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猫の魔者  作者: ルイン
第三章 西からの訪問者
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赤犬の青年




 ―――はや、く・・・・彼を・・・止、め・・・て―――


 コリスはハッとした。バッと顔を上げると、シャボン玉のような結界の中を見渡した。


 「誰? だれなの?」コリスはビックリしすぎて後ずさりしながら聞いた。結界の中で意気消沈(いきしょうちん)していると突然、頭の中に響いてきたのだ。


 だが、それ以上声はなりを(ひそ)め、コリスは沈黙の中でじっと身を縮めていた。


「・・・聞き間違いかな? でも・・・なんか気になる・・」コリスはなんとなく不安になりながらも始終(しじゅう)、首をかしげていた。


 




 その頃、グローリアとあの犬の青年は、互いに宙に浮いたままじっと見つめ合っていた。ただ向かい合っているように見えるが、グローリアの発している空気は重々しく、犬の青年は挑発するように目をギラギラと光らせていた。



「・・・・お前は誰だ」しばらく続いた沈黙に、グローリアが最初に針をさした。


 はんっと軽く鼻で笑うと、青年は赤レンガ色の犬耳の後ろをガリガリ()きながら「知ってんだろ」と呆れたように言った。


 グローリアは眉をよせた。「知らん。少なくとも、お前のような部族は見たことがない」


 (おのれ)の長く伸びた爪を見ながら「だったらなんだと思う?」と青年は聞いた。かすかに面白がっているようすなのを見て、グローリアは目を細めた。



「知らんと言っただろう。なにも話す気がないのなら私は行くぞ」


 グローリアはチラリと、戦争が起こっている街を見た。そこはもうすでに、犬と猫の部族が空中で激しい戦闘を繰り広げていた。空を魔法の光が、稲妻(いなずま)のように無数に走っているのが見える。


 ただでさえ数が少ないのに、自分がそこにいないということにグローリアは(あせ)りを感じていた。このまま行かなければ、あの大勢いる敵を防ぐことができるのだろうか、仲間の誰かが死ぬのではないかとかなり心配していた。



 

 それをかすかに感じ取った青年は、耳をほじるのを止めて、すさまじい戦場を横目で見やった。


「行きたいなら行ってもいいぜ。俺はお前に会ってみたかっただけだからな・・。でも―――」


 犬の青年は去ろうとしたグローリアを人差し指を立てて止めると、何も言わずにそのまま魔法を放った。


 いきなり目の前が目を開けられないほど(まぶ)しい光に包まれたと思うと、グローリアは強い幻覚に(とら)われた。




 青年は光でグローリアの意識を目に集中させたあと、すばやく強い幻覚の魔法を放ったのだ。さすがのボス猫もこれは効いただろうと青年が思っていると、ふと自分の身体が動かないことに気付いた。


「な、なんだこれ」いつ魔法をかけられたのか全く覚えがない。青年は口以外、少しも動かせなくなっていた。


 と、目の前になんと幻覚に犯されているはずのグローリアが立っているではないか。


「こりゃ参った。おめえ、なんで平然と突っ立ってるんだよ」


「その前に答えろ。私を足止めしてなにをするつもりだった?」グローリアは恐い顔をしながら問い詰めた。そのすさまじい気迫(きはく)に、飛んでいた鳥たちはいっせいにいなくなった。



「へへっ、怒りで俺を(おど)しても意味ねぇぞ。俺はただ、純粋(じゅんすい)にお前と戦ってみたかっただけだよ。別に、お前を足止めをして、その大切なちっこい国を攻めようなんざこれっぽっちも思っちゃいねえよ」


 グローリアはじっと青年の瞳を見つめて、(うそ)ではないことを(さと)ると怒りを内に引っ込めた。だが、鋭い目つきは相変わらず、青年を突き刺すように静かに見据(みす)えていた。




 青年は動かせない目の変わりに「ふう」とわざとらしく息を吐くと、グローリアに頼んだ。


「これ、解いてくれねえか?ちょっといま耳の後ろが(かゆ)いんだ」


「もう一つだけ聞く。お前は何者だ?」グローリアは無視すると聞いた。


 願いが聞き入れられなかったことにため息をつきながら「だから、そんなことお前も知ってるだろ?」と面倒くさそうに言った。



「アホなことを言うな。お前のどこが犬の部族だというんだ」


「どっちがアホだよ。立派な犬耳にフサフサの尻尾。これ以上なんだって言うんだ。犬の部族しかいねえだろ?」


「・・・だが、お前ほど魔力を持った犬の部族は初めて見た」



 犬の部族は他の部族の中で一番人数の多い部族だった。しかし、それに比例するかのように犬の部族は一人ひとりの魔力が弱い部族でもあった。


 だが、この青年は犬の部族にしてはかなり大きな力を持っているとグローリアは感じたためにグローリアは奇妙な目で彼を見ていた。




「それは・・・あれだよ、突然変異(とつぜんへんい)っていうやつだよ」青年はちょっと口ごもった。



 一瞬、沈黙(ちんもく)が流れる。



「・・・なにを隠している?」グローリアは目を細めた。


「・・・・さあな。俺は秘密をあいつらにバレるのが嫌なんだ。だから言わねえのさ」


 青年は口を閉じた。


 グローリアは静かにため息を吐いた。あいつらとはきっと、犬の部族のことだろう。なにやら変なことが起こっているらしい――。そう思いながら片手を振って魔法を解いた。とたんに動けるようになった青年は「あー、やっとかける」と言って犬耳をカリカリと掻いていた。



「・・・お前に聞きたいことがある」そんな青年を見ながらグローリアは静かに口を開いた。


 青年は手を止めると「またかよ?」と呆れて言った。少しうんざりした表情だ。


「我われに危害を加えるか?」強敵と戦うのはなるべく避けたい、そう思うグローリアの落ち着いた表情の裏では、獰猛(どうもう)な牙が歯を()いていた。



 だが、


「ああ? そんなことか。興味ねえよ。でも、しばらくはココを自由に行き来させてもらうぜ」


 青年は腰に手を当てて言った。


 その意味は測りかねるが、重要なことを聞いた今は、はやく仲間を助けに行くのが先だった。実は、このとき青年が「はい」と言っていれば、グローリアはこの場で彼を消すつもりだった。


 だが、害はなさそうなのを見たグローリアは「危害を与えなければ好きにすればいい」というと、さっさと街へ去っていった。



「おーい、俺の名前はいいのかー?」青年はすでに小さくなったグローリアに叫んで呼びかけた。


 だが、返事は返ってこなかった。すでに、グローリアの意識は戦いに集中していたからである。



「ちぇっ、せっかくの仲間なのに・・。まあ、どうせ名前を聞かれても、まだ無いんだけどな」犬の青年はポツリと(つぶや)いた。

【あとがき】


 遅くなってしまい、待っていた方は本当にすいません。


 実は、これから火曜日更新はやめて自由に書いていこうと思っています。急にすいません。ですが、楽しく書いていこうと思います。どうぞよろしくお願いします。



 6/2 分かりやすくするために犬の部族についての説明文を付け加えました。話の流れは変わっていません。

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