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魔法少女★キャンディレッド  作者: ちりあくた
第2章 モモと破滅のシール・ライブ
16/28

第16話 ショーは終了! 本気の第1位!?

 ――完璧であること。

 それが、星襾せいあに課せられた唯一の絶対条件だった。


 管理局の最高傑作。誰もが崇める希望の象徴。

 彼女の周囲には常に、汚れを焼き払う清浄な風が吹き、その純白のドレスに泥が跳ねることさえ、世界の理が許さなかった。


 だが、今。

 墜落した彼女の視界に映るのは、ひび割れたアスファルトと、自らの右腕から流れ出す、どす黒い生身の鮮血だった。


「あ……あ、は……っ」


 肺が焼けるように熱い。喉の奥に鉄の味がせり上がる。

 ……これが、初めて知る「痛み」だった。


「うわぁ、見てよ。完璧な星襾さまが、まるで雨に濡れた捨て犬みたい」


 頭上から、砂糖菓子のように甘い、けれど猛毒を含んだ声が降り注ぐ。

 空中に浮遊するモモは、茉昼から奪い取った膨大なキラメキを弄びながら、獲物をいたぶる猫のような目で星襾を見下ろしていた。


「ねえ、どんな気持ち? 自分の身代わりが壊れて、初めて自分の血の臭いを嗅いだ気分は。……あはは! その顔、最高に『映え』てるよ!」


 星襾は、震える左手で激痛の走る右腕を押さえ、泥の中に膝をついた。

 スタジアムを埋め尽くすドローン。数千万人の視聴者。彼らが見ているのは、偶像が崩壊し、惨めに地に伏せる「かつての女神」の姿だ。


(……逃げたい)


 本能が叫んでいた。

 痛いのは嫌だ。汚れるのは恐ろしい。演出することもできず、こんな無様な姿を晒すだなんて……今すぐに消えてしまいたい。


 だが、その絶望を塗り潰すように。

 彼女の胸の奥で、傲慢なまでの「自負」が光り出した。


 ――私は、星襾だ。

 ――この国の、「希望」の頂点に立つ者だ。


「……誰に……口を利いているの」


 かすれた声。しかし、そこには明確な王者の威厳が残っていた。

 星襾は、折れそうな右腕を引きずりながら、ゆっくりと、しかし確実に立ち上がった。


「え?」


 モモの笑みがわずかに凍りつく。

 星襾の全身から、圧倒的な質量を持った光が溢れ出したのだ。

 これまでの「演出」とは一線を画すような、暴力的な光だった。


「カガヤキ解放――『原罪を統べる光冠ルミナス・ジャッジメント』」


 瞬間、スタジアムに吹き荒れていた怪人の毒素が、モモの溜めていたキラメキが、悲鳴を上げるように霧散した。


 これが、星襾が第1位を維持し続けてきた真の理由。


 彼女のカガヤキは、単なる攻撃魔法ではなかった。周囲の空間に存在する「不純物」を強制的に等価交換し、自らの魔力へと変換する、絶対的な支配権。何をもって「不純物」となるか……その判断は、本人の価値基準に依存していた。


 彼女が汚れなき聖女でいられたのは、傷一つ認めない、苛烈なまでの精神を抱いていたからだった。


「……ふぅ。……最低な気分ね」


 星襾は泥だらけの顔を上げ、不敵に笑った。

 その笑みは、台本通りの代物ではない。

 プライドを傷つけられ、本気で怒り狂った人間としての、獰猛な笑みだった。


「モモ。貴方の安っぽい演出には反吐が出るわ。……魔法少女が血を流さないなんて、誰が決めたの?」


 彼女は左手一本で、光の剣を顕現させた。

 右腕の傷口から溢れる血が、剣の柄を赤く染める。


 ――もう、画面の奥に遠慮しても手遅れね。


「……今の私なら、全てを『光』に変えられる」


 星襾の瞳が、黄金色に燃え上がる。

 彼女は地を蹴った。右腕を庇う動作など一切ない。むしろ、傷口から流れる血さえもキラメキの燃料へと変換し、加速の尾を引いて、モモへと肉薄する。


「なっ……速っ!? なんで動けるのよ!」


「舐めないで……私はあなたと違う。この十年、希望を背負ってきたの!」


 光の剣が、モモの防御障壁を紙細工のように切り裂いた。

 

 レナは、遠くからその背中を見つめていた。


 あんなに整っていたドレスは、もうボロボロだ。

 かつての完璧な「女神」ではない。

 けれど。


(……きれいだ)


 改めて、星襾という人間を、心から美しいと思った。


 星襾は、モモと怪人カタルシスの両方を正面に捉え、剣を正眼に構える。

 背後で横たわる茉昼を振り返ることはしなかった。

 ただ、一言だけ、戦場全体に響き渡る声で告げた。


「――そこにいなさい、新人たち。……今は私に踊らせて」


 その背中は、どんな偽りの希望よりも強く、気高く、戦場の闇を照らしていた。

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