたけど、僕って水が使えるんですか?」


 コリスは気になっていたことをグローリアに尋ねた。


「ああ。青い毛並を持っている猫の『攻撃魔法』は“水の魔法”だ。コリス、青い毛並を持つ猫はほとんど生まれないから、水の魔法を使える猫の部族はめったにいないんだぞ?」


 グローリアは微笑んだ。それを聞いてコリスはパァッと顔を輝かせる。


「本当ですか!?」


「ああ、今はサロフィスしか水の魔法を使える猫はいない」


「あ、あの! 僕って水の魔法以外にも火の魔法とか使えないんですか? こう、ぼわーってかっこよく火を出してみたいんです」


 コリスは、自分が火の魔法を使っているところをイメージした。水もいいが、やっぱり魔法を使うなら火のほうがかっこいいと思ったのである。



「実はな、それは出来ないんだ。自分の毛の色以外の魔法を使うことは難しい。コリスは水色一色しかないからな、コリスが使える『攻撃魔法』は水の魔法だけだ」


「え!? そ、そんな・・・!」


 コリスはガッカリした声を上げた。

 

「気持ちは分かるぞ。私も黒一色だから、最初はコリスと同じ様に思っていた。だが、これは仕方のないことなんだ」


「・・・・」


 かっこよく火を出している自分のイメージがしぼんでいくのをコリスは感じた。



「しかし、自分独自の魔法というのはいいものだぞ。特にコリスの『攻撃魔法』は水の魔法だからな。自信を持て」


「・・・はい」


 そう励まされてもコリスはいまいちテンションが上がらない。





「・・・あれ? てことは、クーは黄色いから雷の魔法が使えるんだ・・・。ん? グローリア、テオは一体どんな魔法が使えるんですか?」


 コリスは頭をひねった。


「テヴォルトはこげ茶に金色の毛並だったな。毛の色が二つある猫は、二種類の『攻撃魔法』が使える。ちなみに、茶色は“土の魔法”で金色は“光の魔法”だ」



「えっ、僕は水の魔法しか使えないのにテヴォルトは二つも魔法が使えるの? ずるい・・・。でも、光の魔法ってなんなんですか?」



「光の魔法はちょっと特殊でな、生命の魔法が使えるんだ」


「生命の魔法?」


 コリスは目をパチクリさせる。



「物に命を吹き込んだり、何かを生み出す魔法だ。金色の毛並はちょっと珍しくてな、金色の模様の猫はたまにいるが全身が金色という猫は私でも見たことがない。大昔にはいたらしいがな」



「金色の猫って・・・すごいなあ。」


 全身、キラキラ金色に輝いている猫を想像するだけですごそうだ、とコリスは思った。


「そうだな」グローリアも笑って同意した。



 そうえいば・・・とコリスは前にテヴォルトが、宝石のように美しいコガネムシを魔法で作り出したことを思い出した。


「あれが光の魔法なんだ・・・」



 あの時、コリスはもう少し大きくなったら自分もあんなことが出来るようになるんだと思っていた。だが実際は違ったようだ。

 

 あれはテヴォルトのように金色の毛並を持つ猫にしか使えない魔法で、水色の毛並のコリスがマネすることはできない。だが、自分には水の魔法があると思い出しコリスは嬉しくなった。



 するとふと、コリスは自分がテヴォルトたちとは違って水が平気なので、それも水の魔法と何か関係があるのかな? と思ったのだった。

 【あとがき】


 こんにちは!ルインと申します。お久しぶりです。


 今回の魔法についてですが、分かりにくかったでしょうか?分かりにくかった方には本当に申し訳ありません。


 とりあえず、今後ゆっくりと魔法の修行をコリスはしていく予定なので、今は全然わからなくてもこれから分かってくると思うので大丈夫だと思います。こんなんで本当にすみません・・・。


 それでは、ここまで呼んで下さりありがとうございました!


 11/30追記:分かりやすくなるよう少し文章を付け加えました。話の流れは変わっていません。また、コリスの毛並について補足を。


 【登場人物紹介】ではわけあってコリスの毛並は「水色に銀がかった毛並みの無地」となっており、コリスは水色の他に「銀色」が入っている設定となってます。これは私が『猫の魔者』を載せる前に考えていたコリスの設定の名残で、本編ではコリスは分かりやすく水色一色ということにしております。


 ややこしくて申し訳ありません。長々と読んでいただきありがとうございました。

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