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猫の魔者  作者: ルイン
第三章 西からの訪問者
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三毛猫と青い猫




 コリスは風のように走った。そして、すべるように店の外へ出ると、コリスは息を飲んだ。


 「う、う・・・わ」コリスは余りの驚きにヘタリと腰を落としてしまった。


 町の上空には、―――薄い結界の向こう側でだが―――ものすごい戦いが繰り広げられていた。光が走り、爆発があちこちで起きていた。空が魔法で埋めつくされ、無数の戦士たちが飛び交っている。


 シーリーに連れられたときは、上を見ることができなかった。もしかしたら、シーリーはこの光景を見せたくなかったのかもしれない。コリスは初めて見る壮絶(そうぜつ)な光景に、圧倒されて目が釘付(くぎづ)けになった。



「大丈夫か? 若いの。しっかりせんと」


 後ろから急に押されてコリスは飛び上がった。パッと振り返ってみると、年老いた毛長の猫が(たたず)んでいた。コリスはその猫を見て、ハッとした。さっきの人間のお婆さんだ!!


 コリスはきょとんとした。どうして人間じゃなくて猫の姿なんだろう?


 すると、お婆さん猫は優しい瞳の奥に力強い輝きを光らせながら言った。


「なにを怖気おじけづいとる。お前さんも大きくなれば、あそこへ突撃せねばならんのじゃぞ。もっとも、魔者になれればの話じゃが」


 コリスはそれを聞いて全身の毛を逆立てた。また戦場を見上げる。あの恐ろしい場所に行く? それを想像しただけで、コリスは死を見た気がした。


「安心しなさい。お前さんはまだ無理じゃ。じゃから大人しく中へ入ろう」そうコリスをうながすと、猫のお婆さんは、安全なバーの中へ入ろうとした。


 だが、コリスは行かなかった。外へ出たのには別の理由があったからだ。コリスはお婆さんに叫ぶと走り出した。


「お婆ちゃんはそこに居て! 僕、すぐ戻ってくるから!!」


 魔法が交差(こうさ)する激しい死の戦場の下で、大切な人を見つけるために。


「グローリア!! シーリー!!!」





 「なんてザマだ、こりゃ。まさか、ここまでだとは・・・」


 赤犬の青年は、呆れたように戦場を見下ろしている。グローリアと別れてからしばらく戦争の様子を観ていたのだ。だが、彼の想像していたようなものではなかったらしい。己の部族を見て、赤犬の青年は口をへの字にした。



 “犬の部族”と“猫の部族”の戦争はいつも互角だった。


 個々の力は小さくとも、数で圧倒している犬の部族。


 個々の力は強くとも、数が圧倒的に少ない猫の部族。



 二者は激しくにらみ合っていた。



 だが、今回はグローリアがいなかった。それだけで犬の部族は少し有利になっていた。魔者が一人減るだけでこのザマだ、と猫の部族は苦しい思いをしていた。


 すると、グローリアがやってきた。赤い犬の青年を振り切り、やっと戦場にこれたのだ。戦場についたとたん、足止めの影響が大きかったことを知り、とたんに厳しい顔になった。




「はやく出ていけ。でないと、死を見ることになるぞ」しばらく戦ってから、グローリアが警告するように言った。


 グローリアが戦場に来てから、あっという間に勢力が互角(ごかく)になった。しかし、弱ったことに、犬の部族では負傷者(ふしょうしゃ)が後を絶たなかった。それを見たグローリアが威嚇(いかく)するように言ったのだ。犬の部族はしぶしぶ引きあげることにした。


 昔からのルールで、猫の部族はどんなに攻められようと相手を殺したりはしないという掟があった。皮肉なことに、犬の部族はそのおかげでいつも救われているのだった。



 帰って行く犬の部族を、魔者たちは厳しい目で見送った。そして、ケガを負った魔者は治療(ちりょう)するために町へと静かに下りていった。



「・・・どうやらケガ人が少なくてすんだようだな。亡くなった者はいないか?」グローリアが周りを確認しながら聞いた。


 一人の若い魔者が報告しに行った。


「いないようです。よかったですね。・・・でも、今回はあなた様がいなくて、どうなるかと思いました・・・・」


 青い髪をした青年がグローリアにそう告げた。その顔はまだ緊張したように少しこわばっている。


「すまない。少し変なやつに足止めをくらっていたんだ」


「そうなんですか? おかしいですね。今までそんなことなかったのに・・・」青年は不思議そうに顔をしかめた。


 グローリアは町へ顔を向けた。そして、首をかしげている青年を残して町へと帰っていった。








 戦争がひと段落する少し前。そう、コリスが街へ駆け出しているころ、コリスは町の中で不思議な光景を見ていた。


 シーリーのように魔者ではない仲間たちが道に立って、手を上に上げていたのだ。コリスは心の中で、あれがあのお婆ちゃんが言ってた、結界をつくるってことなのかな・・・?と不思議そうに横目で見ていた。



「おい! だから外に出るなっていっただろ!!」


 突然、怒鳴(どな)り声がしてコリスは飛び上がった。思わず足を止めて、辺りをキョロキョロする。まるで自分に言われているようでコリスはビクビクした。


 すると、離れたところに二匹の猫がいた。一匹は深い青色の猫で、身体に黒い模様(もよう)が走っている。そして、もう一匹はきれいな三毛猫(みけねこ)だった。どうやら二匹は言い争っているようで、コリスはきょとんとしながらその二匹を見つめた。


「ミケ! お前は身ごもってるんだから、戦いに行くなってみんなにも言われたろ!?」


「いやよ! 私だって魔者なのよ!? あれを見たらじっとなんかしてられないわ!! あっち行ってて!」


 必死なようすで青い猫が三毛猫に訴えているが、三毛猫は青い猫を聞き入れようとせずに空に向おうとしていた。どうやら、あの三毛猫はお腹に子供がいるらしい。


 青い猫は()らず人間になると、三毛猫を捕まえてがっちりと確保(かくほ)した。そして、三毛猫がもがくまえに瞬間移動してしまった。きっと安全な場所に連れてったのだろう。


 魔者でお腹の中に子どもがいるって珍しいんじゃないのかな?と思いつつ、コリスは呆然としながらも横目でその消えた場所を見つめながらまた走り出した。


【あとがき】


 気付いている人もいるかもしれませんが、実は、戦争が終わったあとにグローリアに報告している青い髪の青年と、三毛猫と一緒にいた青い猫は同一人物です。

 この三毛猫、名前を「ミケ」と呼ばれてましたが、愛称です。本名は「ミュミラン」。言いにくいですね。

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