白い猫
その日の夜、コリスはまた夢を見ていた。それは、昨日と同じ夢だった。
美しい若草色の世界―――。そこは、コリスを歓迎するかのようにキラキラとコリスを包み込んでいた。
コリスは息を飲んだ。それは、夢の続きだった。離れたところに、あの若草色の猫が座っている―――。
コリスは少し迷ったあと、ゆっくりと近づいて行った。若草色の猫は、木が気になるのかそれを見上げていて、コリスには気付いていない。だが、2mくらい近づいたとき、ふとこちらを見た。
コリスはドキッとして、思わず出かかった足を止めた。若草色の猫は、身体と同じ色の瞳をこっちに向けている。とてもきれいなメス猫だった。
コリスは緊張してそのままの姿で立っていた。若草色の猫も、何も言わずそのままの姿勢だ。
二匹は見詰め合った。
時間が経って少し余裕が出てきたコリスは、ふと違和感に気付いて首をかしげた。相手の模様が変わっていたのだ。
明るい薄緑の模様が若草色の身体にツルのようにくねくねと巻きついている。初めて見る猫の模様だった。遠くからは単色に見えたので、コリスは少し驚いていた。
じーっと見つめているコリスに、若草色の猫はやさしく微笑みかけた。コリスははっとして、慌てて笑い返した。
不思議な時間だった―――。
温かく柔らかな風が、二匹の毛並みをそっと撫でていった。
目が覚めたコリスは、はっとして起き上がると、すぐさまリビングへ駆けて行った。寝癖そっちのけでリビングに着くと、グローリアが昨日と同じように暖炉の前で座っていた。
実は、昨日グローリアに「また同じ夢を見るならば言うように」と言われていたのだ。
気配に気付いたグローリアは振り返ると、駆けてくるコリスを見てそっとため息をついた。
*・*・*・*・*
「また夢を見たんですか?」シーリーはきょとんとした顔で言った。シーリーには昨日、グローリアが話しをしたので夢について知っているのだ。
コリスは朝食を食べながらコクンと頷いた。心なしか、小さな耳が垂れている。グローリアは人間の姿でシリアルを食べながら、何か考えているような顔をしていた。
コリスはそれを見つめた。
コリスがこの家で3日間過ごして分かったことだが、グローリアとシーリーはご飯を食べるときは必ず人間の姿になって食べていた。食べている料理も、スパゲッティーやオムライスのように人が食べるものばかりだ。まあ、姿が人間なのだから人間が食べるものを食べても別におかしくは無いのだが。
ついでに言うと、今コリスが食べているのも人間の料理に近かったりする。だが、その代わり味は薄いので人間の食べ物とはいまいち言えない。
「よし、街に行くか」グローリアが突然そう言った。
「えっ!?」それを聞いて、コリスとシーリーが声を上げた。シーリーは何故かちょっと興奮している。
「じゃあ、あの人に会いに行くんですか?」シーリーがグローリアに聞いた。
「ああ、そうしようと思う。コリスの夢のことは私でも分からないからな。聞けばなにか分かるかもしれない」
あの人? あの人って誰だろう? コリスは声を上げた。
「あの人って誰なんですか?」
「私の師匠だった猫だ」グローリアがルビーのように赤い瞳をコリスに向けて言った。
「!!?」コリスはビックリしすぎて声が出なかった。
グローリアの師匠!? 一体、どういう猫なんだろう? コリスは興奮した。
「コリス君、グローリアの師匠は部族の中で一番長生きしてる人なんですよ。だから、礼儀正しくね」
と、シーリーが言った。
「えっ・・・って、僕も行くの? ど、どうしよう・・・」コリスは礼儀正しくと言われ、どうしていいのか分からなかった。
「別に普通でいい。それに、別にあいつに気を使わなくても構わん」
「えっ」
コリスとシーリーは苦い顔をしているグローリアを見た。
*・*・*・*・*
「よろしく伝えといて下さいね~」シーリーが玄関で二人を送り出しながら言った。
人間のグローリアは、コリスが初めて会った(連れ去られた)ときに着ていた黒いコートを羽織っている。コリスは何も着けずにそのまんまだ。
ふと、コリスはシーリーを見上げた。
「シーリーはグローリアの師匠に会ったことがあるの?」
「ええ、ありますよ。すごくキレイな白猫です。同じ白猫ですから、会うときはいつも良くしてもらってるんですよ」
と、シーリーは嬉しそうに言った。だが、今回はシーリーは家の家事があるので一緒に行けない。留守番として残るのだ。
グローリアの師匠って白猫なんだ・・・。コリスはちょっと想像した。
「じゃあ行ってくる。家のことはまかせたぞ」
一体、どんな猫なんだろう? コリスは偉い人(猫)に会うことに少し緊張しながらも、結構わくわくしていたのだった。




