表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の魔者  作者: ルイン
第五章 過去の置き手紙
35/53

医院と青い猫





 「ここでなにをしてるんだ?」

 

 驚いて口を開けているコリスとクーの元に、パッと美しい黒猫が現れた。



「あ、グローリア!」コリスはビックリした表情で言った。





 今起こったことをコリスが説明する。


「あのね、グローリア。テオが恋をしたんですよ、そしたらテオが急に瞬間移動して・・・」


「?? どういうことだ?」グローリアが眉をひそめているのを見て、クーが説明した。



「テオがリアというメス猫に恋をしたんです」



「ほお?」それを聞いたグローリアが面白そうに口角をあげた。


「それでテオがどこかへ行っちゃって・・・」困ったようにコリスは耳を下げた。



「?? なんでいなくなったんだ?」グローリアが不思議そうに聞く。


「さあ・・・???」コリスとクーは同時に首をかしげた。




「では、私はテヴォルトを追いますから、四人は先に医院へ行ってください。テヴォルトがもし見つかったら私も行きますから」


「はい、わかりました。・・・あの、テオは大丈夫ですよね?」


 そう言いつつコリスとクーは目を合わせると、二匹は心配そうにエリアスを見た。それを見たグローリアはくすりと笑った。


 エリアスもふっと微笑むと、「一種の病気ですが、そう大したことではありませんよ。君たちも、運がよければいずれは経験することですからね。そうすると、私の弟子は運がよかったとみえる」



 「―――では、すいませんが後で話を聞かせてください」そう言ってエリアスは瞬間移動で消えた。



「・・・運がいいって??」クーが小さく首をかしげながらバルバートにたずねた。



「それって良いことなのかな?」コリスもよくわからないといった顔でつぶやいた。



「・・・・・」

 

 幼い二匹の子猫に見つめられて、バルバートは困った表情をした。それを見てグローリアは失笑している。実際、バルバートにも恋愛感情はよくわからない。バルバートは汗を流しながら、


「私にもわからないが、そういうのは女がよく知ってるんじゃないのか?」


 三人は一斉にグローリアを見た。



「良いこともなにも、私たち猫の部族にとっては幸運のなにものでもない。なにしろ、数が少ないからな。そんな相手に出会えたとしたらかなり運がいい」



「へぇ~」


「じゃあ、恋ってあんなにもあっさりするものなんですか?」クーが不思議そうに聞いた。


「あの小僧の場合はたぶん一目惚ひとめぼれだろう。恋愛にも種類がある。それこそ、何年もかけて恋を自覚することもある。猫の部族ではそれが大半だがな」


「じゃあ、テオの場合って珍しいんだね」コリスとクーは顔を見合わせた。



「・・・でも、恋するとあんな風になるんだね~」


 二匹はテヴォルトのように固まった、自分の姿を想像してみた。



「うわあー・・・」


 できれば恋はしたくないなと二匹は思った。







 四人は瞬間移動して医院へとやってきた。ぱっと現れた場所はちいさな広場の中で、コリスたちの目の前に、頑丈そうな白い建物が建っていた。きれいな装飾がほどこされた、清潔そうな建物だった。


「ここが医院だ。入口で受付をしよう」


 


 四人は医院へ入ろうとした。その途中で、グローリアが先ほどのことを思い出したように笑い始めた。



「しかし・・・あのやんちゃ坊主が恋をしたのか。しかも、あのリアだとは・・・」


 くっくと笑いながらおかしそうに肩を振るわせるグローリアを見て、


「リアさんとは知り合いなんですか?」と、クーがたずねた。


 コリスはリアを初めて見たとき、彼女がグローリアを見て一瞬体を固くしていたのを思い出した。別に親しい感じではなかったので、なにか二人の間にあったのかな? とコリスは思った。



「ん? ああ、あいつはまあ、めいのような存在だからな」


「「姪?」」


 それはバルバートも初耳だったらしく「そうなんですか?」と驚いた顔をしていた。


「とはいっても、血はつながってはいないが。ギルゼルトとは兄弟のようなものだったから、私にとってあいつの弟子は姪やおいのような感覚なんだ」


「てことは、ギルゼルトさんとリアさんは弟子と師匠の関係なんですね」クーが驚いていた。



 猫の部族における弟子と師匠の関係は、「親と子」の関係でもあるのでグローリアはそう思ったのだ。兄弟のように思っているギルゼルトの弟子(子供)なので、姪なのだと。しかし、すべての者がそんな風に考えるとは限らない。たとえグローリアがそう思っていても、リアがグローリアを伯母だと思うとは限らないのだ。



 もちろん、ギルゼルトとリアは実の親子ではないので直接的にはリアとグローリアはなんでもない。ただの赤の他人である。



 なぜグローリアがそう思うのかは、猫の部族の独特な生まれ方と、師弟のありかたに関連しているといえる。






「ここが・・・」コリスは医院を見上げた。


 ズッシリと構えた白く大きな建物は、よく見たら二階にドアがついていた。


「なんで二階にドアがついてるんですか?」コリスがたずねると、


「戦争で負傷した者が、なるべく早く治療が受けられるようにわざわざ二階に取り付けてあるんだ。なにしろ、戦場は上空だからな。二階に扉があるほうが空に近いから良いんだ」



