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猫の魔者  作者: ルイン
第五章 過去の置き手紙
37/53

真実と願い

 



 ゴロゴロ・・ピッシャーン!


 黒い雲がたちこめ、稲妻と激しい豪雨がふり続く中に一人の青年がいた。その青年は赤レンガ色の犬耳と尻尾を持った犬の部族だった。青年は雨の中、じっと結界の張られたエンブランの国を見つめていた。コリスたちのいる国だ。その結界の周りには、あまりの豪雨に流れることすらできず雨水が溜まり始めていた・・・・。


 不思議なことに、青年は豪雨の中にいるのになぜか濡れていなかった。それは、青年が自分の周りに結界を張っているからだった。その結界が傘のかわりになっているのだ



 赤犬の青年は雨をあざ笑うように「ふん」と鼻を鳴らすと、すーっと降りて行った。まるで、結界で守られた国に入るかのように・・・・。





 *・*・*・*・*



 とても古い、それはそれは太古の話し―――。

 



 さまざまな部族が神様の手で誕生した時、その中にとても攻撃的で凶暴な部族がいた。


 それは竜の部族と呼ばれ、彼らはその大きな力で暴れ始めた。



 ほかの部族たちはそれに、勇敢に立ち向かおうとした。ひとつの部族の力は弱いが、いくつもの部族が団結して戦えば大きな力になった。



 竜の部族もしりぞき、とうとうやつらを負かすことができた。  


 しかし、竜の部族の生命力はとても強く、封印することしかできなかった。



 遠い未来、きっと竜の部族は封印を解いてまた暴れだすだろう。そのことを考えた部族たちは、たくさんいる部族の中で、一番力が強い「猫の部族」に封印の鍵を渡すことにした。


 その鍵は、もし未来に竜の部族が出てきてしまったとき、やつらをもう一度封印するための鍵だった。



 封印の鍵をたくされた猫は、部族の中で早死にする戦士にならないよう身体が不自由になる呪いをかけられ、そして、定期的にそのような猫が生まれるよう部族に再び呪いをかけた―――。





  


「え・・・じゃあもし出てきた竜の部族を封印できたら、そのあとその鍵を持った猫はどうなるんですか?」


 コリスは恐る恐る聞いた。



 話していたグローリアは口を閉じると、首を振った。


「わからない。どうにもならないかもしれないし、死ぬかもしれない。さっぱりわからないんだ」



 コリスはぞっとした。それはテヴォルトも同じようで、身体を固くしたのがわかった。


 コリスはクーとアルセがいる物置部屋の方を見た。いま、あそこでこんな恐ろしい話をしているのだろうか。



「しかし、まだ今すぐ竜の部族が出てくると決まったわけではないのでしょう?そこまで深刻に考える必要は・・・」


 エリアスが眉をひそめる。しかし、グローリアはそれに首を振ると


「最近、―――今もそうだが―――天候がどうもおかしい。ギルゼルトもこの雨は変だと言っていた。竜の部族は大昔、天候を操っていたという話もある。最近の異常気象は、そいつらのせいかもしれない」



「え、じゃあもしかしたら、封印が消えかかってるっていうこと?」ミュミランが驚くように言った。



「そうかもな。まあ、それが違ったとしてもいずれ来ることはわかってるんだ。別に驚くようなことじゃない。逆に分かっているならそれに備えればいい」




「まあ、そういうことだな」



 突然、見知らぬ男の声が聞こえてコリスたちはぎょっとした。部屋を見渡すと、窓際の壁にもたれて立っている赤犬の青年がいた。


「犬の部族!? なんでここに!!!」



 全員が敵意をむき出しにする。グローリアとエリアスは弟子を守るように立つと青年を睨みつけた。



 当人は知らん顔で肩をすくめると、向き直って鋭い瞳を向けた。


「正確にいうと、俺は犬の部族じゃねえ。だって考えられるか?たかだか一匹の弱い犬が、あの巨大な結界を通ることができるなんてさ」



「じゃあお前は何者なんだ?」サロフィスが恐々と聞いた。




 青年はニヤリと笑った。





「俺はあんたらに頼みに来た、この星の救世主さ」








「で、頼みとはなんだ」


 とりあえず、相手に戦う意志はないらしいので、距離を置いてだが話を聞くことになった。



「おっと、その前に俺の名前を名乗らせてくれ。俺の名前はパートナーだ」


「名前などどうでもいい。早く話せ」


 グローリアにばっさり切られたパートナーは、口をとがらせたが、急に真顔になるとゆっくり話し始めた。



「実は、さっきあんたらが話してた話は本当だ。あと数年で竜の部族がよみがえる」



「なぜはっきり言えるのです?」エリアスが顔をしかめた。



「俺も一緒に封印されてたからだ」



「!!!?」


 ずざざざーっと青年以外、全員が後ろに下がった。


「すまん、言葉が悪かった。正確に言うと、俺は竜が出てきたときの対抗策として封印されてたんだ」



「なに?」



「俺以外にもいるんだぜ? 封印されてるやつ。んで、あいつらが土の下で暴れてるもんだから、こんな異常気象が起きてんだ」


「では、お前の封印はどうなったんだ。先に解けたのか?」グローリアが尋ねた。



「俺の? いんや、まだ解けてねえけど、でもだんだん薄くなってきてる。そのおかげで、俺は意識だけ外に飛ばし、こうして仮の姿で動けるようになったんだ」



「―――それで、どうしても頼みたいっていうのは、あんたら猫の部族に他の全ての部族をひきいてもらいたいってことなんだ。あんたらは一族の力が強い割りには平和的だし、あんまり欲がないからこんなことが頼めるんだ」



