表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の魔者  作者: ルイン
閑章 星を渡る人
39/53

星の渡り人 ‐スノウ‐

今回は、番外編のようなものです。本編にさほど関係はしませんので、読まれなくても大丈夫です。



 その不思議な旅人が来たのは、土砂降りの雨の日でした―――。







 まだまだ雨が降り続き、国の周りを大きな湖にさせている頃。コリスは激しく振り続ける雨を、なにも言わずにじっと見上げていた。



 いったいいつまで続くのだろう・・・。



 コリスは魔者たちが張っている結界の外を見た。どんどん増していく水は、もうコリスの小さな体を覆い隠してしまうほど溜まっていた。



 そこへグローリアが歩いて来た。



「コリス、渡り人が来たぞ。」



「・・・渡り人?? いったいどういう人なんですか?」コリスは初めて聞く言葉に首をかしげた。



「星々を渡り、さまざまな物語を伝えてゆく者のことだ」グローリアはそういった。



「星を渡るんですか?」コリスはビックリして目を丸くした。


「ああ。私がお前と同じくらいのときにも一回来た。いろんな星の話をしてくれるそうだぞ」



「ええ! ほんとですか?」コリスはキラキラした目で立ち上がった。







 コリスとグローリアの二匹は魔者の街にある広場へと向かった。


 広場にある噴水には噴水を囲むようにしてたくさんの部族の猫と人間たちが集まり、その魔法の噴水の縁には、真っ黒な服を着た大柄の人間が座っていたのだった。



 コリスは人間のグローリアに抱いてもらい、高いところからその男を見た。



 見たこともない楽器をひとつ手に持ち、小さい優しそうな瞳をしたその男はグローリアのように全身真っ黒で髪も瞳も黒だった。



 ごつごつして古そうな黒いコートを羽織り、コリスが今まで見た中で一番体格ががっしりして背の高そうな人間だった。




 その男が短い黒髪の間からこちらに気付いたように見ると、優しく微笑んだ。グローリアを見ると、グローリアも珍しく微笑んでいた。



 男は楽器を横に置くと、体をこちらに向けた。


「その子が、いまの弟子ですか?」


 微笑みながら言ったその男の言葉は不思議な響きを持っていた。まるで、頭に直接とどくかのような不思議な感じだった。



「ああ。今度は私ではなくこいつに話を聞かせてやってくれないか」


 グローリアはそう言うと、コリスを地面に降ろした。「好奇心が人一倍つよい子なんだ」



「だったら、私の隣にきて話を聞くかい?」


 誘うようにキラキラ輝く男の黒い瞳は、まるで美しい星空のようだった。



「はいっ!」



 とてもうれしそうに返事をしたコリスは人と猫の間をすり抜けると、噴水の縁――渡り人のとなり――に座った。









 渡り人は楽器を手に持つと、ポロン・・・と奏でた。それはとても優しくてどこか懐かしい音だった。



「私の名前はスノウ。私はこの小さく美しい星へ、はるか遠くの星からたずねてきました。」




「――私の役目は異星と交流していない、このような鎖国と化した星に、異星の物語を歌うことでその星と星を結び付けること――。」



「――これから歌うのは・・・そうだね、『とても不幸な人生を送った、優しく美しい少年の物語』・・・。」




 男は楽器を演奏しながら、その音に合わせて歌い始めた。



 それは、最初は悲しく、孤独だった少年がそれでも希望を持ち続け、最後に幸せになる話だった。少年は途中で死んでしまうが、最後は一人の神様となり愛しい人たちとともに生きていく美しい物語だった。







「少年はそのあとどうなったのですか?」


 歌が終わり、みんなが余韻よいんに浸っているとコリスが質問した。


 すると、渡り人はコリスに微笑んでいった。


「さあ・・・私も分からない。神様には私も、簡単にはお会いすることができないのです。それでも、彼が神様になった少しあとを知ることが出来たのは、彼と私に深いつながりがあったからなのです」



「え!じゃあ、スノウさんはその少年に会ったことがあるんですか?」


 コリスはビックリした。


「ええ、物語を人から聞くだけではなく自分で探すことも渡り人の役目ですから―――。」





 彼はその後もいくつも物語を歌った。






 強い野心が生んだ、悲しい白い竜の物語・・・。



 植物の世界へ連れて行かれてしまった、少女の物語・・・。



 機械の身体に生まれ変わってしまった少年と、森に住む少女の物語・・・。



 悪魔と弱く小さな男の子の物語・・・。



 仮想世界に閉じ込められた、男の子のようにしたたかで繊細な少女の物語・・・。




 どれも、コリスが聞いたことも想像したこともない世界の話だった。歌を聴いていると、まざまざと浮かんでくる風景・・・。それは文化も姿も違う、それでもコリスと同じように懸命に生きる人たちの物語だった。






 集まっていた人々も、目を閉じて静かに耳を傾けている。


 ふと、コリスはスノウを見上げて、彼が噴水の水を見ていることに気付いた。そして、彼が見ているものを見てしまった。



 あっと言うのを必死に我慢して、噴水に映ったその人物をコリスは見つめた。



 この噴水は、魔法の噴水だった。この噴水の水を見ると、その者がいま思い浮かべていることを映すことができる不思議な噴水なのだ。そして、それは他人も見ることが出来た――。





