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猫の魔者  作者: ルイン
第七章 黒い子猫
42/53

お祝い

6/23 追記:悩んだ末、41話「封印された土地」と42話「お祝い」の間に「第七章 黒い子猫」を入れました。予想以上の速さで第六章が終わったためです。申し訳ありません。ご了承ください。



 エンブラン国で雨水の事件が解決したあと、喜ばしい出来事があった。



 それは、妊娠中だった魔者のミュミランが出産したのだ。




 猫の部族は数が少ないために、部族は喜び合った。また、部族同士で生まれる子供は珍しいため、ミュミランやサロフィスにお祝いの言葉を言う者が後を絶たなかった。


 それは、水という大きな災難を無事に乗り越えられたという安心と、仲間同士が協力して何かを乗り越えたという心地よい達成感に包まれていた時に、新しい仲間の誕生というめでたいことが重なったためだった。





 猫の部族は普通、部族同士の子供が生まれたとしても親しい者以外は訪問してまでお祝いを言いに行くことはない。町で会ったらお祝いを言うくらいだ。それは、部族の多くが他人に興味がないからだが、今回ばかりは大きな問題をみんなで達成して仲間意識が強く出たために、ミュミランやサロフィスへ訪ねる者が多く出たのだ。



 そもそも、猫の部族は基本、自由気ままに一人で行動することが多いので団結してなにかをやり遂げるということが少ない。


 戦争では仲間と協力して戦うというよりも、一人でどれだけ敵に怪我を負わせられるかに命を懸けているのでバラバラで戦うことが多いため、今回のような一体感はなかなか味わえないのだった。







 この現象で一番悲鳴を上げたのは言うまでもなくミュミランだっただろう。



「もう、次から次へと!! 誰か私を休ませてー!!!」


 ひっきりなしにお祝いを言いに来る仲間たちに、ミュミランは――お産疲れというのもあり――とうとうブチ切れ、病室に鍵をかけてしまった。



 それ以降、ミュミランの扉には『面会拒絶』と書かれた紙が貼られ、結界も張ったため誰も会うことができなくなっていた。




 *・*・*・*・*




「グローリア! 僕たちもミュミランさんにお祝いに行きたいです!」


「僕も赤ちゃんを見てみたい!」


 コリスとクーが訴えるように師匠を見た。


 バルバートとグローリアは思わず顔を見合わせる。テヴォルトとエリアスもいるのだが、ちっとも勉強に集中しないテヴォルトをエリアスがなんとか集中させようとしっくはっくしていた。今、コリスたちはエリアスの家にいる。



  今ではクーやテヴォルトの三人で一緒に勉強することが当たり前になってきたので、それを見たエリアスが自分の家を提供し、パブから移ってきたのだ。




 シーリーは水の問題が解決してからグローリアの家を掃除しているので、しばらく姿を見ていない。今頃、びしょ濡れになった家をせっせと元通りにしている頃だろう。



 コリスとグローリアは修行の続きがあるため、シーリーが戻ってくるまでしばらく町の宿で寝泊りしていた。







「知っているだろう? ミュミランはいまは面会を断っているんだ」


 グローリアが渋い顔で言った。



「でも、僕たちだって猫の部族ですし仲間ですからお祝いくらい言いたいんです」


「そうですよ!」


 コリスとクーは寂しそうな顔をする。


「・・・・・」グローリアはため息をついた。


 部族の仲間意識が高まるのはいいことだが、それに刺激されて弟子たちも言い出すとは思っていなかったのだ。


「どうする、バルバート。私は正直いってもうミュミランは放っておくしかないと思うが」


「・・・・」


 バルバートはグローリアの問いに黙ったままだった。正直、出産した猫の気持ちなどバルバートにはよく分からない。なので、どう返してよいのかバルバートには分からなかった。



