連れ去られた子猫
寒く冷たい夜風が、小さく広がる森の木々たちを大きくしならせた。そしてその森の中に、ポツンとたたずむ可愛らしい小さな一軒家があった。煙突からは薄い煙が立ち昇り、小さなガラス窓からは暖炉の火が、暗い部屋の中を少しだけ明るくさせているようだった。
そんな街中から離れた家に、一匹の小さな子猫が、家の主人とともにやってきた。
「うわーー!! 取って食わないで! お母さん、お母さーん!」
激しく泣き声をあげる子猫は、夜空から家に舞い降りて来た一人の女性の腕の中にいた。その女性は黒く短い髪を持ち、黒いコートを羽織っていた。
そして、ふわりと振動もなく着地すると、腕の中でもがく子猫を無視して家の中に入っていった。
女性は家のリビングに入ると、泣き声を上げ続ける子猫を放した。放された子猫はものすごい勢いで彼女から離れると、近くにあったテーブルの下に隠れた。
子猫はブルブル震えながら周りを見渡した。そして、暖炉の火で何倍にも大きくなった物の影が目に入ると、怖さで悲鳴をあげた。
「そこに居たいのなら、そこに居ろ」女性はそう言うと、奥にある真っ暗な部屋へ消えてしまった。
小さな子猫は彼女が消えていく後姿をじっと見ていた。そして、えっと驚いた。彼女の着ているコートの下から、少しだけ2本の黒い尻尾が見えたのだ。
「なんで…? 人間って尻尾ないんじゃ…?」子猫は不思議に思いながら、好奇心で伏せていた耳をピンっと立たせた。
だが、すぐに周りの巨大な家具たちに気後れしたのか耳を引っ込めると、さっきの女性が消えていった暗い部屋を見つめていた。
先ほどまで母猫や兄妹たちと寝ていたので眠気に襲われながらも、どこかに逃げる道はないかとキョロキョロ部屋を見渡した。
どれもこれも見たことの無い物ばかりで、そこにある物すべてが自分よりも遥かに大きかった。
と、周りに気がいって油断していたところに、先ほどの人間の女性が戻ってきたので子猫は飛び上がった。
不思議なことに、足音が全然しなかった。人間なのに猫みたいだと子猫はそう思った。
彼女は暖炉の前まで足を運ぶと、人間の女性にしては低い声で、テーブルに隠れている子猫に出てくるように言った。
「出て来い。安心しろ、取って食ったりはしない」
その、口調とは違う思っていたよりも優しい声に子猫は目を瞬かせると、そろそろと這い出してきた。そして、おずおずと彼女を見上げた。女性はしゃがむと、優しく子猫の耳の後ろを掻いてやった。それに思わず目を細めている子猫に、彼女は呟いた。
「お前、名前は? 私の名前はグローリアだ」
そっと子猫はまた見上げると、暖炉の火に照らされたグローリアの顔が見えた。誘拐された時はパニックで顔を見ていなかったが、彼女の顔はとても穏やかだった。暖炉の火のせいなのか、瞳はきれいな赤色をしている。
「コリス・・・」
その瞳と美しい顔にぼんやりとしながら、コリスは呟いた。
と、その瞬間。なにか温かい空気がグローリアを包んだかと思うと、目を開けたときには彼女はいなかった。その代わり、グローリアがいたところには一匹の美しい黒猫がいた。
「え? えっ?・・・・グローリア?」
よく見ると、黒猫の瞳はグローリアと同じ色をしていた。目の前にいる黒猫はゆっくりとうなずいた。
「そうだ。私だ。そして私は、今日からお前の師となり親となる者だ」
いたらない点がありましたら、どうぞお知らせ下さい。
そういう点はたくさん出てくると思いますが(笑)
初投稿なので、かなり緊張しています…。よろしくお願いします。
物語を楽しく紡いでいけたらなと思ってます。マフラーを編むように。




