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14話

火曜、保健所が来た。というより、来るので有給を取った。

図面、施工は問題なかった。問題はモンスターたちの扱いだ。


「商業スペースに入るとまずいですよね」

「動物型の二匹は動物扱いですね。NGです」

「グレーターデーモンは」

「うーん、従業員扱いできるならいいんですが、日本の戸籍がないですよね?」

「はい」

「そうすると外国人の不正就労扱いになりますね」

「あー、外国籍扱いになるんですね?」

「そのへん詳しくは探索者課ですね。それか市民課」

「市民課?」

「おや、ご存知ないですか? 完全人型モンスターは日本国籍と戸籍を取得できるんです。例のサキュバスを連れて帰った方が弁護士でね」

「どゆこと???」

「ははは。詳しくは市民課でお聞きください」


と言うわけで、保健所は思いのほかあっさり飲食店営業許可をくれた。

続きは市民課だ。シャルロッテを伴って行く。


「ええ。完全人型モンスターの戸籍取得はうちの課です」

「マジですか」

「本気と書いてマジです。いや、まさかうちの市で適用する日が来るとは思ってなかったんですが」

「条件とかありますか?」

「緩いですよ。うちの市に居住していること。保証人。日本語の聞き取り能力。日本語筆記能力。そのぐらいです」

「外国人のそれより大幅に緩い」

「精神鑑定が必要だ、なんて話もあるんですけどね。モンスターの精神を鑑定して本当にそれが人間の倫理とそぐうのか?って」

「シャルロッテ、どう思う?」

「名作にありました。精神鑑定なんて自らの異常性を認識していればそれを取り繕う形でパスできる、でしたか」


手をパンってやる作品ですね、わかります。


「ははは。それを理解されてる時点で精神鑑定の必要はないんです」

「はあ」

「いいですよ。日本国籍、欲しいです。真野姓はいやですが」

「あ、いやなの」

「私は私に名付けてくれた最初のマスターに操を立てているので」

「ふうん」


俺が立ち入っていい話じゃなさそうだよな。

でも気にはなる。いつか聞けるのかな。


「では書類をください」


シャルロッテが書類を要求した。


「こちらです。筆記用具を貸し出しますが、いまここで書いて行かれますか?」

「はい……これで真野様に何かあっても、私がマスターの庇護者になれますね」


シャルロッテ、俺に何かあった未来を想定していた。まあでも、寿命とか全然違うだろうし、その備えは正しい。

姓の欄には、アンデクスと書かれていた。

なお、手続きは1週間ほどかかるとのこと。

登録が終わったら書類に記入した住所にマイナンバー通知のハガキが来るらしい。わかりやすいね。


「これでシャルロッテも従業員になれるな」

「給与はたっぷり弾んでくださいませ」

「……飲食店かあ」


気が重いぜ。誰かコック雇って俺もウェイターやろうかな。それもなあ。急須だけ置く計画はどうなったんだ。


「これはある意味保健所の管轄の話なんですが」

「はい?」

「ティーバッグと電気ケトルだけ置いたセルフ式の休憩所なら飲食店許可はいらなかったですよ」


職員さんから伝えられた衝撃の事実。え、マジで?


帰って調べた。マジらしい。


「五百万円稼いだ1週間、改築に費やした2週間はなんだったんだ……?」

「……逆に選択肢が増えて良かったのでは」

「飲食店本気でやるのお?」

「いえ、真野様の思うがままに」

「丸投げされたー」


飲食店をやるならダンジョン業ではない、真っ当な開業届がいる。と言うわけで税務署申告がいる。

人を呼ぶって大変なことなの。


ぐてっ。


----


税務署は職員さんがオッケーをくれた、これでいけるはず。消防への届けは増築の時に出したしな。

税務署からの帰りの夕方ごろ、柳瀬さんに電話。


「柳瀬さーん」

「おう、真野くんか。すまんな、息子からプレゼントされて、夫婦で旅行にいっちょった」

「あーなんだ。予告ないから心配しましたよ」

「で、何のようじゃ。真野くん、用もないのに電話はせんじゃろ」

「事業法務に強い弁護士と、税理士の知り合い居ません? 手続き自分でやったけど、面倒くさい」

「おう、居るぞ。最初から言ってくれれば良かったのに」

「でも旅行に行ってたんでしょ?」

「すまんすまん!わはは」


怒る気にはなれない。だって息子に親孝行されたら誰だって喜んじゃうだろうもんな。胸がちくりとする。


「じゃあ連絡先を教えるから、しっかりメモしろよ」

「はい、ありがとうございます。えーとメモメモ……」


弁護士さんと税理士さんの連絡先を手に入れた。


「何時ごろ連絡すればいいですかね?」

「おお、気が逸っとるな。あんしんせい、この電話の後にすぐに連絡しておくから、明日以降に電話すればよかろう」

「あ、それと、飲食営業許可は出ました」

「ほうかほうか。そしたら近いうち客になるやつを連れて行くからな」

「何から何まですみません」


スマホを握りながらぺこぺこする。ジャパニーズ電話仕草。

DP収入のためなら、苦労はいくらでもするし頭は下げるぞ。


----


水曜日、オープン初日。俺は居らんでもいいだろ、ということでこれまでの仕事に出る。何か起きてもシャルロッテに全面的に任せる。ていうか俺より人生経験豊富そうだし?


