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猫の魔者  作者: ルイン
第三章 西からの訪問者
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魔者の暗黙の掟



 「そういえば、町を走ってるとき青い猫を見ましたよ、僕」コリスはふと思い出した。


「えっ、ほんとですか?」シーリーは驚いて目を見開いた。


「うん。なんか、きれいな三毛猫と言い争いしてましたよ」


 それを聞いてグローリアが反応した。


「ミュミランか? そういえば、あいつ、戦争に参加したんじゃないだろうな・・・」

 

 グローリアが怪訝な表情で呟いた。



「あ、それは大丈夫でしたよ。サロフィスさんか分からないですけど、その青い猫が羽交(はが)()めにしてましたから」


「そ、そうか。それならいいんだが・・・」グローリアはほっとしたようにいった。




「きっとサロですよ。サロは今ミュミラン様と一緒に住んでますからね」


 シーリーが言った。コリスはそれを聞いて妙に納得した。


「じゃあ、サロフィスさんが父親なんですね。あのお腹の子どもの」


 コリスはミュミランが妊娠していたことを思い出していた。




 シーリーの耳がピクリと動く。だが、グローリアは首を振った。


「いや、違うぞ。ミュミランがサロフィスは違うと言っていた。だが、あいつ・・父親が誰か分からないとは・・・」


 グローリアは顔をしかめた。


「ミュミラン様でも分からないんですか?じゃあ誰が父親なんでしょうね」


 シーリーはワクワクしたようすで尻尾を振った。コリスは水色の目を瞬かせる


「え、父親が誰か分からないんですか?」


「ああ。まあ、生まれてみれば分かるかも知れんが。一体、発情期で何をすればそうなるんだ・・・」


 心底呆れたといった表情でグローリアは呟いた。


「え、発情期??」聞いたことのない言葉にコリスは戸惑った。



「ああ、4年に一度、我われの部族には発情期が起こるんだ。毎回、起こる季節は違うが、去年は秋に起こったな」


 と、グローリアは確認するようにシーリーを振り返った。


「そうですね。確か、(いね)の刈り入れ時だったような気がします」


 この世界に「10月」という日付の概念はない。その代わりに、一年を「春夏秋冬」の四つに分けている。


 そのため、細かい時期を言うときには「稲の刈り入れ時」のように「○○の花が咲く頃」という表現を使ったりするのだ。




「あの・・・、そもそも発情期ってなんですか?聞いたことないんですが」


 その言葉を知らないというコリスを珍しく思いながら、グローリアが簡単に説明した。


「ああ。子どもを作る時期のことだ」

 

「それか、恋の季節とも言いますね」シーリーも嬉しそうに言う。



「みんなが恋人を作るんですよ。気になってた異性を誘って一夜だけ夜を明かすんです。それはそれはロマンチックで、とっても神秘的なんですよ。みんな誘い方は違いますが、魔法にそれぞれ思いを込めて魔法を発動するんです。すっごくキレイですよ」


「へー、どんな魔法を使うんですか?」


 コリスが聞いている間、密かにグローリアは安堵していた。部族の説明をしていたときも、たわいもない会話をしていたときも、グローリアは気になっていたことがあった。それは、



 コリスが普通の子よりも言葉を知っているということ―――。



 「結婚」という言葉を使った時も、コリスはすでにその言葉を知っていた。しかも、会話していても普通に話せて言る点から、どこでそれらの言葉を覚えたかは分からないが、そのことにグローリアはどこか薄ら寒いものを感じていた。


 だが、コリスが「発情期」という言葉を知らないと知った時、グローリアは安堵したのだ。


 むしろ、普通の猫に囲まれて育った(コリスのような)猫は、普段、喋ることもないのだから、本来人間の言葉を知らないことが多い。それをさらに陵駕(りょうが)するほどの知識をすでに持っていたコリスは普通ではなかった。


 だが、グローリアはそのことについて、それほど重要視していなかった。それはコリスが自分たちよりも好奇心が強いということが起因していると、グローリアは思っていたからだ。



 きっと、どこかで人間たちが喋っていたのを聞いて覚えたのだろう。なんにでも興味を持つコリスなら、それはなおさらだ。





 「―――って感じです。ちなみに、その時にあわせて人間たちもこぞって結婚する場合が多いんですよ。人間にとっても、その時期はとても重要な時期なんです」


 コリスの目がキラキラと輝いている。


「へえ、すごいんだね! 僕も見てみたいです!」


「4年後にな。その時になればいくらでも見れるぞ」グローリアはそのようすに微笑んだ。



「そうですね、私もその時にあわせて色々準備しないと」


「準備ってなんですか?」コリスはシーリーを見た。


「相手を探すんですよ。そういえば、グローリアはどうするんですか?」


 シーリーは猫の姿で、椅子の上で横になっているグローリアを見上げた。


「私はいつもどおり家に居るつもりだが・・・」グローリアは困ったような顔をして言った。


 なぜそんなことを聞くんだ・・・。グローリアはげんなりした。



「なんで? どうして参加しないんですか?」疑問に思ったコリスが純粋な目で見た。


 グローリアは困った顔をして耳を後ろにまわすと、黒い前足を重ねた。

 

「普通、魔者は子どもを作らないからな。それに、私はもう発情期には興味がない。まあ、ミュミランのように、子どもを作るやつもいるが」


「あ、やっぱり子どもは作らないんですね」


「ん? 知っていたのか?」


「あ、いやなんとなくそうじゃないのかと思ってて」コリスは慌てていった。




 「でも、なんで子どもを作らないんですか?」コリスは聞いた。


「実はな、魔者にはそういう暗黙のおきてがあるんだ。強制ではないが、以前、子どもを持った魔者が戦死したとき、あまりの悲しみにその子どもが自殺してしまったんだ。元々、心の弱い子だったんだが・・・」


「え・・!」コリスは目を見開いた。


「それから、魔者の間では極力子どもは作らないようにしていったんだ。魔者は戦士だからな。他の者たちより死に(さら)されやすいんだ」


「そうなんですか・・・」コリスは耳を下げた。


「だが安心しろ。私たち弟子を持つ者はそう簡単に死にはしない。この二つの尻尾にかけて誓う」


 グローリアのその赤い瞳は真剣に輝いていた。コリスはその瞳を見つめた。だが、どこかで不安の灯火がまだ消えていないのを、コリスは感じていた。

 【補足】


 基本、シーリーは二又の猫に対して「様」をつけます。つけないのはグローリアだけです。


 あとは何か質問があれば書いてくださいね。矛盾とか大歓迎です。

 がんばって考えます。

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