まず、認識させます
――――――――落としましたよ。
ふと聞こえる声、東京の新宿橋下近くの交差点で、誰に向けているかわからないほどの声量で。
アスファルトと直射日光が肌を焼くように刺してくる。
蜃気楼がまじかに、今にも迫りそうなほどな気温の中誰も振り向素振りはない。
「落としましたよ。猫のストラップ。そう、黒と白の縞々の」
ようやく、向けられた声が分かったように黒髪で白のエンドカラーの女性が足を止める。
ちょうど、屋根の下でやっと声が聞こえたように振り返る。
「よかった。そのまま行ってしまうかと思いましたよ。はい、ちゃんと落ちないように」
明らかに童顔の男、旧型の郵便ポストぐらいの身長、見下ろすに対して、
落としたものを肩をあげて渡してくる。
「ありがとう。これ大事なもので、いつもはバッグにしまって出さないのに」
「何かの拍子で落ちちゃったんだね。きっと、ナイてたぜ」
バッグの奥底に、もう落ちないように内ポケットに引っ掛けてしまう。
母からもらった大事なもののひとつ。なくしたくない。
「これがないとあまり自身が持てないのよね。どんなことでも」
そりゃよかったと踵を返して信号を渡ってしまう。
――信号はきっと赤だった。
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「遅かったなMK。もうちょっとで遅刻だったぞ。報酬が減っちまう」
「わかってる。でも仕事はしっかりとさせたいでしょ」
ラッパーみたいなチャラチャラの服装にロングな髪をポニーテイルにしている、
日焼けした男がいた。
左右の整えられている無精ひげを上げ、さっさと行くぞの合図をする。
今日生きるための稼ぎを行う。
「いたいた。目撃情報の裏路地の不審者」
白黒縞々の猫を握りしめたら鞄にしまい、支給されている銃口を不審者に向ける。
「止まりなさい。って聞ける相手じゃないか。だって」
「奇形頭のマリオネット~。いつから現れたんだろうね~一体」
後ろから隣の男と肩がぶつかる様に抱きしめられる。
カウボーイハットの男だった。こいつも無精ひげ生やしている。
「そういう場合じゃないです。隊長K」
「そうだぜK、一般の雑魚マリオネットとはいえ、ちゃんとするべきだ。相手に失礼だろ」
「そんなにか~、どうせ礼儀作法感情なんてあいつらにはないっての」
パッと解放され、隊長Kは拳銃を腰から抜き、狙いを定める。
静かになった数秒、マリオネットが襲い掛かる。
手元を隠しながら――。
――――――――――――聞こえなかった。
隊長Kの銃声が聞こえなかった。
聞いていない。聞いていない、やっぱり聞いていない。
そもそもなぜ私は座っているのか。
頭から血が流れている。気がする。
血みたいな温い液体を浴びている気がする。
裏路地なせいか、夕方を過ぎたからか、もうあたり一面黒しか見えない。
暗くて、むさくるしい暑さがする。
「壊したい、壊したい、壊したい、壊したい、壊したい、だって壊れてしまうもの」
ノイズのような、砂嵐交じりの音声が頭を響かせる。
ただでさえ頭が痛い気がするのに、何てことするのか。
視界が白くなる。黒だった背景は灰色に、白に、赤に、黄色に、また黒に、
絵具の洗う時のバケツの水のごとく、ぐちゃぐちゃに。
「壊したい、壊したい、壊したい、壊したい、壊したい、だっていなくなってしまうもの」
逃がす先がない痛みに声を出せずに、怖いと思っている感情を閉じ込めたまま、
知らない感情に身を任せ、そうになってはまた落ち着いて。
母をこの手でやってしまった走馬灯だけは鮮明にちらつかせ、白黒の猫が見つめくる。
「壊れた、壊れた、壊れた、これでハンバーグを作らないと」
もうじき落ちる意識にすべてを任せる。
どうせなら、寝ながらが良い。目を閉じてもカラフルで灰色な視界は変わらない。
それでも、寝ているふりでもいいかなって。
「はーい、K班見つけました。8割壊滅って感じ?男二人は見当たらないけど、、、、あれって男だったやつ?もうわからないや」
「電話越しでも悲惨ってわかる。さっさと対処して帰宅して」
ハイハイ、っと電話を切りそのまま指をパチンと鳴らす。
「じゃ、君の登場シーンはここで終わり。次の時まで休みな」
ぱちぱちと燃える音が聞こえる。
痛そうな声も聞こえる。
「あーーーーー、、、君は回収。変なことをしないから寝ててね」
そう聞こえて、安心してしまった。
そのまま、だんだん何も感じなくなってきて、しまいには何も感じなくなってしまった。
抱きかかえて移動していることだけはわかって感覚を切り離した。
■お母さん、今日のご飯は何?
★今日はオムライスよ。今度こそおいしいの作るんだから!
■お母さん料理苦手だもんね。
★いわないでよ、もう。あ、ニンジン買い忘れたわ。
■私が買いに行ってくる!だからお小遣い頂戴!
★仕方ないわね…




