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20話

ウンディーネからの念話。

高校生くん――高校生じゃないかもしれないが――はなかなか頑張ってダンジョンに挑んでいるようだ。

怪我をして治癒しては挑んでいるらしい。だんだん潜る時間が長くなっている、とも。将来性がある子っぽいな。良きかな。

彼が長く挑めば挑むほどDPが稼げるので、是非とも頑張って欲しい。


翻って俺はというと、じいさんたちと一緒にテレビを見ている。野球、MLBだ。

無論俺が客席に座ると風営法違反なので、俺は立っている。

野球、盛り上がりどころがわかりやすいよな。バッターがボールを打ったら盛り上がりどころ。地面にバウンドすれば倍プッシュ。点数が入ったらお祭り騒ぎ。

点が入るまでに一塁二塁三塁の塁進があるのもわかりやすい。ホームに近ければ近いほどチャンスで、興奮するところですよとわかる。

しかし一球ごとのプレイはほどほどに時間が空く。全体的に言って、観戦が容易いスポーツだ。


なので、じいさんたちは熱中している。大谷が、とか言ってる。


「んー。人がもっと来ればなあ」

「真野様、そればっかりですね」

「ははは。DPが欲しくって」

「まあダンジョンを管理するものとしてはいいことです」


すると、商業スペースの入り口が開いた。高校生くんだ。


「すいません、ご飯いただきに来ました」

「はいよ。肉チャーハンとおにぎり、どっちがいい?」

「あ、肉チャーハンでお願いします」


シャルロッテにも肉チャーハンのオーダーは聞こえたようだ。早速冷凍庫を開け始める。

冷凍チャーハンをざっくり計量して、同じく冷凍してあった肉と一緒に炒める。

なんて適当な調理なんだ。だが飲食店といっても真面目な飲食店ではない。許して欲しい。

シャルロッテががっしゃがっしゃとチャーハンを炒めている間に、高校生くんにお茶を出す。


「はい、お茶。……えーと、きみ、名前は?」

「山岸っていいます」

「三級、なんだよね?」


じいさんたちからもほお、と声が上がる。推定高校生で三級なら、筋がいい方だ。


「はい。中村さんのご指導のおかげで」

「はえー。あいつ指導とかするんだ」

「中村さん、俺みたいな陰キャにも声かけてくれて、指導までしてくれて……恩人ですよ」


俺の知らない中村の一面だ。


「そっかー。中村がなあ。……それはそうと、うちのダンジョン、どうだった」

「ダンジョンですか。……あのフレグランス、めちゃくちゃ集中力削がれますね」

「あー。アロマディフューザー」


集中力が削がれる、と。まあアロマディフューザー置いてるダンジョンなんてそうそうないからな。


「なんかぽやっとしちゃって、それで攻撃受けちゃうことが何度か。怪我にもなりますし、何度も再挑戦しました」

「コボルド、普段戦うの?」

「初めてですね。ゴブリンとは違うんだなーって思い知りました」

「ゴブリンは楽?」

「勢いよく突進してきますけど、それだけですからね。じわじわ距離を詰めるとか、二体同時にかかってくるとかは、コボルドしかやってこないです」

「なるほどねえ」


現役探索者から見てどうか、というところを聞きたかったのだが、受け答えがしっかりしていていい子だな。


「実際のところ、どう?通う?」

「うーん。ドロップ品に期待できないし、ちょっと遠いので、毎日というわけにはいかないです。でも、経験を積む意味ではいいですね。たまに来ます」

「うん、ありがとう」

「肉チャーハンお待たせしましたー」


スウェットにエプロン姿のシャルロッテが配膳しに来た。

山岸くん、とある一点を見つめている。うん、高校生だしね。


「……すごいですね、このチャーハン。肉いっぱいで」


肉いっぱいなのは見つめていた箇所もかと思うが、まあ触れてやらんでおくか。


「無料サービスは今日までだから、運が良かったね」

「いくらでも食べられますよ、これ」

「それは君が若いからだよ」


流石に俺はもうゴリゴリに肉の入ったチャーハンをいくらでもは食べられない。だって中年だからね。


「そういうものですか。おかわりおねがいします」

「そういうものだよ。シャルロッテー!おかわりお願いー!」


シャルロッテがギョッとした顔をした気がする。やっぱり悪魔的にもおかわりは想定外だったらしい。


そしてその後山岸くんは肉チャーハンを二回お代わりして(都合四杯だ)、ダンジョンに戻っていった。


「ふー。高校生の食欲すごいな」

「驚きました」


シャルロッテと俺が思い思いに感想を述べる。そこに爺さんたちが寄ってくる。


「若い子はよう食べるのお」

「わしらも若い頃はあんくらいくっとったぞ」

「今は?」

「塩分量で一杯で制限がかかるな、ガハハ!」

「わはは!」


賑やかでなによりだ。

DPは2000強になった。やっぱ探索者がくると違うな。


----