「なぜそんな話になる?」怪訝けげんな顔をしたグローリア。



「さっき昔話しをしてただろ? 大昔、竜を退けるためにいろんな部族が一つになって戦ったって。それが今回も必要だ。だが、どうだ? 今のこのありさまを見ろ。部族同士がいがみ合って戦争が起きてる。団結なんて当然ムリだろ?」


「それを私たちがまとめろというのか? それこそムリだ」



「おいおい、自分たちしか出来ないのはあんたらも分かってるんだろ? 犬が攻めても、一度もあんたたちからは攻めたことはない。それを、周りの部族は知ってるんだ。しかも、あんたらは力の使い方を知ってる。一度も殺しをしてないのがその証拠だ。どうか、この通りだ!」



 パートナーは頭を下げた。コリスたちは互いに目を合わせた。



 すると、グローリアが進み出た。



「お前が嘘をついていない証拠はあるのか?」人型になって、頭を下げているパートナーを見下ろす。



 パートナーは頭を上げると、ニヤリと笑った。


「それは俺と戦ったことのあるあんたが一番よくわかってるだろ?」



 グローリアはため息をついた。


「わかった。私が部族をまわって説得してみよう」


「グローリア様!」


「グローリア、あんた正気!?」


 サロフィスとミュミランが驚いて声を上げた。


「恩に着る。俺は犬の部族を説得する。とりあえず、お互いに長い戦争をやめるとしよう」


 パートナーはニヤッと笑うと、瞬間移動で消えた。





 「どういうこと!? あんな怪しいバカ犬の言うことに従うなんて!」


「落ち着けミュミラン。赤子にさわるぞ。なにもお前たちがしろなどとは言ってない。説得は私が一人で行う」


「あなた様が? しかし、なぜ頷いたのです。あの犬が裏切る可能性も・・・」エリアスが声を低くする。


「その時はその時だ。それに、私はすぐには動かない。コリスの修行が先だ」



 それを聞いてエリアスはほっとした。ほかの部族に会いに行くということは、弟子の修行を放り投げることになるからだ。そのためそれをエリアスは一番心配していた。なにしろ外の世界は危ない。いまのコリスを連れて長期間、世界を回ることは無理だった。






 ガチャッ


 その時、部屋の扉が開いた。入ってきたのはアルセとバルバート、それにクーだった。


「クー!」コリスとテヴォルトが走り寄る。



 クーは笑って二匹を出迎えた。思ったよりも元気そうなクーを見て、コリスはほっとする。


 ぼんやりとした姿のアルセは少し離れたところに座ってその様子を微笑みながら見ていた。すると、グローリアがアルセに近づき、彼は顔を向けた。



「アルセ、封印が解けかかっているらしい」ぼそっとつぶやかれたグローリアの言葉に、アルセは頷いた。


 予想していた反応と違ったので、グローリアは「知っていたのか?」と驚いた。



『お前には話さなかったが知っていた。あれから80年も経ったんだ、前より進行も進んでいるだろう。天候も荒れているようだしな。あと数年で解けるだろうな』


「クーにはそのことも話をしたのか?」グローリアは声をひそめた。


 アルセはチラリとクーを見ると、頷いた。


『ああ、あの子は受け入れたよ。私から話すことももうない。すまないが、あの子の行く末を見守ってやってくれ』


 グローリアは頷いた。


「もちろんだ。お前の分も見守ろう。ところでだが・・・」


 グローリアはさきほどの出来事をアルセに話した。途中からバルバートが話に入ってきたので、彼にも全てを話した。



 アルセは真剣な表情で話を聞いていた。バルバートはいたく深刻そうな顔だった。


『面白いな・・・。その犬の話が本当ならば、この呪いの事も彼はすべて知っているはずだ。彼に会うことはできないか?』


 アルセが目を光らせてグローリアに詰め寄った。グローリアは肩をすくめて「さあな、あいつが尋ねてこない限りなんとも」


『そうか、惜しいな・・・。だがまあ、あの世に行けば先祖たちから話が聞けるだろうから別にいいか。だが、グローリア。その犬から呪いのことを聞き出せばクーの今後も分かるかもしれない』


 それは、封印をしたあとのことを指していた。竜を封印したあと、クーはどうなるのか。それさえ分かれば、クーの重荷も減るだろう。しかし、悪い結果ならば・・・。




 その後、アルセはこの世を去った。みんなに見送られながら、アルセは『じゃあな』と言って消えた。


 80年も前の猫に会い、また変な犬の部族に出会ったためその場にいた全員がどこか夢見心地な気分だった。

 【お知らせ】


 前々話の『医院と青い猫』のあとがきに、追記をしました。


 また、『登場人物紹介』でアルセを載せました。よかったら見てみてくださいね。



 あと、『猫の魔者』のキーワードに新しいキーワードを追加しました。詳しくは『活動報告』にて報告しております。どうぞよろしくお願いします。



11/29 少し文を付け加えました。話の流れは変わっていません。



 いつも読んで下さり、本当にありがとうございます!

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