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猫の魔者  作者: ルイン
第四章 怪しい影
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黒い影




 「ああ、分かった。昼頃に行こう」


 朝起きてみると、グローリアの話し声が聞こえてきた。黒猫のグローリアは暖炉に向って話しかけている。

 

 コリスは首をかしげてグローリアの元にいくと、暖炉の中を覗きこんだ。だが、小さな炎がパチパチ爆ぜるだけでなにも変わったところはなかった。

 


「??」


「エリアスがどうやら私と話がしたいらしい」グローリアはそう言って立ち上がった。 


「え? そうなんですか?」コリスは驚いた。どうやって連絡をとったんだろう?


「ああ。昼を食べたら街に行くが・・・一緒にくるか?」


「! はい!」コリスは飛び上がらんばかりに喜んだ。


 普段、あまり家から出ることが少ないコリスにとって、色んなものがある町は魅力的だった。グローリアの家は町から離れた森の中にあるので、あまり町にもいけない。しかも、森に入ることは禁止されていた。


 森の中は猛獣がたくさんいて危ないのだ。


 そのため、グローリアはシーリーと家の周りに結界を張り、獣が入って来ないようにしていた。



 なので、今回は久々の町に行けるとあって、コリスは大喜びしていた。




 犬の部族との戦争があってから数週間が経っていた。


 最初は、戦争があったせいか町に対して怖い気持ちを感じていたが、日が経ち、どんどん家にいることに飽きてくるとコリスは町に行ったときのことを思い出すようになっていた。


 また、あの不思議な噴水に行ってみたい。今度は自由に歩いて回りたい。あの戦争のときは、探検する余裕もなかったのでコリスは次に行くのを結構楽しみにしていたのだった。


 だから、喜びもひとしおだ。


「コリスくん、ミルクが冷めちゃいますよ?」


 コリスがぼんやりしていると、シーリーが声をかけた。


「はーい」


 この際、どうやって連絡を取ったのかは忘れよう。


 グローリアは、もうすでにテーブルについて食べ始めていた。




 


 *・*・*・*・*



 「じゃあ行ってくる」グローリアが玄関のドアを開けながら言った。



「はい、気をつけていってらっしゃいませ。あ・・・、私も行こうかな?」


 シーリーが突然そういった。


「え! シーリーも行くの?」コリスは驚いて目を瞬いた。


「行くのか?」グローリアが確かめた。


「じゃあ、私も行きます。すいませんが、ちょっと待ってて下さいね」


 と言い残してシーリーは家に引っ込んだ。



「シーリーも行くんですよね? やったー、嬉しいな」コリスはにっこりして言った。


 今まで三人で出かけたことがなかったので、コリスは嬉しかったのだ。


「ああ、そうだな」グローリアはそんなコリスを見て優しく微笑んでいた。





「はい、お待たせしました」


 家から出てきたシーリーを見て、二人は唖然とした。


「お前・・・それ持ってくのか?」グローリアが呆れていった。


 シーリーは大きな風呂敷を持っていた。何が入っているのか分からないが、そうとう大きい。シーリーが背負うと身体からはみ出るほどだ。


「いいじゃないですかー。これ作るの大変だったんですよ? これでちょっとくらい、家計の足しにしないと」


 シーリーはニコニコして言った。コリスはぽかんとしている。



「いつの間にそんなに作ったんだ?」


「家事の合間に、ちょこちょこ作ってましたよ?」


 グローリアは、そうだったか?と首をひねった。


「・・・それ、なんですか?」コリスが我慢できずに聞いた。


「魔法で作った造花(ぞうか)ですよ。これをお店に売ってお金を稼ぐんですよ」


「へーえ・・・」コリスは何ともいえない表情だった。



「・・・まあとりあえず行くか。コリス、こっちに来い」グローリアが呼んだ。


 コリスはしゃがんでくれたグローリアに飛びつくと、優しく腕に抱かれた。シーリーはグローリアの横に立つ。



 グローリアはそれを確認すると、結界を解いた。シーリーも続いて解く。


「コリス、少しビックリするかもしれんが手を放さないでくれ」


 え? と言う間もなく、コリスは突然身体に圧迫感(あっぱくかん)を感じてビックリした。


 そして、パッと目の前が変わった。三人は町の中に立っていた。グローリアが瞬間移動をしたのだ。


 猫の部族は普通に移動に使ったりするのだが、飛ぶよりも身体に魔法の負担がかかるため前回は使わなかった。



 だが、シーリーやグローリアが日常的に魔法を使い、ここ最近コリスの身体が魔法に慣れてきていたので、今回は使うことにしたのだ。



「うわあ・・・」コリスは久しぶりの町に目を輝かせた。


 落ち着いたレンガ色の建物が立ち並び、たくさん人が歩き回っている。この町には市場があり、そこは特に活気付いていた。


 街中に突然現れたグローリアたちに人々は驚いている。何に驚いているかというと、大きな風呂敷を持っているシーリーに驚いていた。


 一番目立っている。


「・・・目立ちますかね。そんなに」シーリーは人目を気にして言った。


「みーんな見てるね」コリスはそれよりも三人で来れたことが嬉しくてあまり気にしてない。



「とりあえず、私とコリスはパブに行くが、シーリーはどうするんだ?」グローリアが気になって聞いた。


「あ、私も一緒に行きます。丁度、その近くに目当ての店があるので」


 コリスは相変わらずグローリアの腕に抱かれていたが、今回は身を乗り出してもグローリアに怒られなかった。前は過保護なくらいコートの中に入れられていたのだが。それで、コリスは嬉々として町を見ることを楽しんだ。




 そうこうしている内に居酒屋についた。コリスにはその店は見覚えがある。戦争のときに連れてこられた店だ。落ち着いた感じのパブなのだが、なんだかコリスはあの時のことを思い出して身体を縮こませた。



「じゃあ、私はあっちの店に行きますから」


 シーリーが言っているお店は、女の子が好みそうなかわいらしいお店だった。シーリーは行こうとした。


「あ、まってシーリー! 僕も行っても良い?」コリスは慌てて止めた。


「え? コリス君も?」シーリーはちょっと驚いた顔をした。


「うん。その・・・ちょっと・・・」コリスはなんとなく、言いづらそうにグローリアを見た。


 グローリアはすぐに察して、


「ああ、行ってこい」


 と言ってくれたので、コリスは安堵あんどした。


 初めてグローリアの腕から降ろしてもらい、コリスは視線が一気に下がった。ちょっと戸惑い気味に足を踏みしめる。


 グローリアはそのままパブの中に入り、シーリーとコリスは二人でお店に向った。




 *・*・*・*・*



 ―――その頃、コリスたちのいるエンブラン国の近くに薄暗い雲があった。その雲は徐々に風にのって国に近づいてきていた。


 それを、一人の青年が見ていた。赤レンガ色の犬耳に、ふさふさの尻尾。あの犬の青年だった。



「とうとうここまで来たか・・・」青年はそう呟いた。その表情は暗い。


 なにか、不吉なものがエンブランに近づいている。そのことに、まだ誰も気付いていなかった。彼以外は―――。


 青年は静かにその場を去っていった。

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