恋愛ごと
「・・・あ、それよりも結婚があるんですね」
コリスは気を取り直して、明るく言った。
「はい、みんなめったに結婚しないですけどねぇ。私も、このまま行けば結婚しないかもしれないです。でも、もし子供が産めたら絶対『魔者』になって欲しいんです! 私はなれませんでしたからね」
シーリーはそう夢見がちに言った。銀色のキラキラした瞳が、もっと輝いて見えた。
コリスは、ん?と首をかしげると、シーリーを見上げた。
「あれ? シーリーは『魔者』じゃないの? じゃあ、どうして『魔者』にならなかったの?」
そのことに、シーリーはクスリと笑うと困ったように肩をすくめた。
「私、戦いに向かなかったんです」
「『魔者』は戦士だからな、性格に向き不向きはある。シーリーは戦うというよりも、こういう仕事のほうが向いていたんだ」
グローリアが説明した。
「そうなんですよ。以外と多いんですよ? 私みたいに『魔者』じゃない猫は。でも、部族のみんなは『魔者』に憧れてるんですよ。だから、私みたいに自分の子供を『魔者』にしたい! って思ってる人はたくさんいるんです。なにしろカッコイイですからね!」
猫の部族は数が少ない。そして、その中の『魔者』はもっと少ない。シーリーのように性格的に向かない者は戦わない代わりに、魔法で国のあちこちに結界を張って国を守っているのだ。
だが、子供を産んで『魔者』を一人でも増やせば、敵の部族を早く追い払えたり、エンブラン国を守ることが楽になる。『魔者』を増やしたい理由には、それも含まれているのだ。
「そうなんだ。でも、みんなあんまり結婚しないって言ってたよね?」コリスはふと思い出して言った。
「そうなんですよ。でも、それには理由があるんです」
シーリーは困った顔をした。
「私たちはみんな恋愛色が薄いんですよ。たまに、気が合う異性と同居してる人がいますけど、そいう人は大抵相手を恋愛対象と見てないんですよね」
つまらないといった感じでシーリーはため息をついた。コリスはきょとんとした。
よく分からない様子のコリスを見て、グローリアが説明した。
「恋愛色が薄いというのは・・・・そうだな。あまり我われは恋をすることが少ないと言うのか・・・興味がないというのか・・・。まあ、簡単に言ってしまえば、異性と恋仲になりにくいということだ」
非常に説明しにくいのか、グローリアは尻尾を揺らしながら言った。コリスは目を瞬いた。
「それじゃあ、みんな恋人同士にならないんですか?」
「いや、なるやつはいるぞ。だが、大抵は恋人まで発展することは少ない・・・。ただ、シーリーが言ったように気に入った相手と一緒に暮らしている者はいるがな」
「そうなんですか? 僕は・・・どうなんだろう?恋人ってどんな感じなんだろ」
コリスは、まだ知らない将来の相手を思い浮かべながら言った。
「さあな。だが我われにも結婚というのがあるから、コリスも積極的に相手を探せばいい。」
生暖かい目で見つめられて、コリスはゾクッと身体を震わせた。別にそんな目で見なくても・・・、とコリスは切実に思った。
すると、シーリーが思いついたように「そうだ!」と突然声を上げた。ビックリしているコリスに詰め寄ると、期待するようにじっと見つめる。大きな銀色の瞳がすぐ目の前に迫ってくる。いきなりのシーリーの変貌に、コリスはビックリして後ずさった。
「コリス君! もし気になる子が出来たら私に相談して下さいね! なんでも相談を聞きますから!」
むしろ、相談事よりもそういう話が聞きたいという顔をしているシーリーに、コリスはますます後ずさった。
「えっ、僕たちって恋愛にあんまり興味ないんじゃなかったの?」
「いえいえ、私は自分のことはどうでもいいんですけど、他の人の恋愛事になると凄く気になるんです! だから、コリス君! 私に遠慮なく相談して下さいね!」
ニコッと笑うシーリーに、コリスは助けを求めてグローリアを見た。グローリアは呆れたようにシーリーを見やった。
だが、シーリーは楽しみが増えたとずっとニコニコしている。
コリスは冷や汗をかきながら、もし恋愛の悩みが出来ても、絶対にシーリーには言わないと堅く心に誓った。
少なくとも、グローリアは恋愛に全く興味がないようなのに、シーリーは(他人に対して)興味深々だ。コリスは不思議だなあ、と思った。
だが、ふと自分も猫の部族にしては好奇心が強いらしいので、仲間のほとんどが『マイペースで無関心で恋愛色が薄い』というわけではないのかな、とちょっと失礼なことを思った。
【恋愛】
猫の部族は恋愛色が薄いということでしたが、お分かりいただけたでしょうか?なんというか、そういう感情があまり無いということなんですが、なんとなーく分かってもらえるとありがたいです。
そこのところ、グローリアも説明し辛そうですね(汗
なにか今回で疑問に思ったり矛盾がありましたら、教えていただけると嬉しいです。
では、今回もありがとうございました。




