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魔法少女★キャンディレッド  作者: ちりあくた
第1章 彼女が「キャンディレッド」になるまで
4/14

第4話 M4って? 憧れと怒りの影!

 へたり込む茉昼たちを背に、アヤメは息を一つ吐き、怪人へと駆けていった。


「ノワ、やるよ」


 アヤメが短く呼ぶと、彼女の影から黒いカラスが這い出してきた。


「合点承知。派手に散らしな、アヤメ!」


 ノワと呼ばれたカラスが不敵に鳴くと、アヤメの周りを黒い閃光が包む。


「『白黒つけるよ』――なんてね。仕事仕事」


 アヤメが虚空から引き抜いたのは、身の丈ほどもある、巨大な「裁ちばさみ」型の光だった。彼女が地を蹴った瞬間、鉄骨を振り回していた怪人の腕が、紙細工のように綺麗に両断される。


「ギ、ガ……ッ!?」


「ランクDなら、これでおしまい」


 交差する刃が怪人の核を正確に断ち切った。断末魔すら上げさせない、あまりに事務的で、圧倒的な暴力。


 怪人が霧のように霧散する。茉昼は、その光景に呆然としながらも、倒れている作業員の元へ駆け寄った。


「待ってください、今すぐ……!」


 茉昼の指先が、男の傷口に触れようとしたそのとき。

 ガシッ、と強い力で手首を掴まれた。


「……バカなの? アンタ」


 アヤメだった。その瞳には、助けを求める人間への同情ではなく、茉昼に対する明らかな「呆れ」が宿っていた。


「でも、この人が……」


「落ち着きなよ。本部には、治癒担当のカガヤキ持ちが山ほどいるの。あいつらの仕事を取るんじゃないよ。あいつらなら、アンタよりローリスクで『治療』できるんだから」


 アヤメは呆れたように肩をすくめた。


「この程度の怪人、死人は出ないって最初から分かってる。わざわざアンタが自分の血を流す必要なんてないの……効率が悪すぎるし」


 効率。

 その言葉に、茉昼は喉の奥が詰まるような感覚を覚えた。


「ま、アンタもその能力なら、いずれ治癒室の配属になっちゃうかもね」


「――おや、アヤメ。それは少し評価が違うな」


 いつの間にか、呼んでもないのにシロフがいた。

 彼は、茉昼の肩で翼を整えながら口を挟む。


「確かに治癒室なら彼女の能力を重宝するだろう。だが、僕の計算では、彼女は()()()()じゃない」


「……何、シロフ。まさか、この新人を前線に出すって言うの?」


「その通り。彼女は『M4』を目指すべき逸材だ」


 一瞬、沈黙が起こる。

 アヤメは、今日一番の大きな溜息をついた。


「正気? こんな自傷癖のある子を、あの魔窟に放り込むつもり?」


「……あの、M4って何ですか?」


 茉昼の問いに、今度はアヤメが固まった。


「……は? アンタ、中学生でしょ? 学校で話題にならないわけ?」


「あまり、魔法少女には興味がなくて……」


 アヤメは「信じられない」と頭を抱え、スマホを操作してホログラムを空間に投影した。


「怪人にランクがあるように、魔法少女にも格があるの。ちなみに私はBランク。結構高い方だけど、M4……マジカル・フォーには敵わないね。彼女たちは国内最高のSランク魔法少女、トップ4よ」


 ホログラムには、華やかな衣装に身を包んだ少女たちが映されている。


「実力はもちろん、支持率、メディア露出、経済効果、全てが桁違い。……広報活動も大変なんだから。変身のたびに『愛と正義のなんちゃら!』なんて長い口上言わされたり、決めポーズで静止したりね。商業的にはそれが『カガヤキ』より大事なんだってさ」


 アヤメが冷笑混じりに説明を続ける。


「アンタみたいな、戦う度にボロボロになる魔法少女なんて、()()ないから、一番遠い場所にいるはずなんだけど……」


 茉昼の耳には、アヤメの声はもう届いていなかった。


 ホログラムの中心。

 M4の第1位。

 純白のドレスを纏った、黄金色の髪の少女。


 ――星襾せいあ


 その清廉潔白な笑顔を見た瞬間、茉昼の指先から血の気が引いた。


(あっ)


 忘れるはずがない。

 崩れゆく自宅の前で。

 血の匂いと、瓦礫の音の中で。


 遅れてやってきて、救えなかった両親の遺体を見下ろしながら、彼女はつぶやいた。その側では、怪人の亡骸から青い血が、泉のように流れていた。


「……ごめんなさいね」


 今のホログラムと同じだ。

 あの顔には、美しい笑みが浮かんでいた。

 まるで悲劇の現場さえも、自分が美しく映るためのスタジオセットだと思っているような、完璧で空虚な微笑。


「この人」


 茉昼の声が、幽霊のようにかすれた。


「知ってるの?」


 アヤメの問いに、茉昼は答えない。

 ただ、自分の胸の奥に、今まで感じたことのないドロリとした「熱」が、猛烈な勢いで湧き上がるのを感じていた。


「シロフ」


 茉昼は、ホログラムを見つめたまま言った。


「私、その……この人に会いたい、です」


「では、ランクを上げていかなきゃね」


 肩の上で、白いフクロウが満足そうに目を細めた。

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