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魔法少女★キャンディレッド  作者: ちりあくた
第2章 モモと破滅のシール・ライブ
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第17話 重なる想い! ふたりの痛み!

 ……熱い。

 全身の細胞が沸騰し、溶け出していくような感覚。


 茉昼の意識は、底のない闇へと沈んでいた。モモによって無理やり引き抜かれたキラメキの残滓が、神経の端々で火花を散らしている。だが、その空白になった「器」の中に、別の何かが流れ込んできた。


 それは濾過しきれなかった負のキラメキ。

 星襾の「痛み」の記憶だった。


(……なに、これ)


 視界が、ぐにゃりと歪む。

 気づけば、茉昼は見知らぬ病室に立っていた。


 無機質な機械音。鼻を刺す消毒液の匂い。

 ベッドの上には、今よりもずっと幼く、短い髪の少女が横たわっている。


(星襾……?)


「……脳機能の移植、成功しました」


 白衣を着た大人たちの声が、霧の向こうから聞こえる。


「移植したキラメキは、問題なく彼女の中に保持されています。次の安定化フェーズへ移行可能です」

「彼女こそが、次世代の『核』になる」

「……代償として、感情の起伏は著しく制限されますが、管理局の象徴としては十分でしょう」


 ベッドの上の少女は、何も言わなかった。ただ、人形のような瞳で天井を見つめていた。


 彼女の隣のベッドには、もう一人、同じくらいの年の少女がいた。

 細く息をし、星襾の方を見て、かすかに笑う。


「……ごめんね、星襾。私じゃ、ダメだったみたい」


 言葉と一緒に、彼女の声が、少しずつ薄れていく。

 医療機器の音だけが、やけに大きく残った。


「私が消えても……星襾は、笑っていてね」


 星襾は無表情のまま、隣の少女へ向かって手を伸ばした。

 何とかつかんだ指先に、もう力は残されていなかった。


「……あなたが笑えば、みんなが、救われるから」


 それが最期の言葉だった。

 彼女の瞳から光が消えきった瞬間、病室の空気が、微かにきしんだ。


「……対象B、反応停止を確認」

「予定通りです。次の工程に進めましょう」


 誰かがそう告げ、カーテンが閉められる。


 星襾は、動かなかった。

 涙が浮かびかけ、まつ毛の先で止まる。


 ——落ちてはいけない。


 理由も分からないまま、そんな感覚だけが先にあった。


 白衣の大人たちが、何かを話している。

 内容は聞き取れない。ただ、「成功」という単語だけが、異様に鮮明だった。


 星襾のカガヤキだけでは、キラメキが足りなかった。

 彼女のキラメキだけでは、カガヤキが弱すぎた。


 ……だから「一つにする」のだと、大人は言っていた。


 星襾は、ゆっくりと口角を持ち上げる。

 壊れない形を探すように、何度も微調整して。

 その笑顔が完成した瞬間……彼女の内側で、何かが静かに閉じた。


 それが何なのか、星襾自身にも分からないまま。


(……痛い)


 意識の底で、茉昼が息を詰める。


(痛いよ……星襾、さん)


 星襾の光は、眩しすぎた。

 血や汚れを拒むように、完璧な形を保ち続けている。


(……ずっと、これで立ってきたんだ)


 胸の奥がきしみ続ける。休んだ痕跡など、どこにもない。


 星襾を見る視線が、茉昼自身に重なる。

 罰することでしか立てなかった自分。

 壊れることでしか「希望」でいられなかった彼女。


「……ぁ……」


 現実のスタジアムで、茉昼の指先がピクリと動いた。


 目の前では、血染めの剣を振るう星襾が、怪人カタルシスの猛攻を耐え凌いでいる。


 モモの嘲笑が響き、スタジアムの澱が渦を巻く。

 星襾の背中は、今にも折れそうだった。右腕の傷口から流れる血は、彼女が「偶像」であることを辞めた証。だが、その代償として、彼女を支えていたシステムの守護――「完璧」という名のバリアは、もう不安定な代物だ。


「星襾さん……」


 茉昼は、砕けた仮面を地面に落とし、震える手で赤い杖を握り直した。


 これまでは、彼女を「濾過」するために力を貸していた。

 けれど、今は違う。


(……あの人は、笑顔に縛られてたんだ)


 星襾が背負わされてきた十年の孤独、その全部を理解できなくてもいい。

 でも今度は、装置としてではなく、一人の「人」として。


 ――その痛みを分かち合いたい。


 茉昼の胸の奥で、静かで熱い光が灯り始めた。

 それは、自己犠牲ではない。

 誰かと共に在りたいと願う、初めての純粋な「意志」だった。


「――っ、はぁぁ!!」


 星襾の光の剣と、怪人の触手が真っ正面から衝突し、衝撃波が戦場を揺らす。一歩、また一歩と星襾の膝が折れていく。


「おしまいだよ、『女神さま』! 泥の中でくたばりなさい!」


 モモが、とどめの閃光を放とうと杖を掲げた、そのとき。


 スタジアムの影が、不自然なほどに濃く、深く、うねり始めた。


「こうすればいいんだよね、アヤメさん!」


 茉昼の、そして星襾の窮地に。

 紺青の光を纏った「もう一人の仮面」が、闇を裂いて飛び出した。

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