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猫の魔者  作者: ルイン
第二章 夢の猫
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白い酒



 グローリアは、家の前にある庭の中心へ歩いていった。芝生を踏みしめながら庭の中央に立つと、グローリアは不意に、空に向かって手を上げた。コリスとシーリーは家の玄関でそれを静かに見ていた。

 コリスはどうしたんだろうと不思議そうに見上げる。


 すると、グローリアの手の先から空間が歪んでいくのが見えた。


「うわぁ・・・」コリスは驚いてそれを見つめた。


 シーリーはそのようすをコリスと一緒にじっと見ている。すると、グローリアが手を上げながらシーリーに言った。


「シーリー、お前も結界を解け」


「はい。分かりました」シーリーは返事をすると、宙に向かって指をクルクルと回した。すると、シーリーの指からも波紋のように空間が歪んでいくのが分かった。


 二人は結界を解いているのだ。コリスは不思議そうに、二人を交互に見つめていた。



 

「んじゃ、行くか。コリス、こっちに来い」結界を解いたのか、グローリアはしゃがみ込むとコリスに向かって手招きした。


「気をつけて下さいね。あ、お土産を楽しみにしてますから」シーリーはにっこり笑う。


 それを聞いて苦笑しているグローリアの元へ行くと、コリスは抱っこされた。一気に目線が高くなる。


「うわあ」コリスは落ちないように、慌ててグローリアの腕を掴んだ。いきなりだったので、少し爪を立ててしまったかもしれない。コリスは冷や汗を流した。



「行ってくる。シーリー、留守番を頼んだぞ」


「行ってくるね、シーリー」


「はい、行ってらっしゃいませ」シーリーはにっこり笑いながら玄関から手を振った。



 グローリアは魔法を使ってふわりと宙に浮くと、空に飛び上がった。コリスは突然の浮遊感に襲われて「わっ!」と身を縮ませた。


 なんだか、あの時を思い出すなぁ・・・。コリスはおもわずそう思った。


 連れ去られたときはパニックで、周りを見ている余裕がなかったので、コリスは過ぎていく森の景色を見ていた。二人は森の上をしばらく飛んだ。すると、前方にレンガで出来た家々が見えてきた。


 町だ。コリスは興奮しておもわず身を乗り出した。「うわあ」耳とヒゲを風でなびかせながら、コリスは初めて見る町を見つめていた。


 どんなところなんだろう。部族の仲間にも会えるかな・・・? コリスはわくわくした。



「ねえ、グローリア。あそこに行ったら仲間に会えるのかな?」コリスはグローリアの顔を見上げて言う。


 グローリアは短い黒髪を風に遊ばせながら「会えるぞ」と言った。それを聞いて、ますますコリスは町への期待が膨らんでいくのだった。




 *・*・*・*・*




 町中に降り立ったグローリアとコリスは、そのまま町中を歩いていった。コリスは相変わらずグローリアのに抱っこされて、せわしなく目をキョロキョロさせていた。


「・・・グローリア、どうして僕を降ろしてくれないんですか?」


 業を煮やしたコリスは、とうとうグローリアに聞いた。


 すると、グローリアはそ知らぬ顔で「危ないからな」と言った。


 この魔法の世界で、まだなにも魔法を覚えていないコリスを一人で歩かせることが心配なのだ。それに、好奇心の強いコリスはきっとフラフラとどこかへ行って自分から離れてしまうに違いないとグローリアは思っていた。


 そんなこととは露知らず、いくら言っても聞いてくれないグローリアに腹を立てながら、コリスは狭いコートの間から見える美しいレンガの町並みを仕方なく見ていた。





 そんな街の人々は、グローリアを珍しいものでも見るようにジロジロと見ていた。コリスはそれに気がついた。グローリアの顔を見上げると、気付いているはずなのに全く気にかけていないようすだった。


 どうしてこんなにもみんな見るんだろう? コリスは分からなくて首をかしげた。



 すると、ただ黙々と歩いていたグローリアがある古びた店に入った。


 その店は昼間なのに薄暗くて、大きな棚が壁一面に並べられている小さな店だった。その棚には、大量のビンが置かれていた。()いだこともない、不思議な匂いが店中にただよっていて、コリスの鼻をひくつかせた。


 その店の店主が、客の気配を感じてかカウンターから顔を出すと、グローリアを見て驚いた。年老いた、どこか気品を感じさせる男だった。


「おやおや、これは・・・。お久しぶりですね、グローリアさん」と、店主は嬉しそうに優しい目元にシワをよせた。


 どうやらグローリアの知り合いらしい。グローリアも「ああ。久しぶりだな」と親しげに返していた。グローリアはどこか、懐かしげに店の中を見渡している。もしかして、ずっとこの店に来ていなかったのだろうか?コリスは鼻をひくつかせながらそう思った。



「ここへは、どんな御用で?」


「白い酒が欲しい。まだ造っているか?」グローリアが少し心配そうに聞いた。


「はい、まだ取って置いてありますよ。最近はなかなかこの酒を造れなくなりましてね・・・。置いてある分しかないのですが、それでもよろしいでしょうか?」


 店主は少し申し訳なさそうに言った。


「構わない、それをくれ」グローリアは酒があったことに安心したのか、全く気にしてない様子で頷いた。


 それを見た店主は微笑むと、酒を取りに店の奥へと消えた。


 コリスはなんだか、店にただよう匂いのせいで頭がぼーとしてくるのを感じていた。コリスが嗅いでいるのは酒の香りだ。ここは酒屋だった。コリスは匂いを嗅いだだけで半分、酔っているような状態になった。


「おい、大丈夫か。どんだけ酒に弱いんだ・・・」グローリアはくらくらしているコリスを見て、少し呆れたように言った。

 仕方がないので、グローリアは魔法でコリスの周りだけ空気を変えてやった。



 しばらくして戻ってきた店主は、酒の入ったビンを丁寧に袋へ入れるとグローリアに手渡した。


「白い酒・・・ということは、『墓の番人』に会いに行くのですね?」店主はそう尋ねた。


「ああ。ちょっと私の弟子が夢を見てな。そのことを聞きに師匠に会いに行こうと思っている」


 グローリアは黒いコートのポケットに手を入れながら言った。コートのポケットにはこの国のお金が入っているのだ。お金を取り出すと、店主にそれを渡した。


「そうですか・・・。お弟子さんが出来たというのは本当だったんですね。噂で聞きましたよ」


 店主はもらったお金を手で数えながら、意味深にグローリアを見た。コリスはドキッとした。自分が噂になっていたのだ。


「そうか。それじゃあ、私は行く。またいつか来るよ」グローリアは大して気にもとめずにそう言うと、その場を去ろうとした。


「ええ、きっと私が生きているうちにまた来てくださいね。楽しみにしてますよ。ご来店ありがとうございました」


 年老いた店主は少し寂しそうに言うと、丁寧に頭を下げた。

 

 グローリアは無表情だった。いや、少しだけそのルビーの瞳に、悲しみが混じるのをコリスは見た気がした。


 

 グローリアは酒を片手にコリスとその店を後にした。

 少し長かったですね・・・(汗)


 感覚でいつも書いているので、たまに長くなったり短くなったりしますが、最近は一個の章を長くしようと思って頑張ってます。


 ・・・けど、これはさすがに長かったですね(笑)

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