「ちょっとだけでいいんです! キティにも会いたいし・・・」


 キティとは、ミュミランが産んだ子猫の名前だ。女の子で、黒猫だということは部族の間でものすごい速さで広まっていた。それは、お祝いに行った部族の数が多かったせいだ。




「そうだな、私もその子猫のことは気になる。主に父親のことだが」


 不機嫌な顔でグローリアは呟いた。隣に立っていたバルバートはそれを見て思わずのけぞる。普段、無表情なグローリアが不機嫌な顔になると迫力が増すのだ。



「じゃあ!!」クーとコリスが輝いた目で声を上げた。



「今日の勉強が早めに終わったらな。それなら許可しよう。――拒否されるだけだろうが・・・」


 グローリアは最後にぼそりとつぶやいた。それを知らないコリスとクーは顔を見合わせると、早く勉強を終わらせようと本を読んだ。



 コリスは読み始めた。


「『ある遠い場所に、目の見えない少女がいました。少女の家はとてもお金持ちな家で、世間の目を気にした両親はその女の子を周りから隠して大切に育てていました。

 少女はとても美しく、優しい女性に育ちました。少女は物書きの勉強が嫌で、ときどき部屋を抜け出しては美しい庭へ行き、太陽の光を感じることが好きでした。また、花の甘い香りをかぐことも好きでした。

 そんな穏やかなある日。お城から素敵な王子様が、家に訪ねてくるということを知りました。少女には一人の妹がおり、妹は国中で噂されるほどの美しい容姿を持っていました。また、少女とは違って目も見えることから大きなお屋敷で行われるパーティーによく参加していたのです。王子様はその噂を聞き、自分のお嫁さん候補として訪ねてきたのです。』」



 続きをクーが読んだ。


「『少女はそれを聞いて王子様に会いたいと両親に言いました。しかし、両親は聞き入れてくれません。それは自分が目の見えないせいだと気付いた少女は、泣きながらベッドに伏せてしまったのです。

 当日、王子様は立派な馬車で訪ねてきました。王子様はとても美しく、男らしい男性でした。しかし、少女にその姿は見えません。少女は聞こえてくる馬車の音を聞きながら、庭のベンチでしずかに時が過ぎるのを待っていました。

 すると、聞きなれない足音がこちらへ歩いてくるではありませんか。少女は身体をこわばらせてじっとしていると若い男性の声が聞こえてきました。

 「こんにちは、お嬢さん。」彼は、王子様ではありませんでした。王子様に付いてきた重臣でした。

 彼は王子様にも劣らないほど整った容姿をしていましたが、するどい瞳をしていたため周りから怖がられていました。彼は少女が目が見えない事に気づいていましたが、少女がとてもキレイな心を持っており、そして自分の内面を見てくれた少女に恋をしてしまいました。少女も、優しい彼の性格を知り心を惹かれたのです。』」



 コリスとクーは声を合わせて言った。


「『二人はそのあと結婚し、幸せな家庭を築きましたとさ。おしまい、おしまい』」



 この本は恋愛感情が薄い猫の部族をなんとかしようと、他国から取り寄せた恋愛の本だった。グローリアが、コリスたちが少しでも恋愛に憧れるようにと気をきかせて持ってきた本だったのだが・・・。



「はやく、はやく! グローリア、もう読み終わりましたよ!」


「これでやっと会いに行けるよー」


 どうやらコリスとクーの心には響かなかったようだった。グローリアはまあ仕方ないと片付けようとした時、こちらをじっと見ているテヴォルトに気が付いた。




「・・・・・」


 テヴォルトはなにも言わないが、恐らくさきほどの内容を聞いて気になったのだろう。


 グローリアが「いるか?」と声をかけると、テヴォルトはプイッと顔を背けてしまった。だが、身体に巻きつけた尻尾がピクピク動いている。




 どうやらこの本を持ってきた意味はあったようだ。




「読みたいのなら棚の上に置いておくぞ」


 その不器用な姿に苦笑しながら、グローリアは本を置いた。この本を一心不乱いっしんふらんに読んでいるテヴォルトの姿を想像すると笑いがこみ上げてくるグローリアだった。

 【あとがき】


 こんにちは!ルインです。


 今回、クーとコリスが読んでいた「目の見えない少女」の話し、いかがでしたか?


 簡単に書きましたが、この話しはいつか別の作品として投稿したいと思っているので、その時はより本格的に詳しく書いていきたいと思います。(6/22 追記:もしかすると、内容を変更する可能性があるので上に書いた話しの流れの通りになるとは限りません。ご了承下さい)


 いつになるか、分からないですが・・・。



 では、ここまで読んでいただきましてありがとうございました!

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