「・・・・」コリスは一気に気分が落ち込んだ。


 一体、今までにどれだけの魔者たちがあのドアをくぐったんだろう・・・。そう考えると、素直に「なるほど」とは言えない。


 クーも同じ気持ちで、じっとそのドアを見上げていた。


 


 四人はぞろぞろと医院の入口をくぐると、受付けでチェックを受けた。来場者リストに名前を書き(もちろん、クーとコリスは書けないので師匠に書いてもらった)、魔法で簡単な身体検査を受けると入る許可がもらえた。


 受付けの女性は猫の部族の人らしかった。クリーム色の髪が、毛先に向かうにつれて鮮やかな黄緑色に変化している、グラデーションのついた髪色だった。目が合うと微笑んでくれた。



「・・・さっきの受付けの人、すごいきれいな髪だったね」コリスが後ろを振り向きながらつぶやいた。


 その受付けの女性に聞いたところ、どうやらサロフィスがミュミランのいる部屋にいるらしいので、コリスたちはその部屋に向かっている途中だった。


「そうだねえ・・・」クーはちょっと上の空だった。



 なにしろこれから、亡くなった歴史学者の――しかも自分宛ての――メッセージが聞けるかもしれないのだ。クーはそのことで頭がいっぱいだった。


 「ああいう色は珍しい。だが、たまに生まれてくるんだ。私の知り合いにもそういう毛並の持ち主が一匹いた」


 グローリアが歩きながら言った。


 グローリアでも一匹しか知らないんだ――。でも、その猫ってどんな色の毛並だったんだろ? コリスは聞こうとしたが、その前に部屋に着いてしまった。




 『ミュミラン』



 部屋のドアに名札が付いている。いよいよ緊張してきたのか、クーがガチガチになっていた。



 グローリアが人の姿になってドアをノックした。部屋の中から声が聞こえたので入る。


 部屋の中は全体的にクリーム色で統一されていて、とてもリラックスできる部屋だった。ソファと大きなベッドがあり、ベッドでは二匹の猫が座ってこちらを見ていた。



 一匹は少し小柄なメスの三毛猫で、もう一匹は深い海のような色をした青いオス猫だった。二匹は先ほどまで話をしていたようだった。ぞろぞろと入ってきたのでちょっと驚いている。




「――久しぶりだな、ミュミラン」グローリアが少し棘を含んだ言い方をした。


「なによ、まだ怒ってるわけ? 子供のことで。私が子供を産むか産まないかは私の勝手でしょ」


 グローリアは鼻にシワを寄せた。あらかさまに嫌な顔をしている。ケンカ腰の三毛猫は、挑むようにフンッと鼻をならした。


 どうやら勝気な性格の猫みたいだ、とコリスはミュミランを見てそう思った。



「その話はまたあとだ。今日はサロフィスに用があって来たんだ」


「僕にですか?」サロフィスはきょとんとした。



「お前の母親から、祖父アルセについてなにかメッセージを託されなかったか?」


「おじい様からですか? うーん・・・そうですねえ・・・。別になにも」



 ガクッとコリスたちの肩が落ちた。それを見てきょとんとしていたサロフィスは、「なにかあったんですか?」と聞き、メッセージのことを説明してもらった。



「それなら、母から預かっているおじい様の遺品がありますよ。30センチくらいの木箱なんですが、その中になにか入ってるかもしれません」


「なに!? それは本当か!」バルバートがこれでもかというように食いついた。


「え、ええ。はい。ここへ持ってきましょうか?」



「いや、こちらから出向こう。ここで開けるのもあれだしな」グローリアがちらりとミュミランを見た。ミュミランはそれを見てムッとした顔をした。



「じゃあ僕が家まで案内しますので、みなさんそのままでいてください。ミケ、そういうわけだから目を離した隙に外へ出ないでくださいよ」


「・・・あんたって子は。まったく過保護なんだからー。私はずっとここに居るわよ」


ミュミランが呆れたように言った。



「そのままでって?」コリスとクーは二匹が話している間、不思議そうに師匠を見上げていた。


「我々ごと、家まで瞬間移動するつもりなんだろう。まあ、そのほうが手間が省けるしな」


「なるほどー」



 準備が整ったあとで、一同はミュミランを残して医院を去った。 

【補足】


 こんにちは!


 途中にある、グローリアのリアへの説明ですが、分かりずらかったでしょうか?


 簡単に言えば、「師匠と弟子」の関係は「里親と養子」みたいなものなので、そう思ってもらえればわかりやすいかと思います。


 わかりずらくてすいません(汗


 

 また、追記なのですが、前回に「青色の毛並の猫は珍しい」と書いたと思うのですが、今回出てきたグラデーション(途中から色が変わる)の毛並の猫とどちらが希少かといいますと、青色の毛並のほうが希少です。


 グラデーションの猫も生まれにくいのですが、青色に比べるとそんなに少なくもないので・・・。


 グローリアは「知り合いに一人いた」としか言っていないのでコリスは誤解してますが、グローリアの知り合い意外(つまり赤の他人)にもそういう猫はちょこちょこいました。


 では、ここまで読んでいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