3月1日、月曜日。仕事は有給、だが、ある。今日は勤め人から経営者になった日、ということになるか。

感慨とかは特にない。昨日も一昨日もダンジョンにかかりきりだったし。あ、今日以降も続くんだな、ぐらい。

……んー。今日ポテトとクロの検体提出に行こうかな、キリもいいし。


「シャルロッテ、留守番頼めるか?」

「はーい」


弁護士さん曰く、動物病院とかではなく、厚生センターで受付だそうだ。支所ではダメとのことで、高岡まで行く。ぶろろろろ。


「すいません、認定モンスターのための検体提出に連れて来たんですけど」


二匹を抱っこして連れてきた。しかしポテトがぐずる。クロもちょっと嫌そう。


『まのー。おくすりのにおいする。やだ』

「がう〜」


薬の匂い嗅いだことないはずだろ、というのは無粋なツッコミか?


検体提出に来てる人は他にはいないようで、すんなり奥へ通された。


「血液、体毛、唾液をサンプルとして取ります」

「はい。注射ですか」

「注射ですね」

『いたいのやだー!』

「がうー!」


ポテトが騒ぐ。クロが乗っかる。


「はい、ちょっとだけちくっとするからねー」


いつの間にか注射器を持っている。つよい。プロだ。

ちくり。ちくり。


『あんまりいたくない』

「わふ」


最近のプロの採血は痛くないらしい。俺たちが子供の頃はあんなに痛かった記憶があるのに、なぜだろう。


「はい、あとは唾液採取と体毛採取です。あちらへどうぞ」

「はーい」

『なんかたのしい!』

「わふ?」


それはどうかと思うぞ、みたいなクロのツッコミ?が入った。俺もそう思う。


唾液の採取も体毛の採取もサクッと終わった。

唾液は綿棒で口の中を擦るだけ、体毛はハサミで切るだけ。すんごい簡単だ。え、もう終わり?


「結果は1ヶ月後郵送しますので、こちらに必要事項をご記入ください」


書類書く方が長くなった。ぶろろろろ。


「ただいまー」

「おかえりなさいませー。早かったですね」

『ばくそくー』

「わおーん」

「うん、行政サービスの進化を感じる」

「なんですかそれ」


シャルロッテが笑う。

「仕込みはどう?」と聞くと、「おつけものを補充したぐらいです。バッチリです」とのこと。

じゃあ12時になりしだい営業始めるかあ。


----


昼。一番に中村が来た。


「おーい。肉チャーハン一つ。あと枝豆と、きゅうりのつけもの」


しかもいきなりオーダーし出した。


「なんだ中村、貢献か?」

「いや山岸くんが肉チャーハンうまかったっていうから気になって腹空かしてきた」


「えーと税込で、肉チャーハン770円、枝豆220円、つけもの110円。しめて1100円」

「都度払いだっけ。ほい」

「まいどあり。シャルロッテー、肉チャー、枝豆、漬物、各1」


シャルロッテが厨房から返答する。


「ありがとうございまーす」


中村が返事する。


「どういたしまして〜」


飲食店の注文してどういたしましてとかいうやつ初めて見た。

ほどなくして、じいさんたちもやってきた。


「ビールと枝豆をもらおうかの」

「わしもビールと枝豆を」

「おにぎりひとつ。あとお茶」


おにぎりひとつのじいさん、昼食ったのか?と聞くと「いやあ、家を出る前は腹が減ってなくてのお」とか言い出す。でもおにぎりは頼む。そういう気遣いいいから。


「別に何も頼まなくても休憩所扱いでいいんだからね?」

「いやあ場所だけもらうのは悪い、おにぎりは帰って食うよ」

「いやそれは食品衛生的に保健所に睨まれるから食って帰って」

「そうか? 夜食にしようと思ったんじゃがの」

「マジで食べて帰ってね?」


夜食が必要な時間まで起きてるつもりかじいさん。


「ビールは550円、枝豆220円、おにぎり110円ですね」


じゃらじゃらと支払いがされる。


「まいどありー」

「ありがとうございますー」


シャルロッテは毎回ありがとうをいうつもりらしい。いいけどね。


「お礼を言われるといいことした気になるのう」

「もっと頼むか?」

「いや、食えんじゃろ」


そんな話をしている。平和だ。


「で、中村、チャーハンどう?」

「自分で作るよりうまい」

「そりゃどうも」


じいさんたちに確認。


「そういえば柳瀬さんって今日来ない?」

「ああ、奥さんと一緒に来る言うとったぞ」


奥さんか。なんか言われるのかな。言われるだろうな。


「柳瀬じゃぞ」

「真野さん〜。こんにちは〜」


来た。


「わしの嫁を従業員にせんか?」

「真野さんのお店なら、張り切って働いちゃうわよ!」


想定外なんですけど!?


「あの、時間帯責任者になれる正社員を希望してまして」

「なんじゃつまらん。まあ嫁も言ってみただけじゃがの」

「おほほ。そういうこと」


この夫婦、胃に良くない。

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