 噴水の水には、一人のとても美しい女性が映っていたのだ。赤茶色の長いウェーブがかった髪をなびかせて、その女性は眠っているように目を閉じている。





 コリスははっとした。映像が消えてしまったからだ。目を上げると、スノウがこちらを見ている。



 バツが悪そうにコリスは目をそらすと、反省してしゅんと耳を下げた。


「ごめんなさい・・・」


 小声でそういうと、スノウは首を振った。苦笑いをしている。スノウもバツが悪そうだった。





「さあ、これで話は終わりですよ。私はこの星のほかの国に行かなければ・・・」



 こうしてスノウの物語は終わった。すべてほんとうにあったことなのか、聞いていた人々はよくわからなかった。なぜなら、あまりにもほかの星たちは、自分たちと違っていたからだ。実感がわかないのだ。


 だが、これらの話は実際にスノウが見たり聞いてきたことであった。







「あの・・・」人や猫たちが帰り始めたころ、コリスは思い切ってスノウに声をかけた。



「ん? なんだい」スノウは相変わらず優しく微笑んでいる。キラキラした黒い瞳も変わらない。



「あの・・・さっきの女の人は・・・」聞くか聞かないか迷っていたコリスは、結局口ごもりながら聞いた。



「・・・・・」スノウはさっと顔を影らせると、口を閉じたまま横を向いた。



「・・・・・?」コリスは恐る恐るうかがうようにスノウを見る。




 スノウは口を結んだまま、しばらく何かを考えているようだった。



 そして、ゆっくりとコリスを見ると、弱弱しく微笑んだ。


「・・・・先ほどの人は忘れてくれないかい。変なものを見せてしまったね」





 スノウはそういって楽器を持つと立ち上がった。もう立ち去っていく雰囲気だった。


「あの・・・! さっきの人は誰なんですか・・・?」


 コリスは気になってしょうがなかった。失礼だと思っても、コリスは思わず聞いてしまった。



 スノウはすこし暗い表情でコリスを見下ろすと、しゃがんで座っているコリスと目線を合わせる。



「・・・物事は不思議なことだらけでね。私はとある偉い神様に頼まれて星の渡り役をしているが、渡り人は私だけではないのだよ。その数はとても少ないが」



「・・・!」コリスは目を見開いた。



 スノウは歌っていたときよりも砕けた話し方をしていた。たぶん、これが本当の彼の話し方なのだろうとコリスは思う。



「普通、無限にある星々を旅している彼らは一度も会うことはない。だが、旅をするうちに私は同じ渡り人の彼女と出会ってしまったのだ・・・」



 



「―――それはありえないほどの奇跡だったのだよ。そして、私は彼女とともに恋に落ちてしまった・・・」




「―――・・・彼女の名前はロゼッタ。もし、よかったら、この星に彼女が来たときは私の代わりに宜しく伝えてくれないかい?」



「どうして一緒にいないんですか?」それを聞いたコリスは純粋な気持ちだった。





「・・・それはね、私たちがまだ役目を終えていないからだよ。役目を終えるまでは、彼女とは分かれて渡り人に専念しなければならなかった・・・」



「そんな・・・」



 コリスは寂しそうなスノウを見て、あの時水に映った彼女を見ていたスノウの顔を思い出していた。とても愛おしい・・・・そんな、切ない表情だった。






 スノウの物語は、誰にも語られることはないのだろうか? どんな物語より切なく、さみしい話が、どうか幸せな物語で終わりますようにとコリスは願った。

 こんにちは!ルインです。遅くなってしまい、申しわけありませんでした(汗



 今回出てきたスノウですが、彼は鎖国となった星々――ほかの星と交流をしていない星――へ行き、ほかの星の文化や風景を物語を通して伝える役割をしています。



 実は、本編にはあまり関係ないですがコリスたちのいる宇宙(世界)では星と星の交流がさかんで、それはもう日本でいう国と国が貿易しているのと同じように星々を頻繁に人が行き来しています。


 しかし、コリスの星のように他の星と全く交流していない(それより、他の星の存在も知らない)星――この状態をスノウは鎖国と簡単に呼んでいますが――があります。


 そんな星たちに、外(宇宙)にはもっと色んな星があるんだよ~と教えてあげるのがスノウたち「星の渡り人」の役目です。



 結構、意外に重要な役目でして、彼はそれを誇りを持ってやっています。




 また、作中、彼が歌っている物語のすべては私がいま考えている物語たちです。


 いずれは書いて投稿していこうと思っている物語たちです。



 あ、ちなみに。その物語の中にある『強い野心が生んだ、悲しい白い竜の物語』は私が以前、投稿させていただいた短編「白い竜」のことです。



 PCの人は「目次」へ、携帯の人は「小説案内ページ」へ戻って私の名前をクリックしていただくと私の作品一覧へ飛びますので、興味がある方はぜひどうぞ!


 短編なので10分もかからずに読めます。

 


 ※6/2 後書きに星の鎖国について分かりやすくするために少し説明文を付け加えました。



 ではでは、ここまで読んで下さりありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