7時35分。
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スマホを見れば7時35分。
なのに、もうこの信号。
いつもよりだいぶ早い。
『毎朝この時間に起きればいいのに』
なんて、ママが言ってるのが聞こえる気がする。
あ、青。
隣に居たおじさんが前に見えて慌てて横断歩道を渡る。
黒い氷は踏まないように。
セフセフ。
そういえば。
いつもすれ違う小学生集団がいない。
当たり前のことだけど、なんか面白い。
一時間もしないで世界って変わる。
って……なんか嫌だな、今の。
思春期女子のポエムってイタ過ぎ。
あ。
「今日さ、チョコ期待していい日?」
「どうしよっかなー」
ちょうど『First Love』のイントロ。
「え、ないの?」
「あるよ。ちゃんとある」
聞きたくもない会話がイヤホン越しに聞こえてくる。
「やった―――」
早足、速足。
声が遠ざかる。
こういうのも、なんか、子供っぽい?
バス待ちの、いかにもな大学生カップルの横を通り過ぎた。
――― ――― ―――
角を曲がると校門が見えてくる。
意外とこの時間に登校する生徒も多い。
部活の子はもっと早いんだろうけど。
最後の信号。
赤。
そろそろイヤホン外さないと。
マフラーをずらして取る。
「あ」
最悪。
「サイアク」
今まで一回もやったことなかったのに。
片方だけ無くすとか馬鹿じゃないのって言ってたのに。
よりによって、今日。
右耳のイヤホンはアスファルトに当たって弾んで飛んでった。
恥ずかしい。
けど、しょうがない。
俯きながら、そっちに向かう。
あ。
「これ、倉科の?」
「うん」
「はい」
「ありがと」
嘘。
「意外に倉科も校則破ってんだ」
「意外?」
何で?
「うん、意外」
「皆やってない?」
すごい。
「そうだけど、倉科は意外」
「そうかな?」
奇跡だ。
「そうだよ」
あ、青。
聴覚障碍者用の鳥の声。
自然と揃う歩調。
「寒いね」
「だな」
止め時を失った左耳からは『AM11:00』
「寒いの苦手?」
「苦手、倉科は?」
私にも、朝早起きした分。
「寒い日の日向が好き」
「あっ、わかる~」
もう少しだけ、もう少しだけ。