問題はシャルロッテが従業員をやると、奥に引っ込まざるをえない二匹をかまう人間がいないことだ。なので、シャルロッテにはほどほどに従業員をやりつつ裏ではポテトやクロをかまう、というかなり高度なことをやらせることになる。うーん、大丈夫か?


「真野くん、そわそわしてるね」


三浦さんに指摘された。え、マジか?


「あれ、そんなふうに見えます?」

「仕事もないし、帰っても大丈夫だよ?」

「……いや、それには及ばない……」

「有休、余ってるんでしょ?」

「……ありがとうございます」

「ペットのモンスターによろしくね」


退勤ボタンを押して、午後休の申請をして、帰る。

ポテト〜、クロ〜。今帰るからな〜。


……ああ俺、こんなにポテトとクロが大事だったんだな。


ぶろろろろ。ついでにコストコで食材を買う。商用スペースの業務用冷蔵庫に突っ込む用だ。チャーハン、冷凍惣菜。スポドリもあってもいいかも。あと賄い用の冷凍肉、冷凍パスタ。賄いつったらパスタって感じ、ない?


ショッピングバッグをいっぱいにして帰る。ていうか、このレシートも事業出資か。ちゃんと家計と分けとかないとな。


「ただいま〜」


帰って仏間を見ると、ポテトとクロが並んでこたつに入っていた。


『まの〜〜!!!!はやい!どしたの!』

「ばう!わう!」

「心配で帰ってきた。どうだ?」

『人いっぱいきてる。でぃーぴーたくさん』

「おー、よかった」


ポテトとクロをわしゃわしゃ撫でる。あー、落ち着く。

いや構うために帰ってきたのだ。俺が落ち着いてどうする。ポテトとクロに安心を与えないと。


わしゃわしゃ撫でていると、シャルロッテが商用スペースから居住スペースに戻ってきた。


「真野様!帰ってきて大丈夫なのですか?」

「休みにさせてもらった。どう、調子は」

「おにぎりを出しました。あときゅうりをあなんたん醤油で半日漬けたやつ。みんなにこにこして食べてくださって、ほっとしてます」

「シャルロッテの握ったおにぎり、美味しそうだな」

「ラップ越しですよ???」

「あ、素手ではない……」

「食品衛生責任者さん?」


ふと気づく。


「食品衛生責任者いないのに物出してよかったのか? 在店義務とか」

「大丈夫なんじゃないですか? いざとなれば精神操作でなかったことに」

「やめてね?」


商用スペースを覗きにいきたいが、ポテトとクロをわしゃわしゃした手だ。消毒がいる。

アルコールプッシュ、コロコロで服の毛を取る。モンスター、毛抜けないけど。で、管理表に記載。


「ヨシ?」

「ヨシ、です」

「んじゃ見てくる」


念のため、商用スペースには表の関係者入り口から回り込む。で、改めて中に入る。


「いらっしゃいませ〜」

「おお真野くん。邪魔しとるよ」


八畳間に四人、じいさんたちがいた。

柳瀬さんと、知らないじいさんと、知らないじいさんと、知らないじいさん。

ハゲ、小さめ、ベレーで覚えよう。


「君が真野くんか。でかいテレビ、堪能させてもらっとるよ」

「茶がうまい。どこの茶葉かね、これ」

「あのシャルロッテちゃんと言う子、孫の嫁にならんかね」


あ、やべ、テレビの業務用契約してない。やることメモ。


「家では塩の効いたもの食わせてもらえんからな、手作りのおにぎりときゅうりの漬物、うまくてたまらん」


ハゲのじいさんがシャルロッテお手製お手軽料理を褒めてる。


「それダメなんじゃないですか?」

「なあに、それで死ぬなら本望よ」


店で死ぬなよ、と思いつつ。まあみんな満足してるようだ。

ログを見ると、DPも増えてる。うん、初めての収入、うれしい。


これは初日にしては大成功なんじゃないか。


小さめのじいさんが「ビールは出るかの?」と聞いてきた。

すいません今切らしてるんですよ。これは仕入れにメモ。


ベレーのじいさんはしきりにシャルロッテを気にする。このじいさん、孫の嫁どころか自分の後妻にしようとしてんじゃなかろうな。いや、邪推か。


じいさんたちは思い思いにテレビ見るか茶飲むか喋るかして寛いでるので邪魔するのも悪いなと思い、キッチンのカウンターに座る。ふー。

すると柳瀬さんが寄ってきた。


「どうだね、感想は」

「いろいろやってみてよかったなあって感じです」

「そうだろ」

「ポテトとクロをこっちのスペースに呼べればいいんですけどねえ」

「ケモノは飲食店じゃ難しかろ」

「そうなんですよねえ」

「表にいればいいんじゃないかね。あとテラス席を作る」

「……寒がりなんですよ、ポテト」

「そんならダメか。いいアイデアだと思ったんだが」

「うーん、一階はあと一部屋だけ居住スペースでそこにポテトがいるんですが、そこをふれあいスペースにする、とかですかね」

「それが現実的かもしれんの」


弁護士さんに相談かなあ。


そして、初日営業は好評のうちに終わった。


「18時ですんで、店を閉めまーす」

「何じゃ、もう6時か」

「帰って飯だのう」

「飯食えんか?」

「ごはんはのちのち提供予定ですんで。今日はすいません」

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