シーリーの生い立ち
三人はテーブルを囲んで昼食を食べていた。
シーリーとグローリアは二人とも人間の姿で、赤いソースの付いた細い紐のような食べ物を食べている。
コリスが食べているのは、なんだか色んな物を混ぜたようなドロドロとしたご飯だ。どれもシーリーの手作りだ。
見た目はドロドロしているが、子猫のコリスにとっては最適なご飯なのでお腹を壊すことはない。味もおいしい。
なので、コリスは黙って食べていた。
「それなんですか?見たこと無いですけど」
コリスは自分のものと違う、二人の食べ物に興味を引かれた。
「これはスパゲッティーだ。人の姿になると、色々なものが食べられる様になるからな。なかなか美味だぞ」
グローリアが、フォークにスパゲッティーを巻きつけながら言った。
「ふふっ、ありがとうグローリア。人間って色んなものが食べられますから、飽きないんですよね。それに、人間の食べるものって美味しいものが多いし、作るのも楽しいですよ。コリス君も儀式が終わったら作ってあげますからね」
シーリーは、作った料理をグローリアに褒められて嬉しそうだ。コリスも、じーっと二人の食べ物を見てクンクンと鼻を動かした。
「うん、ありがとうシーリー。そのときはこれ作ってね。ところで、儀式っていつあるんですか?」
コリスはツバを飲み込みながら、ふと思ったことを聞いてみた。
グローリアはもぐもぐと食べながら、
「今から20年後だ」と言った。
ぶっとご飯を噴出したコリスは、あわててグローリアを見た。
「に、20年後?!」
「安心しろ。あっという間だからな。それに、修行期間は20年と決まっている」
てんで的外れなことをグローリアに言われて、コリスはぐるりと反対側にいるシーリーを見た。すると、シーリーは笑いながら、
「大丈夫ですよ。猫の部族の平均寿命は長いですから。20年後は、コリス君は立派な青年になってますよ。それに、グローリアが言ってるように20年なんてあっという間! です」
シーリーはそう言った。
「そうかな・・・。なんか20年って想像つかないけど」
コリスにとって、20年はとてつもなく長い時間に思えた。
すると、単純な疑問が浮かび上がってくる。
「猫の部族の平均寿命っていつくなんですか?」
「約100年だな。『魔者』以外は老いもするし、色んな職にも就く。機会があれば結婚もできるかもな」
グローリアはのんびり食べながらそう言った。
「あの、じゃあ普通の猫はどれくらいの寿命なんですか?」
「・・・・大体、20前後だな。中にはもう少し生きる猫もいるが・・・」
「僕たちよりも随分と寿命が短いんですね・・・・・」
どこか暗くなったコリスを、グローリアは少し悲しそうな目で見た。
コリスは自分を産んだ母猫と兄妹たちを思い出していた。コリス以外全員、普通の猫だった。だからコリスは、自分だけ長生きすることに少し寂しくなったのだ。
シーリーは暗くなったコリスを見て、きょとんとしていた。それを、グローリアが目でたしなめたが、仕方が無いとため息をついた。シーリーには、コリスがどうして猫の寿命のことで落ち込んでいるのか分からないのだ。
それは、シーリーの生い立ちのせいでもあった。
コリスが生まれるずっと前、グローリアは白猫が生まれる夢を見た。シーリーの夢だった。そして迎えに行ったとき、シーリーは母猫から捨てられて酷いありさまだった。
息も絶え絶えで、寒い季節のせいかえらく体が冷たかった。げっそりと痩せ細り、死ぬ寸前だった。地面に倒れているシーリーを見つけるやいなや、グローリアは血相を変えて家に連れ帰った。その日から、グローリアはしばらく一晩も寝ずにシーリーを看病していた。
そして、シーリーが目を覚ましたとき、グローリアはシーリーに記憶がないことが分かった。道端に倒れていたことも、死にそうだったことも全く覚えていないのだ。グローリアは悲痛な思いで、シーリーに死にかけていたことを打ち明けた。
だが、シーリーは信じようとしなかった。そして、グローリアのことを「お母さん」と呼んだのだ。グローリアは諦めて、シーリーが受け入れられるようになるまで大きくなるのを待った。
そして、大人になったシーリーにグローリアは本当の母親ではないことを告げた。シーリーは少しショックを受けたが、それでも今でもグローリアのことを母親のように思っている。シーリーがグローリアから離れず、未だに一緒に暮らして家の家事を受け持っているのはそのせいだった。
少し話しが逸れたが、つまりシーリーは普通の猫に対する特別な思いがないのだ。シーリーは普通の猫から生まれたにも関わらず、コリスのような記憶がないので、別に普通の猫と寿命が違うことになんとも思わないのだった。
そのことに、グローリアはずっとなんとも言えない気持ちでいたのだった。
【補足】
出しそびれましたが、シーリーの名づけ親はグローリアです。
そして、今回はそんなに補足するところがないので、また次回!
いつもながら、読んでくださってありがとうございます。




