12話
むかし勝手口だったところがいま玄関になったのだが、
そこに取り付けたチャイムが鳴った。
ぴんぽーん。誰だ。居住スペースで寛いでいたんだが。
中村ではないはずだ。
「どなたさまー?」
「桜木です! 中村さんからご紹介にあずかりました!」
女の子の声だ。とすると、中村が言ってたJKだな。
「はーい、開いてるのでどうぞー」
「お邪魔します!」
上がってきた姿をみると、前にスーパーで見かけたレザーアーマーJKだった。
「こんにちは。こたつ入る?」
「はい!」
屈託のないいい子だ。新・仏間に入ってきてぽすんと腰をおろした。
「今お茶入れるねえ」
「あ、ありがとうございます!」
しかしふと気づく。「おっさんの住む家にJKがするりと入っていった」と言う状況である。非常にまずいのでは?
いや、開業前だが店だからokだ。そう信じることにする。
すでにこたつにいたシャルロッテが白い目で俺を見る。
「真野様」
「なんすか」
「もう遅いです」
だよなあ。一方桜木ちゃんは何もわかってなさそう。
「あのねえ桜木ちゃん。おっさんが一人で住んでる家にのこのこ入るJK、世間的には」
「でもここ、ダンジョンですよね?」
「……そうだね」
「ダンジョンにJKがソロで入るのなんて珍しくないですよお」
けらけらと笑う桜木ちゃん。アカン、何もかも正しいのに何もかも間違っている。俺はどうすればいいんだ。
「どうしよう、シャルロッテ」
「私に頼るんですか!?」
「わー。情けない。うちのパパみたい」
「こほん。真野様はそれは立派な家主ですよ」
「わあ。噂のグレーターデーモンさんですか?」
「はい。今はこんな服装ですが」
シャルロッテも照れてる。まあスウェットだからな、威厳もなんもない。
「でも私には倒せなさそうですー」
「倒す、かあ」
「将来的には倒せるようになりたいんですけどねえ。あ、シャルロッテさんを、ではないですよ」
「それはどうも?」
シャルロッテが不思議な子だなあと思って桜木ちゃんを見ているのがわかる。俺も不思議な子だなあと思ってるから仲間が欲しいだけかもしれないけど。
「だってデーモンスレイヤーですよ!ドラゴンキラーよりよっぽど現実的な称号です!」
「お、おう」
「かっこいい称号!富と名声!それがあればこの世はウハウハ!」
「ウハウハて」
「まあ理想的な恋人も欲しいところですけどね」
マネー!みたいな目をしていたのに、スン、と桜木ちゃんの顔が戻る。表情豊かな子だ。ちょっと豊かすぎるが。
ところで、ポテトとクロはこたつを挟んで桜木ちゃんの反対側にいる。
中村には割と懐いているのに、桜木ちゃんには近寄ろうとしていないことが引っかかる。
「ポテトー?桜木ちゃんはあんまり好きじゃないか?」
ポテトに問うと、のそのそとこたつから這い出てきた。
『……さくらぎー?』
「あは!毛玉じゃないですか!この種族かわいいから好きです!」
『ぼくはさくらぎ、すきじゃない』
ポテトは腕を広げておいでおいでする桜木ちゃんを置いて、ぷい、と2階に上がっていってしまった。クロも連れて。
「……なんかマズりましたかね?」
「……さあ?」
「マスターが拒絶するのは珍しいですね。いつも人には懐くんですが」
シャルロッテ、目が笑ってない。ん、もしや地雷か。
「すまんが桜木ちゃん、今日は一旦帰ってくれるか。なんかポテトは機嫌が悪いみたいだ」
「あ、はい。真野さんがそうおっしゃるなら」
すっくと立ち上がって桜木ちゃんは帰り支度を始めた。
「あ、でももう一回来ていいですか?」
「うーん。ポテトが嫌がるようだと、この家に来てもらっても……」
「ですよねー。わかりました、中村さん経由で良いので、連絡頂けますか?」
「うん、わかった」
そうして桜木ちゃんは帰っていった。
さて。
「で、説明してくれるか、シャルロッテ」
「……マスターに直接聞いたりはしないのですね」
「あの調子だと、桜木ちゃんの話すら嫌がりそうだからな……」
「はい、そうだと思います」
シャルロッテが肯定する。
「じゃあ聞かせてくれよ。なんでポテトはヘソを曲げたんだ?」
「ありていに言って、彼女の夢ですね。デーモンスレイヤー、ドラゴンキラー、その辺りの『モンスターを倒すもの』であることを強く主張したと言うのが要因です」
「ふむ?」
「今のような平穏を、桜木さんに後から壊される可能性が高い、と判断したのかと」
「あー……」
「私も、マスターに従うものですので」
「いや、もういい、わかった。ありがとう」
シャルロッテに笑みが戻った。
……とはいえ、探索者がダンジョンに入ることによるDP収入は少し惜しいんだよな。今の訪問で、もう5DP貯まった。
「人が増えればDP収入も増えますが、マスターが気に入らない人間も伴って増えるでしょう」
「……そうだな」
「殺しますよ、私は」
「……そうか」
ポテトが階段を降りてくる音がした。
『まのー。さくらぎ、かえった?』
「ああ、帰った。しばらく来ないと思っていいぞ」
『うー』
ポテトが俺の膝の間に強引に入り込む。
『まのは、みかただよね』
重てえよ!!!!!!!!!!!!!!
ポテトを撫でることで返事の代わりにする。
『んー……』
撫でていると、そのうちぷうぷうと寝息を立て始めた。
時計を見ると、まだ10時半だった。
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急ぎではないが欲しいものとして、クロ用の翻訳首輪の二つ目がある。なんだかんだクロの意思はあまり確認できていないので、手に入るなら欲しい。
あとはポテトがやりたがっているダンジョン拡張。
うーん。ダンジョン拡張のボタンは押せる状態にある。いまなら一フロア100DP!とか書いてあるので。
そして首輪はガチャ産で、実際にいくらかかるか読みづらい。
「シャルロッテー」
こういう時は知ってる人に聞くのがいい。
「なんでしょう?」
「フロアが増えたらどうなる?」
「フロアが増えます」
「……だよなあ」
「もっと突っ込んだ話をしますと、この家の場合、フロアが増えてもモンスター配置を行わない限り、広い物置になるだけですね」
「広い物置」
「地下フロアですよね? でしたらこの家の敷地全体分の地下フロアが丸々一個できるかと」
「で、それは別の次元に繋がってる、と」
「そこは前にお話ししましたね。その通りです」
「ふーむ……別に損はしないのか」
「あ、維持費はかかりますよ。日に1DPですけど」
「あれ、案外安いな?」
「ダンジョンとしては広くないので」
ぽち。
- ぴろん-
- 真野卓也宅地下にダンジョン地下第1階層ができました -
「押しちゃった」
「いいと思いますよ。真野様らしくて」
シャルロッテが微笑んだ。
微笑んだので、良い選択をしたんだと思う。
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